パートやアルバイトというような非正規雇用が増え続けている現代。いわゆるフリーターと呼ばれているアルバイトやパート以外に、女性に多いのが派遣社員という働き方。「派遣社員」とは、派遣会社が雇用主となり派遣先に就業に行く契約で、派遣先となる職種や業種もバラバラです。そのため、思ってもいないトラブルも起きがち。

自ら望んで正社員ではなく、非正規雇用を選んでいる場合もありますが、だいたいは正社員の職に就けなかったため仕方なくというケース。しかし、派遣社員のままずるずると30代、40代を迎えている女性も少なくありません。

出られるようで、出られない派遣スパイラル。派遣から正社員へとステップアップできずに、ずるずると職場を渡り歩いている「Tightrope walking(綱渡り)」ならぬ「Tightrope working」と言える派遣女子たち。「どうして正社員になれないのか」「なぜ派遣を選んでいるのか」を、彼女たちの証言から検証していこうと思います。

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今回は、都内で派遣社員として働いている樋口梓さん(仮名・22歳)にお話を伺いました。ダウンヘアの肩までの黒髪は、少しごわついているよう。胸元に刺繍が入ったボヘミアン風のチュニックに、黄色のフレアスカートを合わせていました。あまり手入れのしていない地眉にまつげを生かしたナチュラルメイクで、口元はグロスだけ塗られていました。ナイロン素材のトートバッグには、ディズニーキャラクターのキーホルダーが付けてありました。「高校を出るまで、あまりメイクをしたことがなかったので苦手なんです」と語る梓さん。

現在は、派遣社員として、物流センターの事務として働いています。「元々は配送業者の事務で働いていたので、経験を生かした形です」
彼女は東京都北区出身。線路工事の仕事をしている父と、小規模スーパーで働いている母、5歳上の兄の4人家族。

「兄とは年が離れていたのですが、私が小学校に上がると一緒にサッカーのドリブルの練習をしたり、かけっこをして遊んだりしてくれました」

運動神経が良かった兄と一緒に、休みの日は公園でよく遊んでいたと言います。

「父は夜勤もあったので、昼間は家で寝ていることもあり、うるさくすると怒られたんです。学校から帰ると、ボールを持って公園に行っていました」

両親ともに長身だったため、彼女も成長期になると背が伸び始めます。小学校までは、吹奏楽部に所属していた梓さんですが、背が高いために中学では運動部にスカウトされます。

「小学校の高学年に上がると、背が伸び始めて160cm近くになっていたんです。1人だけ大きくて、目立つので嫌でしたね。吹奏楽部でも、背が高かったので打楽器を担当していました。中学では、バスケやバレーボール部の生徒から一緒にやらないかと誘われて、バスケ部に入部しました」

結局、中高6年間バスケットボール部を続けます。

「兄の部屋にあったバスケの漫画がきっかけですね。アニメの再放送も観ていたので、バスケってかっこいいって思って始めました。ポジションはセンターでした。相手から体当たりされたり、足を捻挫したこともありますが休まなかったですね。通っていた中学の部活は、厳しかったのですがあまり強くはなかったんです。地区大会のリーグ戦で2回戦まで進めるかどうかくらい。それでも、バスケは続けたかったので、バスケ部がある都内の女子高に進学しました。一番重要視したのは、バスケを指導してくれる教員がいるかどうかでした。兄ももう成人して働いていたので、なんとか私立に進学するのを許してもらえました」

バスケを優先するあまり、学業が疎かに。高卒で就職へ……

部活では、体育館を使った週4回の練習以外にも、トレーニングルームを利用した筋トレや夏の合宿なども行なっていました。

「高校は、元々はバスケ部が強かったみたいなのですが、スポーツ推薦で進学してくる生徒が減ったので、私が入学したころはそんなに強くはなかったですね。でも、私は昼休みも友人とバスケの練習をしていました」

部活動に熱心になるあまり、学業が疎かになっていきます。

「高校は、大学進学を目指すコースと、専門や就職を希望するコースに分かれていて、私は就職希望のクラスにいました。高校に入ったら、数学の授業についていけなくなって補講を受けていたんです……。歴史とかも試験のために勉強はするのですが興味が持てなくて、大学や専門には行きたくないって思いました。進路相談では、先生から専門だけでも進学してみたらと勧められたのですが、働いてお金を稼ぐ方がいいなって思ったんです」

高3になると、就活を始めました。高校のOGが働いている企業や、ハローワークに来ている求人から高卒以上がエントリーできる企業を探し、かたっぱしから受けます。

「高校を卒業するタイミングで就職をしないと、フリーターになってしまうんじゃないかって不安だったんです。先輩にも、仕事を辞めたりを繰り返している人が多かったので、どこでもいいから就職しようって決めました。本当は、バスケの実力があれば企業の社会人チームに所属がしたかったんです。でも、どこからも勧誘もなかったし、働きながらバスケを続けたいって思って。なかなか面接まで進めなかったのですが、高3の終わりごろに配送業者の事務で採用されました。就活の面接では、バスケに打ち込んだことをアピールしたんです」

なんとか就職できた梓さんは、配送業者の営業所で内勤業務を担当することになります。

「体育会系の社風だと聞いていたのですが、自分が配属された部署の上司は、繁忙期になると、声が大きくなるタイプで……ミスをすると大声で怒鳴られるのが嫌でしたね」

バスケでは、センターのポジションだけではなく、ポジションを替えて行なう練習が好きだった。

体育会系の会社は、休日出勤も残業も夜勤もサービス業務!?さらに、深夜のクレーム対応でどんどん疲弊していってしまい、大好きなバスケもできなくなって……〜その2〜に続きます。