店舗網の拡大が続く居酒屋チェーン「串カツ田中」。2018年2月末の店舗数は177店だが、2018年11月末には国内221店体制を目指す(撮影:今井康一)

大阪名物・串カツを専門にした居酒屋チェーン「串カツ田中」。2018年2月末の店舗数は、直営・FC(フランチャイズ)を合わせて177店(前年同月末は140店)と成長を続ける同社が、4月中旬に東京・日本橋小伝馬町に”ユニークな店舗”を出店する。

店舗の外観や商品はほかの串カツ田中と大きく変わらない。注目すべきはその店で働く人だ。通常の直営店舗であれば社員2人とアルバイト10〜20人程度で運営するが、小伝馬町の新店の従業員は全員が社員。アルバイトは1人も置かない。実はこの店舗、串カツ田中の新入社員を対象とした“研修センター”として出店するのだ。

中途社員のアウェー感をなくす

「ミスマッチを減らしたい」――。串カツ田中の貫啓二社長は研修センター店をオープンする狙いについて率直に語る。


中途入社の社員でも働きやすい環境を作るのが、研修センターの店舗を設置する狙いの1つだ(撮影:今井康一、写真の店舗は五反田店)

厚生労働省の「平成28年雇用動向調査」によれば飲食サービス業の2016年の離職率は30%と、他産業と比較して最も高い。串カツ田中でも入社後1年以内の離職率は30%程度と、その改善は大きな課題になっている。

「新入社員は仲間もできやすいが、中途で入る社員はアウェー感があり仲間もできにくい。いきなり店舗に配属されて、現場と折合わなくなる。結果的に自分が入った会社がいい会社か悪い会社か判断する前に辞めてしまうケースがあった」(貫社長)

こうした問題を解決しようと思いついたのが今回の研修センター店の立ち上げだ。新人教育を専門にする社員を配置して、新入社員の指導に従事させる。「中途採用で入っても仲間ができる。接客や調理のスキルを学んだうえで店舗に配属されるので、アルバイトになめられることもない」(貫社長)。

詳細は決まっていないが、今回の小伝馬町の店舗では一部の商品を割安で提供することも検討しているという。店舗として客数増に向けた独自施策を講じて、研修機会の充実につなげる構えだ。


2月上旬に東京・五反田の串カツ田中本社行われた「串カツ田中アカデミー」の様子(記者撮影)

研修センター店開店に先駆けて、同社は2017年4月から「串カツ田中アカデミー」と銘打った教育プログラムを始めている。社員を対象に階級別に研修を行い、接客シーンなど実践を想定した教育を実施している。

2月中旬に東京・五反田の本社で開かれたアカデミーには店長、副店長を務める12人の社員が集まった。「あいさつするときは1トーン高い声と笑顔を忘れないように」「笑顔の基準は、上の歯6本以上は見せること」。指導係の社員からは、熱のこもった声が響きわたる。

このような座学研修に、研修センター店での実践研修を加えることで、新卒や中途で入社する社員の早期戦力化を目指すのが狙いだ。

業界で異例の四半期ボーナスを導入

串カツ田中が取り組むのは研修制度の充実だけではない。もう1つの改革の柱が福利厚生の充実だ。強化点の1つが有給休暇とは別枠で夏休み・冬休みを拡充すること。2021年までをメドに毎年3日間ずつ増やしていくという。その結果、夏休み・冬休みの日数は2018年は3日間だったのが、2021年には12日間に増加する。


貫啓二社長は1971年大阪生まれ。トヨタ輸送を経て1998年に大阪にバーを開業。2008年に串カツ田中の1号店を東京・世田谷にオープンした(撮影:梅谷秀司)

2つ目はアルバイトからそのまま社員になった人や、そういう人を紹介した社員に報奨金を支給すること。串カツ田中では現在、直営店で1500人のアルバイトが働いており、こうした人材を積極的に社員に登用する構えだ。「ミスマッチを減らせるうえ、活躍する確率も非常に高い」(貫社長)。

これらの取り組みによって求人にかかるコストを抑制し、余ったおカネを社員に還元するのが3つ目の施策だ。具体的には店舗で働く社員を対象に、通常年2回支給されるボーナスとは別枠で、2018年から年4回ボーナスを支給する。1回に支給されるのは3万〜6万円。最低でも年12万円の支給が保証される。外食業界では異例の試みともいえる。

「飲食業界の離職率が高いのは単純にいえば給料が安いから。ただ、今回の取り組みはおカネで釣るというわけではない。一定の水準で給料の支払いを普通にできるのが一流企業の証しだと感じている。外食業界の常識を壊すことをやっていかないと社員は定着しない」と貫社長は強調する。

今回の取り組みを通じて、串カツ田中は入社後1年内離職率を現在の約30%から、今後1年で20%にまで下げる目標を掲げる。定着率向上に向けた同社の取り組みは、外食業界に風穴を開けることができるだろうか。