「Thinkstock」より

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 2011年の東日本大震災を契機に脱原発が加速する日本で、代替電力としての再生エネルギーが着実に供給量を増やしつつある。しかし、再生エネでの発電量は心もとないレベルでしかない。そうしたことから、政府や経済産業省は原発再稼働に向けて動き出している。その一方、原発が再稼働できない事態に備えて、石炭火力発電所の建設も急いでいる。

 15年に採択されたパリ協定では、世界各国が二酸化炭素(CO2)の削減に取り組むことが盛り込まれた。日本もCO2削減に努める立場にあるが、このまま石炭火力発電から撤退しなければ、世界からそっぽを向かれることは確実だ。政府にはそうした逆風を気にする様子もなく、石炭火力発電所の新設は進んでいる。環境省職員は言う。

「日本の政財界は石炭価格が安価なため、石炭火力は安いと認識しているのです。『石炭火力発電から撤退してしまうと、電気代が高くなり製造業などは大打撃を受けるから、石炭火力の推進』という場当たり的な見方しかしていないのです。ところが、石炭火力発電所は、もはや座礁資産化しています。世界の機関投資家も石炭火力発電関連から資金を引き揚げることを表明しており、長期的な視点に立てば石炭火力の推進は日本経済にとってもマイナスといえるでしょう」

 CO2削減のため、環境省は石炭火力発電所の建設を取り止めるように意見書などを提出している。それも“意見”にとどまり、強制力はない。そうしたことから、電力会社は「原発再稼働の予定が見えないなかで、代替電源として石炭火力は不可欠」と強弁する。そうした開き直りとも受け取れる態度に対して、同職員は反論する。

「原発は再稼働しなくても、電力需要を満たしています。これは、東日本大震災のときに国民や事業者が省エネに取り組んだ成果です。経済が活性化すれば、今以上に電力需要が伸びることは想定できますが、それらは再生エネで賄うというのが、今後を見据えた考え方でしょう。実際、イギリス、フランスといったヨーロッパ諸国のみならず中国でも、CO2削減に向けて石炭火力から撤退を始めています」

●小規模石炭火力発電の存在

 苦しい立場にある政府は、CO2削減と石炭火力による電力の安定供給という、相反する政策を同時に進めようとしている。その秘策とされているのが、老朽化した石炭火力発電所を高効率の石炭火力発電所に建て替えることだ。最新型の石炭火力発電所は高効率で発電できるが、「高効率の石炭火力発電とはいえ、天然ガス発電よりも多量のCO2を排出することには変わりはない」(同)。

 しかし、いくら環境省が石炭火力発電所の建設を中止するように強く求めても、それは意見表明という力しか持たない。環境省には、石炭火力発電所の建設計画を撤回させる強制力はないのだ。また、仮に環境省が石炭火力発電所の建設計画を撤回させることができても、実はその建設には抜け道も存在する。それが、小規模石炭火力発電の存在だ。

 石炭火力発電所は、環境影響評価法に則って環境アセスメントを取得することになっている。しかし、発電容量が11.25kWを下回る小規模石炭火力発電所は環境影響評価法の対象にならない。実質的に同発電所には規制がなく、つくりたい放題になっている。

 電力を販売することで利益をあげる電力会社では小規模火力発電所は非効率で利益をあげにくいが、自社工場で使う電気ならそれでも十分だ。そのため、製造業大手では工場の隣接地に発電所を設置するケースも珍しくない。

 経産省も新設される小規模石炭火力発電所については把握しているが、「すでに建設されている小規模石炭火力発電所については各エリアで把握しているだけ。国内全体で何基稼働しているのかを、本省は正確に把握していない」(経産省職員)という。

 電力事業の監督官庁である経産省のあずかり知らぬところで、小規模石炭火力発電所が稼働し、そしてCO2が排出される。1基あたりのCO2の排出量が小さいとはいえ、チリも積もればCO2排出量は莫大になる。

 規模の大小を問わず石炭火力はCO2削減の大敵というのが世界の共通認識であり、環境省も小規模石炭火力を問題視するようになり、省内で検討を開始した。しかし、日本の脱石炭は遅きに失したといわざるを得ない。このまま石炭火力推進を続ければ、日本は確実に脱石炭で、なにより経済的にも世界から孤立してしまうだろう。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)