フジドリームエアラインズの航空機(「wikipedia」より)

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 日本の航空業界においては、1990年代後半より新規参入の動きが目立ってきたが、一般に「格安航空会社」といわれるLCC(Low-Cost Carrier)やRA(Regional Airline:地域航空会社)の多くが就航後、経営不振により大手航空会社の傘下に入るケースが目立っている。

 このような状況のなか、2008年に静岡市に設立されたRA、フジドリームエアラインズ (FDA)は順調にビジネスを展開している。

 FDAの親会社である鈴与の創業は、1801年に初代鈴木与平氏が廻船問屋「播磨屋」を始めたことにまでさかのぼる。現在の鈴与の代表取締役社長である鈴木健一郎氏は創業家の9代目にあたる。

 FDAは、鈴与の8代目で現会長の鈴木与平氏により08年に設立され、翌09年より就航を開始している。鈴与の100%子会社であり、本社は静岡市に所在している。

 FDAはLCCではなく、「特別に定義するならRA」と自認している。他社と比較するなら、JAL(日本航空)やANA(全日本空輸)などのFSC(Full Service Carrier:基本的に預け荷物や機内食などのサービス料金が航空運賃に含まれる、従来からある航空会社)は、サービスをそれに適した価格で提供し、LCCはサービスの簡素化による低価格を実現している。

●コスト削減で「適正価格」実現

 一方、FDAはイメージとしてはFSCと同等のサービスを少しお値打ちな価格で提供するともいえるが、あまり立ち位置ははっきりしていない。むしろ、あえてはっきりさせていないと捉えるべきであろう。一見あいまいに思えるかもしれないが、こうした柔軟性により、ライバルや顧客の動向といった環境要因の変化に迅速に対応することを強みとしている。

 機材にはブラジル・エンブラエル社の170 ファミリー(170と175)を採用している。170の定員は76席、175は84席となっている。通常、このサイズの機材は座席が狭く、荷物を機内に置けないなどの問題があるものの、170ファミリーは円を2つ重ねた構造となっており、客室の空間、窓なども広く、十分に荷物を置くスペースが確保されている。シートに関しては大手FSCのエコノミーよりも横幅が3センチ広く、快適な空の旅を実現している。ちなみに、170と175の2種類の機材があるものの(計11機)、保守などの作業はほぼ同じであり効率的に行われている。

 FDAの価格に関する基本的なスタンスは、安売りではなく“適正な価格”ということである。具体的には、LCCのように低価格を実現するためにサービスを削減するのではなく、まずは乗客に空の旅を楽しんでもらうことを何よりも重要視し、サービスに一切の妥協はない。

こうした前提のもと、FSCよりお値打ちな価格を実現するために、顧客に見えない部分での徹底したコスト削減が行われている。たとえば、機内において無料で提供されるお菓子やコーヒーなどを購入している企業は単なる仕入先ではなく、FDAのスポンサーとして低価格での仕入れ、FDA機内誌への広告出稿などを行ってもらうことにより、コストを削減している。

 さらに、機材の回転率を向上させることによるコスト削減にも精力的に取り組んでいる。そのために、まず機内の清掃は大手FSCであれば専門業者に委託するところ、FDAでは客室乗務員が担当している。これにより、清掃にかかわるコストが削減されるのはもちろんのこと、時間の短縮にもつながっている。大手FSCの場合、到着から出発まで通常1時間かかるところ、FDAでは25分と半分以下の時間で行っており、こうした積み重ねにより1日の便数を増加させることに成功している。

 25分という極めて短時間での離発着を実現している要因には、客室乗務員による清掃のほか、関連会社であるエスエーエスによる迅速な地上取扱業務、約80席という小型機の強みを生かした短時間での乗客の乗り降りなども大きく影響している。つまり、他社が簡単には模倣できない仕組みによる低コスト化を実現しているわけである。

●FDAの広告戦略

 いまやインターネットの時代といわれるが、費用対効果を見ると、やはりテレビCMは効果的である。特に地方部では強い影響力を保持している。たとえば、テレビCM直後の乗客数は小牧発では130%アップ、松本や山形発170〜180%アップという状況である。そのため、ネットの時代とはいえ、既存のマスメディアも利用したプロモーションが展開されている。

 しかしながら、テレビCMを頻繁に流せば多くの資金が必要となるため、コストを抑えつつ認知度を高める取り組みとして、ラジオなどのメディアも活用している。

 具体的には、FDAの客室乗務員がその日のFDAの運行情報を伝える『名古屋小牧空港フライトインフォメーション presented by FDA』という番組を月〜金曜日の朝にFM愛知で放送している。番組の放送時間自体はわずかではあるが、毎日行うことによりリスナーへのFDAの“刷り込み”が意図されている。

 低価格のみを前面に打ち出すLCCでは通常、マスメディアを活用した広告は行われていない。一方、大手FSCは有名芸能人を採用したマスメディア広告が頻繁に行われている。基本的な経営戦略とも重なるが、FDAの場合はこうしたことに確固たるスタンスをあえて決めず、“コストを抑えるために広告は行わない”ではなく、“効果のあるものは積極的に行っていく”という方針となっている。

 また、FDAといえば、レッド、ピンク、イエロー、グリーンなど、派手な機材のカラーが話題となることも多い。こうしたカラーリングを行ったきかっけは、小さい機体はどうしても地味に見えるため、存在感を増すことが目的だった。現在、顧客の中には、「今日は何色かな?」と楽しみにしている人もいるという。さらに、新しい機材が導入されるたびに、「次は何色?」などと興味を誘うようにテレビのニュース番組などで取り上げられ、広告効果は抜群のようである。自社のウェブサイトにおいて「次号機は何色?」キャンペーンなども実施されている。

 こうした取り組みには、補修用のペンキの種類が多くなるなどのデメリットはあるものの、費用を大きく上回る効果を得ている状況である。

●チャーター便によるビジネス展開

 FDAの旅客機の80名という定員は、おおよそバス2台分に相当する。こうした特性を生かし、旅行会社向けに機材をまるごと貸し出すチャータービジネスにも着手している。行き先は全国の主要な都市に加え、利尻島や久米島などの離島も人気だという。離島は乗継などで時間がかかるケースも少なくはなく、チャーター便の強みがより発揮される。

 また、離島で200人規模を受け入れることができる宿泊施設は極めて少なく、大手FSCの機材の定員を受け入れることは難しい。旅行を企画運営する旅行代理店のなかには、多くの会員を抱えている代理店も少なくはなく、80名程度なら高い確率で集客が見込めるため、リスクも低い。さらに、価格競争が激しい業界において、客単価の高いチャーター旅行は代理店にとって大きな利益をもたらす商品となる。

 一方、顧客にとって、近くの空港からダイレクトに目的地に到着できる利便性は高く評価されており、さらにはチャーター便という響きに特別感や優越感を抱く顧客も少なくはないであろう。またチャーター便での旅行という特別な商品を扱う旅行会社に対して、顧客がプレミアム感のようなものを感じる可能性もある。最後にFDAにおいても搭乗率などを気にする必要がなく、収益性のよいビジネスであると捉えられている。

 小型機の強みの追求、市場環境に対応した柔軟かつ迅速な行動、全社一丸となった徹底した独自の取り組みなどによる差別化は航空業界を超え、多くの企業が参考にすべき重要なポイントであるといえるだろう。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)