陸自「16式機動戦闘車」など、一見戦車のようで車輪がついているものを「装輪戦車」などと呼称しますが、いまこれが世界の陸戦のトレンドとなっています。その背景にはなにがあるのでしょうか。

近代陸戦のトレンドとなった「装輪戦車」

 世界の陸軍において、「装輪戦車」という装備が注目を集めています。21世紀に入り、世界中で続々と誕生しており、近代化軍隊のトレンドとも言えます。


陸上自衛隊の16式機動戦闘車。「装輪戦車」という、いま世界各国の陸軍が注目するジャンルにあたる装備(菊池雅之撮影)。

 日本もこうした流れに乗り、「16式機動戦闘車」を完成させました。部隊では、英語表記であるManeuver Combat Vehicleの頭文字を取り「MCV」と略して呼びます。2007(平成19)年より開発がスタートし、2013年に試作車が報道公開されました。量産型の配備は2016年から開始されました。喫緊の課題である島嶼防衛や陸上自衛隊の新戦術を行使する上で必要不可欠な存在です。

 装輪戦車は、足回りをタイヤとした戦車のようなシルエットの装備を指します。装甲車の誇る高い走破性、戦車が有する攻撃力、これらをあわせ持つ存在です。

 世界中で注目されだしたのは最近の事ではありますが、コンセプト自体は昔からありました。積極的だったのはフランス軍です。第2次世界大戦前から研究をしていました。これまでもいくつか実用化しており、現在配備しているのがAMX-10RCと呼ばれるものです。1978(昭和53)年より配備を開始しました。戦車に準ずる攻撃力、そしてこれまで配備してきた軽戦車等を補う存在として、レバノン紛争、チャド紛争、湾岸戦争、ユーゴスラビア紛争と、いくつもの戦場にも投入されてきました。

 これに続いて、イタリアのチェンタウロ(1991〈平成3〉年)、南アフリカのロイカット装甲車(2000〈平成12〉年)、中国の11式水陸両用突撃戦闘車(2011〈平成23〉年)が開発されていきます。日本が最も影響を受けたのが、アメリカ陸軍が採用したM1128ストライカーMGS(Mobile Gun System)です。

コンセプトは「一刻も早く展開」

 東西冷戦が終結し、日本はこれまでの北海道の守りを固める北方重視の考えを改めることになりました。2000年に入ると、世界が対テロ戦争の時代に突入したこともあり、国内に潜伏したテロリストやゲリラなどの武装集団が、突如として東京や大阪など大都市圏で戦争を仕掛けてくる可能性も出てきました。

 そこで、これまで北から南まで満遍なく部隊を配置し、戦車を中心とした戦闘団を構成して守りを固めていた「基盤的防衛力」という考えを改め、必要な場所へと部隊を派遣し、増強する「動的防衛力」へとシフトします。

 ただし、既存のすべての装備を、海自の輸送艦などで運ぶには限界があります。陸路で移動するにしても、スピードの異なる戦車と装甲車では展開能力に差が生じます。とにかく最初に駆け付けることだけを考えれば、ヘリや装甲車で移動できる普通科(歩兵)部隊が最も迅速です。しかし打撃力を考えると戦車も欲しい。けれども戦車は一緒に移動できない。


アメリカ陸軍M1128ストライカーMGS。搭載する105mm砲はもともとイギリス生まれの戦車砲(菊池雅之撮影)。

 これを解決したのが、米軍でした。2000年頃に「ストライカー」という名の装甲車だけで部隊を構成するストライカー旅団を作ります。この部隊は輸送だけでなく、迫撃砲、工作用クレーン車、救急車にいたるまですべてストライカー装甲車をベースとしました。

 そしてストライカーの車体に105mm戦車砲を乗せたM1128ストライカーMGSを生み出します。重量を戦車の半分以下である20tに抑えたため、いかなる道路も走れるだけでなく、輸送機にも乗せられます。イラク戦争にも投入され、実績もあげました。

 こうした経緯を受け日本は、フランスなどがつちかってきた装輪戦車を継承しつつ、米軍が生み出したコンセプトを足した16式機動戦闘車を作ることを決めたのです。

「即応機動連隊」の主装備へ

 16式機動戦闘車の主たる武装は、砲塔に据えられた52口径105mmライフル砲です。10式戦車や90式戦車が搭載している120mm砲よりは小さく、打撃力は劣ると思われがちですが、最新の「91式105mm多目的対戦車りゅう弾(特てん弾)」などを使用することで、さほど大きな差は出ないと言われています。また74式戦車の戦車砲弾も使うことができるので、運用効率も高いです。


16式機動戦闘車は105mm砲を搭載し、同じく105mm砲を搭載する(口径長は異なる)74式戦車の砲弾が使用できる(画像:陸上自衛隊)。

 最大の特徴とも言えるのが、100km/hで自走する事が可能である点です。すでに高速道路での走行試験も行っています。重量は26t程度ですので、空自が運用を開始したC-2輸送機に載せることもできます。このように、機動展開能力は戦車と比べものにならないほど高く、装甲車と行動も可能です。

 防衛省は、2013年に「統合機動防衛力」という新戦術を打ち出しました。これまでの「動的防衛力」は既存の部隊を展開させることを考えてきました。しかし、仮想敵が中国であることを考えると、その必要もありません。

 仮に中国が日本侵攻を考えたとすると、まずは歩兵や装甲車等で構成される陸上勢力を送りこんでくるからです。敵からしても戦車はやはり重すぎます。

 まず日本版海兵隊である水陸機動団(2018年3月新編)を南西諸島部へと送り、敵が上陸する前に防御陣地を構築します。次に16式機動戦闘車を送り増強します。この時点で敵に島を奪われたら奪還していきます。ここで戦車部隊などを逐次投入していき、圧倒的打撃力で制圧します。

 16式機動戦闘車であれば、空自の輸送機で迅速に移動できますし、初動対処としての打撃力は十分だと考えられます。戦車のような移動に時間のかかる部隊を後回しにすることが出来るので現実的な戦術と言えるでしょう。

 この16式機動戦闘車を配備するのが即応機動連隊という新しい部隊です。現在は、その母体となる、第15普通科連隊(善通寺)、第42普通科連隊(北熊本)に配備されています。2018年3月末にこれら部隊が改編され、即応機動連隊となります。来年以降もいくつかの普通科部隊が改編されていく計画です。