2017年12月5日、小田急電鉄の大野総合車両所で報道公開された新型ロマンスカーGSE70000形(筆者撮影)

あす3月17日のダイヤ改正から運行を開始する、小田急電鉄の新型ロマンスカー70000形GSE(GSE: Graceful Super Express)。小田急電鉄大野総合車両所でこの車両の報道公開が行われたのは、2017年も年の瀬が近づく12月5日だった。大勢の報道陣で熱気に満ちる中、新型ロマンスカーが車庫から顔を出すと、報道陣のシャッターがGSEに向けて一斉に切られた。この日は鉄道系メディアだけでなく、テレビ・新聞各社も詰めかけ、車内見学会には長い順番待ちができていた。


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GSE報道公開では小田急電鉄の星野晃司社長の囲み取材の時間も設けられた。多くの報道陣がGSEのコンセプトや導入の効果などに関する質問に終始する中、筆者は星野社長に、「2018年3月のダイヤ改正で初めて、出勤時と退勤時に町田駅・相模大野駅および海老名駅・本厚木駅に連続停車する特急が設定されるが、今後特に海老名駅・本厚木駅に連続停車する特急の本数を増やす考えはないか」という質問を投げ掛けてみた。

長年特急が停まらなかった海老名

星野社長は「海老名・厚木の両市とも当社にとっては大切なまちであることから、特急の連続停車を決断した。ご質問の件については現時点では全く考えていないが、今後の状況を見て将来的に検討することもあるかもしれない」と海老名駅・本厚木駅に連続停車する特急本数の拡大の実現に含みを持たせた。

筆者は『「通勤ライナー」はなぜ乗客にも鉄道会社にも得なのか』(東京堂出版、2013年12月)の取材で小田急の担当者に特急の海老名駅・本厚木駅連続停車を直接提案した。以降、海老名市の担当者とも緊密に連携を取りながら、折に触れて特急の海老名駅停車の提案を社会に向けて発信した。同市は1981年から小田急に特急停車の要望を続けてきたが、長らく実現することはなかった。

しかし、ついに2016年3月26日、一部の特急が同駅への停車を開始した。特急の海老名駅停車に慎重だった小田急の姿勢が大きく転換したことを象徴する歴史的な日であった。小田急は公式的には、海老名駅の小田急線とJR相模線との間の「駅間地区」で進めている、タワーマンション、オフィス、商業施設などからなる大規模開発に合わせて、同駅への特急停車を決断したとしている。

ただし、海老名駅への特急停車は本厚木駅の特急の停車本数を減らした分を振り向けたことで実現したのであり、本厚木駅との連続停車は避け続けた。その理由として、連続停車とすると、相模大野駅・海老名駅・本厚木駅の順に停車するパターンの列車が生まれ、停車駅の面で快速急行・急行との差がなくなることが挙げられる。

連続停車は利用客増の切り札だ


主に通勤客向けの特急に使用されるロマンスカー30000形「EXEα」(撮影:尾形文繁)

小田急ロマンスカー年間利用客数約1315万人は、関東大手私鉄の有料特急の中で最大である。観光のみならず、通勤でも多く利用されている。しかし、ロマンスカーの利用客数を増やす余地がまだある。その切り札のひとつが、特急の海老名駅・本厚木駅連続停車であると筆者は考える。

西武新宿線では、特急「小江戸」が2013年3月16日から東村山駅への停車を開始し、隣の駅である所沢駅とともに特急の全列車が連続停車し、特急の利用客を増やすことができた。両駅間の営業キロは海老名駅―本厚木駅間と同じ2.9kmだ。東武鉄道が昨年5月12日に公表した「東武グループ長期経営構想・東武グループ中期経営計画2017〜2020」では「春日部駅停車特急の拡大」が明記された。

JRでも、東北新幹線の東京駅―上野駅間は3.6kmしか離れていないが、大多数の列車が上野駅に停まる。東海道新幹線に至っては2008年3月15日ダイヤ改正以降、全列車が品川駅・新横浜駅に連続停車するようになった。また、高崎線特急「スワローあかぎ」も一部列車停車駅だった北本駅・鴻巣駅に全列車が停車し、朝の新宿行き1本を除き、停車パターンが統一される。

このように特急停車パターンの統一は、昨今の鉄道事業者の大きなトレンドとなっているが、小田急でも町田駅・相模大野駅および海老名駅・本厚木駅に連続停車する特急を設定する決断がついに下されたのである。

決断の背景には、競合路線への対抗戦略を打ち出す必要性に迫られた事情があったことは確かだ。まず、朝上りに相模大野駅・町田駅・新百合ヶ丘駅に連続停車する特急を設定する大きな狙いとしては、小田急線と東京急行電鉄(東急)田園都市線の中間地点に住んでいる人たちに着席通勤をアピールすることで、小田急線を選択してもらうことにあるだろう。

また、海老名駅が始発の相模鉄道(相鉄)本線が2019年以降にJR東海道本線・東急線への直通運転を開始すると対都心輸送で強力なライバルとなることは確実だ。早めの対抗策が、出勤時および退勤時の海老名駅停車特急の新設や増発なのだ。

それでもなお、日中時間帯では海老名駅に停車する特急は本厚木駅を通過し、逆に本厚木駅に停まる特急は海老名駅には停まらないダイヤは維持される。

特急停車が減る駅、なくなる駅


実際、平日は本厚木駅に停車する特急が減ったため、筆者を含め本厚木駅に停まる特急の利用を減らした旅客もいる。同駅周辺の事業所への通勤などに特急を利用する人たちからは「本厚木駅に停まる都合のよい時刻の特急がない場合、急行を利用する機会が増えた」という声も聞かれる。

「スーパーはこね」以外の特急は、両駅への停車を基本とした方が小田急にとっては利用客が増えることで企業価値が向上し、旅客にとっては利便性向上につながるはずだ。そして、地域にとっては、特急停車本数増加を定住人口および交流人口の両方の増加に向けた強力なアピール材料として活用できる。まさに「三方よし」であり、昨今のESG投資の潮流にも対応する。

一方、ロマンスカー通過駅となる地域も生まれる。向ヶ丘遊園駅と新松田駅の特急停車が取り止めとなるためだ。向ヶ丘遊園駅所在地の神奈川県川崎市役所まちづくり局交通政策室の担当者は「登戸駅に快速急行が新規停車することは朗報だ」としながらも、「向ヶ丘遊園駅に停まるロマンスカーがなくなることは残念だ」と複雑な思いを示す。同駅周辺に在住する70代男性も「向ヶ丘遊園駅を70年間にわたって利用しているが、特急通過駅となることは考えられない出来事だ」と困惑する。

また、御殿場線沿線の自治体関係者からも「御殿場線との乗り換え利便性を向上させるために、新松田駅停車の特急を増やしてほしい」と、小田急による同駅通過の方針とは真逆の要望が聞かれる。

そこで、筆者は向ヶ丘遊園駅・新松田駅を含む、朝下り特急の通勤利用の実態を視察するべく、2月のある平日に、新宿駅7時27分発特急「はこね83号」箱根湯本行き8号車に小田原駅まで乗車した。

この列車の一番のボリュームゾーンは町田駅―本厚木駅間である。8号車では、向ヶ丘遊園駅からの乗車は数名にとどまったが、町田駅から15人前後が乗車し、本厚木駅で20人を超える下車があった。全員がこれから出勤する様子の旅客であった。その後、伊勢原駅と新松田駅では同じく職場に向かうと思われる人たちが数名ずつ下車すると、車内は空席ばかりとなった。そして、小田原駅では新幹線に乗り換えると思われるビジネス客が多くを占め、通勤利用はほぼ見られなかった。

また、2月の別の平日に、向ヶ丘遊園駅9時39分発特急「さがみ76号」新宿行きに乗車した。同駅からの乗車は数名で、同列車の乗車率は約7割であった。ピークを過ぎた時間帯であり、着席ニーズが相対的に低くなるのは必然である。現状、ピーク時に同駅停車の特急の設定がないのは、町田駅以西からの乗車で満席となり、向ヶ丘遊園駅からの乗車を受け入れる余裕がないからである。代わりに、ダイヤ改正後は同駅始発9時00分発千代田線直通準急(平日ダイヤ)が設定され、着席機会は維持される見通しだ。

特急停車がなくなる駅も利用は多い

向ヶ丘遊園駅停車取り止めの理由としては新宿駅からの距離が近いこと、より多くの利用が見込める多摩線接続駅の新百合ヶ丘駅に停車駅を移す方がメリットが大きいことが考えられる。また、新松田駅については、小田原駅との距離が近いこと、JR御殿場線直通特急「ふじさん」の松田駅停車が継続されるため一定の利便性維持が図られることを挙げることができる。また、対新宿駅で考えると、小田原駅までの特急料金が890円なのに対して、新松田駅までは690円と200円も安く、小田急にとって収入面のメリットに乏しいことも同駅への特急停車取り止めの背景にあるだろう。

しかし現状では、向ヶ丘遊園駅・新松田駅に停車する特急には一定の利用があることも確かだ。特に向ヶ丘遊園駅は東京都世田谷区民に、そして新松田駅はJR御殿場線沿線住民にとって、重要な特急停車駅である。しかし、特急停車を取り止めることのメリットの方が大きいと判断された結果の停車取り止めであると推察される。


3月17日から走り始める新型ロマンスカー70000形「GSE」の車内(撮影:梅谷秀司)

3月17日は小田急沿線各地に様々な悲喜こもごもをもたらす日になりそうだ。無論、特急ロマンスカーにとっても歴史的な日となる。朝ピーク時の特急は新宿行きが「モーニングウェイ」、千代田線直通が「メトロモーニングウェイ」にそれぞれ改称される。平日朝の新宿駅発下り方面の特急増発も実施される。小田急線の特急通勤は平日朝上りのみならず、平日朝下りでも盛んであり、増発は通勤利用にとっても福音である。

土休日には、千代田線と片瀬江ノ島駅間を直通する初めての定期特急「メトロえのしま」が新設される。他方、消費者にとって負担増となる料金改定も実施される。小田急線特急停車駅―箱根湯本駅間を通しで乗車する場合は、小田急線の特急料金に200円が加算されることになる。

小田急にとっては、ライバルの動きも気にかかる。京王電鉄は2月22日から夜に新宿駅→京王八王子駅間・橋本駅間で有料座席指定列車「京王ライナー」の運行を開始した。京王電鉄広報部は「『京王ライナー』は運行開始から多くのご利用をいただいている。さらに修正を加えながら、サービス向上を進めたい」と語る。今後、朝上り列車や都営新宿線への直通列車も検討されるだろう。

新宿駅―永山駅・多摩センター駅間で競合する小田急はロマンスカーは運行せず、一般列車の利便性向上を打ち出して対抗する。多摩線でのロマンスカーを復活させるかどうかは別として、多摩線ユーザーを含むより多くの人に利用されるよう、新百合ヶ丘駅に停車するロマンスカーをさらに増やすなどダイヤを磨き上げる余地はまだある。

特急ダイヤが沿線に与える影響

ロマンスカーは小田急線ユーザーのうち、約1.7%(=特急の1日平均利用客数約3万6000人÷小田急線1日平均輸送人員205万人。いずれも2016年度)の人たちに利用されており、地域経済を支える重要な足となっている。

2011年の東日本大震災直後のロマンスカー運休では、箱根の自治体や観光産業などがロマンスカーの早期運転再開を要望し、運転再開日の2011年4月16日には箱根湯本駅で自治体や町民らが到着するロマンスカーの出迎えを行った。ロマンスカーが沿線住民や地域から愛されていることを示す象徴的な出来事として歴史に刻まれた一方、ロマンスカーのダイヤがステークホルダーに大きな影響を及ぼすことを再認識させられる機会ともなった。

今後、小田急はロマンスカーのダイヤを変更する場合、ステークホルダーへの丁寧な説明を行う必要がある。一方で、沿線自治体や消費者も向ヶ丘遊園駅・新松田駅の「悲劇」を教訓として、日頃から鉄道に対する関心を深め、特急停車が維持されるよう利用促進に協力する姿勢が望まれる。

そして、小田急も海老名駅・本厚木駅連続停車の特急を基本とするなど利便性向上を進め、より気軽に利用できるロマンスカーを目指すことが企業価値向上につながるはずだ。ステークホルダー間の不断の対話こそが、「三方よし」のロマンスカーのダイヤをつくる最良の方策なのである。