てんやの店舗(「wikipedia」より)

写真拡大

 手頃な価格でおいしい天丼が食べられるとして人気のある「天丼てんや」だが、今後、より多くの人が利用できるようになりそうだ。

 持ち株会社のロイヤルホールディングスは、てんやを2020年までの3年間で国内に62店、海外に37店、出店すると発表した。現在、国内で約200店、海外で18店を展開しているが、国内外合わせて300店以上を展開していく考えだ。

 てんやはこれまで首都圏を中心に出店を重ねてきたため、国内店舗の約8割が関東地方にあり、そのため、それ以外の地域ではあまり馴染みがないかもしれない。しかし、今後は他地域でも出店を加速していき、あまり慣れ親しんでいなかった人の目にとまる機会も増えていくだろう。人気が上昇しているとはいえ、吉野家やすき家などと比べるとまだまだ認知度は低い。しかし、出店攻勢により同レベルで名を馳せる日が来るのはそう遠くないのかもしれない。

 国内のてんやでは、エビや魚介類、野菜を揚げた天ぷら5品がごはんの上に載った「天丼並盛」(みそ汁付き)を500円(税込、以下同)という安さで食べられることがうけて人気を博してきた(現在は値上げしたため540円)。

 安さの秘密は、独自開発した天ぷら自動揚げ機械「オートフライヤー」にある。天ぷら粉をまぶした食材をベルトに載せてそのまま油の中を移動させるだけで揚げられるため、未経験者でも短期間の訓練を受けるだけで調理できるようになった。熟練の職人でなくてもおいしい天ぷらを揚げることができるようになったため、人件費を抑えることができ、その分価格を抑えて提供できるのだ。

 食材の品質の高さも人気の秘密だ。てんやのエビは安価なバナメイエビではなく、より大型で人気のあるブラックタイガーを使用している。ブラックタイガーはベトナムなどにある河口のマングローブを利用した囲いの中で育てられている。天然のプランクトンをエサとし、自然に近い環境で育てられているため質が良い。

 天ぷら粉は創業時から日清製粉グループの日清フーズと共同開発を重ねてきた。油は日清オイリオに特注して開発した植物油を使用している。こうした独自の天ぷら粉と油を使用することでサクサクの食感を実現し、また食材のおいしさを引き立てることに成功している。

●さまざまな施策で幅広い客層を獲得

 てんやでは「天丼」を筆頭に定番メニューが抜群のコスパを誇り人気を集めているが、年に8回ほど投入する季節限定メニューも人気だ。

 たとえば、2月15日からは、季節限定メニューとしてイタヤ貝小柱、赤魚、エビ、イカ、セリ、穂先タケノコ、焼き海苔の天ぷらを載せた「春一番天丼」(860円)と、三元豚ロースとマイタケ、インゲン、レンコンの天ぷらと半熟タマゴ、刻み柚子を載せた「三元豚ロース天丼」(740円)を販売している。

 季節限定メニューで使われる天ぷらの食材は定番メニューではあまり使用されない旬のものが選ばれる。また、並行して鶏肉や豚肉、牛肉の天ぷらを載せた天丼も販売している。先ほどの例でいえば、「三元豚ロース天丼」がそうだ。こうしたバラエティに富んだ天丼を定期的に投入することで客を飽きさせないようにしている。

“ちょい飲み”も人気だ。2013年1月から「ちょい飲みメニュー」の販売を20店舗でスタート。現在は全店で展開し、ビールや日本酒、ワインなどのアルコール、揚げ物を中心としたおつまみを販売するほか、天ぷら4品に生ビールをセットにしたメニュー(630円)など、てんやならではのちょい飲みメニューもそろえている。

 テイクアウトが果たす役割も見逃せない。職場や自宅で食べたい人を取り込むことはもちろん、主婦の取り込みにも成功している。天ぷらをつくりたくても、後片付けが面倒といった理由で敬遠してしまう主婦は少なくない。そういった主婦が、てんやのテイクアウトを利用しているのだ。

 てんやは会社員から主婦、シニアまで幅広い客層を取り込むことに成功した。てんやの第1号店が東京駅八重洲地下街に誕生したのは1989年9月。19年後の08年7月には中国・上海に海外第1号店を出店している。これまで国内外で店舗網を拡大してきたが、今後の出店攻勢でさらなる成長を実現したい考えだ。

●てんやの不安要素

 こうしてみると、てんやは順調に成長していると思われるかもしれない。ただ、必ずしもすべてが順風満帆というわけではない。競争の激化で既存店売上高が低下していることが大きな懸念材料となっているためだ。

 以前は既存店売上高が順調に伸びていた。前年からの増減率は、12年が2.2%増、13年が6.4%増、14年が8.1%増、15年が3.6%増、16年が0.2%増となっており、長らく増収を続けてきた。しかし、17年は2.1%減と一転して減収に陥ってしまったのだ。競争の激化によりてんやの競争力が落ちてきている状況にある。

 1月11日から実施した値上げも懸念材料だろう。6種類のメニューを10〜50円値上げした。看板メニューの「天丼」は500円から540円になっている。定食のご飯は、これまでの「お替わり自由」を取りやめ、代わりにごはんの大盛りを無料としている。

 これにより客離れが起きた。実施した1月の客数は前年同月比3.3%減った。翌2月は5.1%減となっている。値上げにより割安感が薄れ、それを嫌気した人がてんやから離れていったとみられる。

 原材料費や人件費、物流費などのコストが上昇していることを考えると値上げは致し方ない面がある。17年のてんや事業の経常利益が前年から約4割も減っている状況だからだ。ただ、これほどの客離れは無視できないものがある。今後の経営を揺るがしかねない。

 とはいえ、客離れは起きたものの客単価が上昇したため、既存店売上高は比較的軽微な減少で済んでいる。前年同月比1月が0.4%減、2月が0.9%減となった。17年が2.1%減だったことを考えると、減少幅が縮小したと考えることもできる。そのため値上げが必ずしも失敗だったとはいえないだろう。

 値上げしてからまだ2カ月しかたっていないため、その影響は読みきれない。一方で店舗網は拡大していくため、成長は大いに期待できる。てんやの今後に注目していきたい。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)