お正月の紅白かまぼこは縁起物として定番です(写真:鈴廣かまぼこ提供)

「伝統と革新」とはよく聞く言葉ですが、“守るべきところ”と“変えるべきところ”の境界線はあいまいです。“守るべきところ”に手を入れてしまうとブランドのアイデンティティは失われ、“変えるべきところ” を放置してしまうと時代から取り残されてしまいます。

この2つのバランスをどうとるかは、企業やブランドの行く末を左右する上で重要なポイントです。アパレルブランドを運営している筆者も日々判断に迫られることがありますが、先日一緒にイベントを開催した『鈴廣かまぼこ』の取り組みから多くのヒントを得ることができました。

創業150年に裏打ちされた技と感覚

「鈴廣かまぼこ」は、1865年に神奈川県小田原市で創業した老舗企業です。商品はすべて天然素材だけを使用し、化学調味料や保存料は無添加。かまぼこづくりを「魚の命を人間の命に移し替えるお手伝い」(鈴廣かまぼこのマーケティング担当・鈴木智博氏)と捉えているそうです。かまぼこづくりの中でも特に重要なのが「すり身を作る工程」だと鈴木さんは話します。


マーケティング担当の鈴木智博さん(前方右)を招いてイベントを実施しました(写真:ファクトリエ提供)

「かまぼこの弾力は、網目状に結着した身の繊維を加熱することで生まれます。

身の繊維を結着させるために魚肉に塩を入れて混ぜるのですが、塩が数グラム違ったり、塩を入れるタイミングを誤ったりすると繊維変化がうまくいかず、かまぼこ特有の弾力が生まれません。

弊社には『水産練り製品製造技能士』という国家資格を有する職人が多数在籍しており、臨機応変にさじ加減を調整しています」(鈴木さん)

魚は同じ種類であっても獲れた場所によって性質が異なります。たとえば潮の中で獲れた魚は、岩場で獲れた魚と比べて筋肉質になりがちです。練る時間も、その日の魚に合わせて1分単位で調整しているとのことです。魚のコンディションを把握し、旬を見極め、適した製法が融合してはじめて、おいしいかまぼこが作られるのです。


超特選の「古今」は1本3600円。製造工程を知ると決して高いとは思えない(写真:ファクトリエ提供)

鈴廣かまぼこは自社内に「魚肉たんぱく研究所」を設けています。その目的としてまず挙げられるのが、早期の人材育成です。「従来はベテラン職人の背中を見て学ぶ以外に育成方法がありませんでした。必要な知識と技を身につけるまでに20年の歳月が必要でしたが、 技を理論的に伝える仕組みにより、人材の成長スピードは着実に速まっています」(鈴木さん)。

生産工程の機械化も目的の1つです。水産博士号を持つ研究者が中心となって、魚の水分値、弾力、脂ののり方などのデータを収集。製造工程を科学的に解明することで、職人の感覚に頼らなければならない領域を減らしています。

職人がすべて手仕事で製造する商品もありますが、機械で量産化するラインも最近設けたそう。職人芸の再現には至っていませんが、ラボのデータを活用することで、機械で生産された商品の味を手作り商品の味に近づけています。

同社は、「かまぼこの里」という施設も運営しています。かまぼこ博物館や、かまぼこバー、かまぼこをテーマにしたレストランなどを併設し、さらには食べ終わった板で遊ぶワークショップや伊達巻を使ったパフェづくりというユニークなイベントも開催。さまざまな角度からかまぼこの魅力に触れてもらう取り組みを行っています。

老舗にあって老舗にあらず

食文化の多様化や少子化が進む中において、「食べてもらえればわかる」という姿勢ではファンを増やすことはできません。鈴廣かまぼこは老舗であるという自負を持ちつつも、時代に合わせたアクションを積極的に起こすことでファンを獲得しています。

代々受け継がれてきた伝統を守りつつ、新しい試みを行っている背景には、「老舗にあって老舗にあらず」という社是があります。最高のかまぼこをつくるという理念はいつの時代も同じですが、それを実現するために変えるべきところは変えていくという考え方です。

鈴廣かまぼこは自分たちの理念が明確だからこそ、思い切ったチャレンジができるのでしょう。言い方を換えると、時代にマッチしたアイデアであっても、理念に反するようであれば、実行には移さないということ。たとえばスイーツがブームになったとしても、チーズケーキ味の商品は開発しません。それでは、同社が大事にしてきた繊細な味が損なわれてしまうからです。

薄利多売や値引きに踏み切らないのも同じ理由。価格を下げるためにはコストカットが必要ですが、工程の削減は品質の低下に直結します。漁獲量に影響を受けるため、不漁のシーズンには価格を上げざるをえませんが、産卵期には漁獲を控えて魚の量を増やすことで、商品価格の高騰を未然に防止しています。

森林保全や魚肥製造などの活動も実施

「魚は無尽蔵に獲れるわけではなく、限りある貴重な資源です。現在は、網にかかっても市場ではあまり価値がないために海上投棄されてしまう未利用魚の活用方法も模索しているところです」(鈴木さん)


自然の循環を俯瞰的にとらえたうえで、かまぼこの生産に取り組んでいる(写真:ファクトリエ提供)

視線の向いている先は海だけではありません。魚が食べるプランクトンには、森から川によって運ばれる鉄分が必要なため、地元の林業が持続できるように植林や間伐材の推進を行うなど、森林の環境保全にも注力。

魚から白身を取り出す際にそぎ落とした骨や皮は有機肥料にし、農家の方たちに提供することで作物の栽培・土壌改善につなげています。

森や田畑の恵みは海にたどり着き、おいしい魚が育まれ、そして最高のかまぼこづくりに帰結していくように、これらの活動はすべて、伝統を守ることに結び付いています。伝統を守るために革新があり、革新はやがて伝統に取り込まれ、また革新が起きる。そんな螺旋(らせん)を描きながら企業やブランドは成長していくのだと、鈴廣かまぼこの取り組みから学ぶことができました。