エンゲル係数は2014年ごろから2016年にかけて大きく上昇し、話題となった(写真:recep-bg/iStock)

最近の消費を抑制している要因の1つに生鮮野菜の高騰が挙げられる。1月の全国消費者物価指数によると生鮮野菜は前年同月比プラス21.3%で、CPI(消費者物価指数)全体の伸び率を0.44%ポイントも押し上げた。家計が生鮮野菜の消費を急激に減らすことは難しく、エンゲル係数(世帯ごとの家計の消費支出に占める飲食費の割合)は高止まりしている。


安倍首相は「食生活や生活スタイルの変化」と説明

最近このエンゲル係数の解釈が話題になっている。1月31日の参議院予算委員会での質疑において、アベノミクス以降のエンゲル係数の上昇が国民の生活の苦しさを示しているという野党議員の主張に対し、安倍晋三首相は「これ(エンゲル係数の上昇)は物価変動のほか食生活や生活スタイルの変化が含まれている」と説明した。


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このやり取りをめぐってインターネット百科事典の「エンゲル係数」の項目について「編集合戦」が行われたという(毎日新聞、2月22日付など)。当初は「一般に値が高いほど生活水準は低い」という簡潔な説明だったが、「現在では重要度が下がっている」などと改変する動きがあり、削除と追加が何度も繰り返された揚げ句、最終的に書き換えられないようにサイト側から凍結された。

そこで今回は、エンゲル係数の上昇要因を再点検してみた。日本の個人消費が低迷している要因は人口減少社会と少子高齢化という構造問題やそれに伴う賃金の低迷などが主因であると思われるが、何が家計を圧迫しているのかを考察する価値はあるだろう。

暦年ベースではエンゲル係数は2017年に5年ぶりに小幅低下した(2016年は25.9%で2017年は25.7%)が、依然として高止まりしている。直近数年間でエンゲル係数が上昇した理由として指摘されているものに、(1)生活水準の低下というストレートな解釈と、(2)高齢化などによる生活スタイルの構造変化、(3)消費者の「食」に対する意識の変化、という3つがある。

2013年以降のエンゲル係数の上昇(2017年まででプラス2.2%ポイント)を要因分解すると、消費税率引き上げによって食料価格が上昇した影響がプラス0.6%ポイント、消費税率引き上げ以外の要因による食料価格の上昇の影響がプラス1.5%ポイント、物価変動の影響を除いた実質食料費が変化(減少)したことによる影響がマイナス0.3%ポイント、消費支出全体(エンゲル係数の分母)が変化(減少)したことによる影響がプラス0.3%ポイントだった。アベノミクス以降の円安による輸入物価上昇を背景とした食料品価格の高騰による影響が大きそうだ。


生鮮食品による押し上げ効果は大きくない

生鮮食品価格の上昇が主因で、食料価格はたまたま上昇してしまっただけだと説明されることもある。確かに、ここ数年は食料価格全体よりも生鮮食品価格の上昇幅が大きい。しかし、消費者物価指数全体への寄与は食料全体が1万分の2623であるのに対し、生鮮食品は1万分の414にとどまる。

2013年以降の食料価格は全体でプラス6.5%となったが、そのうちの生鮮食品の押し上げ寄与はプラス2.4%ポイントにとどまっており、上昇の6割強は生鮮食品以外の食料価格の上昇で説明される。また、生鮮食品の価格高騰についても、天候などによる短期的な変動を除けば、飼料の輸入価格上昇によるところも相応にあるとみられる。天候要因などで食料価格が「たまたま高騰した」ということではないだろう。

生活スタイルの変化によってエンゲル係数が上がっている分もあるのではないかという点について、いくつかの視点で見てみたい。まず、エンゲル係数の分子である食料支出を「外食、調理食品」とそれ以外に分けた。共働き世帯の増加や高齢化によって材料から家庭で調理する世帯が減少していることで外食・中食が増加しているのであれば、エンゲル係数(外食、調理食品)の上昇率が大きくなるはずだが、そのようにはなっていない。


なお、エンゲル係数の推移を年齢別で見ると、高齢者層のエンゲル係数が特に上昇しているわけではない。一方、共働き世帯の増加による生活スタイルの変化が影響している可能性がある「35〜39歳」ではほかの年齢層よりも上昇した。全体への影響は大きくないが、一部では生活スタイルの変化がエンゲル係数に影響しているのかもしれない。

円安による輸入物価の上昇が家計を圧迫

エンゲル係数を年収別で見ると、年収の低い層ほど上昇幅が大きく、家計の圧迫度合いが大きい。生活スタイルの変化によって外食が増えたりする場合は、収入の多い層から変化が起きるとみられるが、そのような動きにはなっていない。

2013年以降のエンゲル係数の上昇については、生活スタイルの変化によってもたらされたというよりは、総じて円安による輸入物価の上昇などを背景に家計が圧迫されてきたと考えることができるだろう。

最後に、家計の必要経費としてエネルギー関係費と情報通信関係費を加えたエンゲル係数を作成したところ、最近の原油価格の上昇や趨勢的な情報通信関係費の増加の影響により、2017年も家計が圧迫された状態は続いていたことがわかった。エンゲル係数(食料、エネルギー、情報通信関係費)は消費支出全体の39.1%を占め、8年連続で上昇している。


食料に限らず家計の必要経費全体は依然として増加しており、消費マインドの回復や個人消費の増加の芽を見いだすことはできない。