1月に日本で開催されたeスポーツ大会「EVO Japan」では7000人以上の参加者、2万2800人以上の来場者を記録した(筆者撮影)

海外ではすでにプロスポーツの1つとして発展しつつある「eスポーツ」。億単位の高額賞金がかけられた大会が開催され、億単位の年収を得ているプロゲーマーもいます。日本人の中にもすでに大会で賞金を稼いだり、スポンサー契約をしたり、プロゲーマーとして活動している人も多数存在します。全世界の競技人口は数千万人から1億人オーバーといわれており、ゴルフやテニスと同等の競技人口がいるほどの規模になっているのです。

今年2月1日には日本eスポーツ連合(JeSU)が設立され、日本のeスポーツが本格的に始動しました。

eスポーツは、エレクトロニック・スポーツの略で、いわゆるデジタルゲームをスポーツとして参加、観戦する大会やイベントを指します。3月7日にはよしもとクリエイティブ・エージェンシーがeスポーツに参戦すると発表しました。よしもとクリエイティブ・エージェンシーはプロチームの運営、配信事業、イベント事業の3つの事業を展開するとしており、どれも大手芸能事務所にとって得意分野であり、eスポーツが大きく飛躍する可能性を秘めています。

筆者はここ2〜3年eスポーツを取材しており、プレーヤーとしてもeスポーツ大会に参加しています。本記事では、日本のeスポーツの現状や問題点について考えていきたいと思います。

文化や法整備の違いから出遅れてしまった日本

2017年7月に格闘ゲームのeスポーツイベント「Evolution2017(通称EVO)」が米ラスベガスで開催されました。この大会の『ストリートファイターV』部門で、東大卒のプロゲーマー、ときど選手が優勝。このことがテレビ番組でも特集され、eスポーツやプロゲーマーについての見識が少しずつ深まる契機となりました。

そして、今年1月に開催されたのが、日本版のEVOである「Evolution Championship Series Japan 2018(通称EVO Japan)」。参加者は延べ人数で7119人、来場者は2万2857人と、プロ野球やJリーグなど人気スポーツの集客に迫るものとなりました。

さらに、2022年中国・杭州で開催予定のアジア競技大会ではeスポーツがメダル種目となることが発表されています(今年のアジア競技大会では参考種目)。もはやゲーム好きが集まってゲーム大会を開いている、というレベルではなくなってきているわけです。

ただ、日本は文化や法整備などの違いから、eスポーツに関しては出遅れてしまった感があります。

文化的な面から言うと、デジタルゲームは日本では子どもの遊びであり、趣味としても低俗な印象をもたれがちです。またスポーツを運動としてとらえる人が多く、体を使わない、汗をかかないeスポーツはスポーツの範疇に入れられないと考えている人が多くいます。

ちなみにスポーツを英和辞典で調べると、「運動」という意味以外に「競技」や「娯楽」といった訳も書いてあります。文化的な面に関しては徐々に理解を広めていくほかはないと思われるので、少しずつ啓蒙し、実践していくしかないでしょう。

日本の法律の都合上、賞金を受け取れない?

また、日本のeスポーツ大会では高額賞金を出せない、海外の大会の高額賞金を受け取ることもできないという法的な問題もあります。

たとえば昨年開催されたPC版『レインボーシックス シージ』プロリーグではシーズン3から日本を含めたアジア4地域からの参加が可能になりました。しかし、「日本チームが優勝した場合、日本の法律の都合上、賞金を受け取ることができません」というただし書き付きです。日本のeスポーツ大会では高額賞金が出せないというのが、業界標準になってしまっているようです。

海外で開催されている大会の賞金額と比べ、日本での賞金額が低めに設定されていることは、eスポーツが盛り上がりに欠ける要因の1つになりますし、プロゲーマーを職業として選びにくくなります。

日本で開催するeスポーツ大会の賞金を高額に設定することができない理由は、3つの法律にあります。景品表示法、風俗営業法、賭博罪です。

eスポーツ大会で使われるゲームの会社が賞金を出すと、景品表示法に抵触するのではないかとメーカーや主催者は解釈しています。ゲームを買って練習したほうがいい成績を残しやすいという点から、大会自体がゲームの販促につながるとみられており、その場合は10万円もしくはゲーム代金の20倍までの賞金額しか出せなくなっています。

たとえば、『ストリートファイターV アーケードエディション』はメーカー通販サイトでは5389円で販売しているので、ゲーム価格の20倍が10万円を超えてしまいます。したがって、『ストリートファイターV アーケードエディション』で大会を開く場合には、賞金の上限は10万円となるわけです。

2つ目が風俗営業法です。同法ではゲームセンターでゲーム大会を開き、ゲームセンター経営者などが賞金を出すことを法律上禁止しています。また、定期的なイベントとすることも風俗営業法に引っかかってしまう可能性があります。

3つ目が賭博罪です。同法は参加者から参加費を徴収してそれを賞金に充当することを禁止しています。

ただ、これらの法律による規制は、いずれも工夫次第で回避できる可能性があります。

景品表示法については、ゲーム大会で使われるゲームを販売していない会社や団体が賞金を出せば回避できそうです。そもそも無料のスマホアプリのゲームで課金による優劣をつけずに対戦すれば問題がないはずです。

風俗営業法については、風俗営業法が規制する施設で大会を開かなければクリアできそうです。eスポーツ専用施設も登場しはじめていますし、高額賞金が出せるほどの人気タイトルの大会の場合、大型屋内施設を使用することになるので、ゲームセンターで大会を開くことは現実的ではありません。eスポーツと呼ばれる以前にゲームセンターが店舗ごとにゲーム大会を開いていた時代の話をもとにした解釈が広まっているのではないでしょうか。賭博罪に関しても、スポンサーが賞金を出し、参加費を無料にすればクリアできそうです。

しかしながら、こうした点についてはあまり言及せず、「日本では高額賞金が出せない」と信じられているのが現状です。


2月10〜11日に幕張メッセで開催されたゲームの祭典「闘会議2018」のステージに登壇し、JeSUによるプロライセンスの発行について語るJeSU代表理事の岡村秀樹氏(写真中央)と理事の浜村弘一氏(右)(筆者撮影)

3つの法規制により高額賞金が出せない状況をクリアしようとしているのが、JeSUです。彼らは参加者にプロライセンスを与えることで、賞金を仕事による報酬とし、高額賞金の受け取りができるようにしようと考えています。

その根拠として挙げられているのが、ゴルフトーナメントです。賞金が出る大会でも、賞金や賞品の受け取りを放棄することを宣言すれば、アマチュアも大会に参加できるようになります。アマチュアが優勝した場合は、優勝賞金は次に成績のよいプロゴルファーが受け取ります。

アマチュアが高額賞金を獲得できる大会は存在する

2016年の日本女子オープンゴルフ選手権では、まだアマチュアだった畑岡奈紗選手が優勝しましたが、賞金は2位の堀琴音選手に渡りました。確かにこの例だけを見るとプロライセンスがあることで、賞金を得ることができるように思えますが、この規定は日本ゴルフ協会(JGA)のアマチュア規定に則っているだけで、景品表示法にかかわりがあるかどうかは言及されていません。

そもそも日本女子オープンゴルフ選手権を主催しているJGAはオフィシャルスポンサーにNECがおり、ほかにも多数の協賛会社が存在します。つまりゴルフと直接かかわりのない企業がスポンサーになっているので、景品表示法自体にかかわるかどうかも微妙なところです。

スポーツのカテゴリーではないですが、ほかにもアマチュアが参加し、高額賞金を獲得できる大会がいくつか存在します。

将棋の8大棋戦の中にはプロ棋士でなくても参加できる棋戦が2つあります。竜王戦と棋王戦です。竜王戦は優勝賞金が4320万円の高額賞金がかかっています。竜王戦ではゴルフとは違いアマチュアが優勝しても、賞金は問題なく得ることができます。


「闘会議2018」でパズドラ大会の成績上位者にプロライセンスがJeSUから贈られた(筆者撮影)

カードゲームの「マジック・ザ・ギャザリング」のイベントの1つ「グランプリ」は参加資格を特に設けておらず、アマチュアが参加可能です。優勝賞金は個人戦で1万ドル、チーム戦で1万5000ドル(1人あたり5000ドル)となっています。ほかにも漫才や音楽、絵画などのコンクールでアマチュアに賞金を出しているところも多々あります。

つまりゴルフを一例にして、プロ化をしなければ景品表示法の規制を逃れることができない、と言及するのは言い過ぎといえるでしょう。

JeSUはすべてのゲームタイトルにプロライセンスの発行をしているわけではなく、公認タイトルとして認定したゲームだけにプロライセンスを発行しています。JeSU発足時の公認タイトルは、『ウイニングイレブン2018』『コール オブ デューティ ワールドウォーII』『ストリートファイターV アーケードエディション』『鉄拳7』『パズル&ドラゴンズ』『モンスターストライク』の6タイトルです。

これ以外にも随時増やしていくとしていますが、JeSUが認定しているタイトル以外には高額賞金を出せない、もしくは大会自体を開いていないかというと、そうではありません。

たとえば、『LEAGUE OF LEGENDS』や『OVERWATCH』などの大会を運営するJCGという団体があります。そこでは特にプロライセンスの発行はしていませんが、高額賞金をかけたeスポーツ大会はすでに開催しています。


EVO Japanでは5タイトルそれぞれの優勝者に60万円の賞金が授与されました。写真は『ストリートファイターV アーケードエディション』で優勝したインフィル選手(筆者撮影)

2018年1月に日本で初開催された「EVO Japan」では、『ストリートファイターV アーケードエディション』や『鉄拳7』などの対戦格闘ゲーム7タイトルによる大会が開催されましたが、そのうち5タイトルが賞金のある大会で、優勝賞金は60万円となっていました。高額といえる額ではないかもしれませんが、確実に景品表示法の上限である10万円を超えた金額です。これもJeSUのプロライセンスにはかかわっていないようです。

プロゲーマーから懸念の声も…

そもそも、プロ化をすればクリアできるのか、プロ化をしたところで日本で高額賞金を受け取るのは難しいのか。それすら明白になっていません。

プロライセンスの発行についての基準もあいまいなところがあり、海外選手が日本の大会に参加する場合のライセンス発行についての規定もあいまいです。

すでに企業からスポンサードされているプロゲーマーの中には、プロライセンスの発行について、選手不在で決められたことを懸念している人もいるようです。プロスポーツとしてとらえるのであれば、観客に見せることを前提としているわけですが、現時点ではその観客も置き去りになっていると言わざるをえません。今からでも議論をオープンにしていくべきではないでしょうか。

ようやく芽吹いてきたeスポーツの芽を摘むようなことにならないことを願う次第です。