環境やエネルギーの問題はあるがまだまだ拡大の余地もある(写真:Alfribeiro/iStock)

乗用車保有台数に関する「神の見えざる手」とは

昨年(2017年)、日本の輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支(通関ベース、財務省調べ)は2兆9910億円と2年連続で貿易黒字となった。食料や原油・液化天然ガスなどの資源を輸入に頼る日本にとって、工業製品の輸出は経済の生命線。その中でも稼ぎ頭であり、国際的な競争力を保っているのが自動車産業だ。


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ただ、日本の自動車産業を取り巻く状況は大きく変化している。東洋経済オンラインが3月5日配信の「トヨタがEVシフトに見せる尋常ならぬ危機感」でも指摘したように電動化や自動運転、IT化などの大きな波に対応できなければ、この先も競争力を保てる保証はない。

日本の自動車産業は国内外でどれだけ維持・発展できるのだろうか。世界の自動車市場がどこまで成長できるかは、重要な判断材料だ。

ここに興味深いデータがある。G7(先進7カ国=アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、日本、カナダ、イタリア)各国の人口と四輪車保有台数から割り出した人口1人当たりの乗用車保有台数だ(2015年データを使用)。


日本は人口1億2797万人に対し、乗用車保有台数は6098万台と1人当たり0.48台となる。アメリカは同0.39台、ドイツ、イギリス、フランス、イタリアといった欧州主要国とカナダは同0.50〜0.63台の間だ。現在、先進国では自動車販売が限界を迎えているといわれるが、ここで見ると人口1人当たり乗用車保有台数の限界は0.5〜0.6台と考えていいだろう。

いまだに成長市場としてアメリカは0.4台以下の位置にある。これは人口増によるためだ。いわゆる例外的な国となる。一方で、このG7に参加していない先進国の人口1人当たり乗用車保有台数を計算すると、スペイン:0.48台、オランダ:0.49台、スイス:0.54台となる。やはり0.5〜0.6台に収斂しているとわかる。

これは乗用車保有における「神の見えざる手」ともいえるかもしれない。

日本の新車販売の限界

日本における人口1人当たり乗用車保有台数の0.48台はどのような意味を持つだろうか。自動車検査登録情報協会の2015年発表によれば、軽自動車を除く自動車の平均使用年数は乗用車が12.38年、貨物車は13.72年となっている。この数値は、日本国内で新車として登録してから抹消する年数を示している。

あくまでざっくりした値になるが、そこで2015年時点における乗用車保有台数6098万台を12.38年で割ってみると、約490万台となる。

この数字は、2015年の新車販売台数である505万台と近い。日本では少子化の進行によって、若者の数が昔よりも減っていて自動車の新規需要よりも買い替え需要のほうが大きい。この数字の近似は成熟国家の現状を示しているといえる。

一方、これを新興国で考えてみるとどうだろうか。同じく各国の人口と乗用車保有台数から人口1人当たりを割り出してみよう。すると中国が人口1人当たり0.1台、インド:0.02台、タイ:同0.12台、南アフリカ:0.12台、ロシア:0.28台などとなった。


こうみると、自動車産業の鉱脈はやはり新興国に眠っているように見える。先進国における人口1人当たり乗用車保有台数の限界値が、おおむね0.5〜0.6台とすれば、中国もインドもタイもまだまだ伸びる余地があるのかもしれない。さらにいえば、新興国では人口増も続いている。

神の見えざる手は新興国に当てはまるか

しかし、私はさほど楽観視していない。なぜならば、中国は歪んだ「一人っ子政策」によって人口のピークを近いうちに迎える。おそらく2029年か2030年あたりが人口頂上となり、そこから日本のように、ゆっくりと加齢していくだろう。

どのような国でも、自動車の販売は近いうちに限界を迎えると思われる。実際に、日本の歴史を見てみよう。これは、同じく自動車検査登録情報協会が発表している日本における乗用車保有台数の推移を示したものだ。


いまから50年前、高度成長期といわれた1968年における日本の1人当たり四輪車保有台数は、わずか0.04台にすぎなかった。現在の10分の1以下程度だ。中国の1人当たり台数に最も近いのは、日本の1972年ごろだが、10年後(1982年)には同0.21台、1992年には0.30台にいたっている。

さらに、中国は、かつていわれた日本の国民総中流とは違い、所得の格差がさまざま報じられている。現在の先進国基準である「1人当たり四輪車保有台数」の0.5〜0.6台にまで成長する余地があるかについて、私はここで断言しない。ただ、中国が日本と同じような道をたどるなら20年後ぐらいに同0.30台ぐらいまでは伸びるかもしれない。

こう考えるとやはり中国やインドをはじめとする新興国の需要をいかに取り込んでいくかは、日本の自動車産業の帰趨を占うといえるだろう。