楽しいときも辛いときも共に。広瀬すず×野村周平×新田真剣佑が4年間で紡いだもの

広瀬すず、19歳。野村周平、24歳。新田真剣佑、21歳。実際には最大で5歳差があるというのにこの3人、映画の中はおろか、取材の場でも“タメ”の仲の良さが伝わってくる。映画『ちはやふる -上の句-』と『下の句』、そして今回公開となる最終章の『結び』と、一緒に歩んできたからこそだろう。もちろん4年のあいだ、ずっと本シリーズだけに関わってきたわけではなく、それぞれ、別の現場でも経験を積んできた。だからこそ、3人とも強く感じている。この作品、この出会いが特別であることを。

撮影/祭貴義道 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc
ヘアメイク/菅野綾香【広瀬】、NORI【野村】、粕谷ゆーすけ(ADDICT CASE)【新田】

『結び』の制作決定に、うれしさのあまり崩れ落ちた

競技かるたに青春を懸ける高校生たちの姿を描いた『ちはやふる』シリーズが、いよいよこの『結び』で完結します。本作の制作が発表されたのは2016年の4月29日。『下の句』の初日舞台挨拶の場でした。キャスト陣には完全サプライズで、発表された瞬間、広瀬さんが号泣し、その場に崩れ落ちました。
広瀬 ずっとプロモーションをやってきて、初日は映画のスタートだけど自分たちができることはその日が最後。『上の句』の初日のときは「まだ『下の句』がある」と心の余裕があったけど、『下の句』の初日は「本当にこれが最後なんだな…」って。
喜びと寂しさを胸に抱えて舞台に上がって…。
広瀬 その時点で、けっこうキテたんですよね。そうしたら(続編決定という)それを超えるものが頭の中に入ってきて、整理がつかなくなって…。いまのところ、人生で最初で最後のうれし涙です(笑)。あんなに泣いたことはないし、泣きすぎてあんまり記憶がないです。すごく心臓が疲れた発表でした。
▲左から、野村周平(真島太一役)、広瀬すず(綾瀬千早役)、新田真剣佑(綿谷 新役)
野村 原作者の末次(由紀)先生からの手紙が読まれて、「あぁ、泣かせにきたな」って(笑)。
広瀬 ね(笑)。
野村 そうしたら(手紙で)「これからもよろしくお願いします」って。「え? これから? どういうこと?」と思ったら、(続編制作決定の)文字がスクリーンに映し出されて、すずが崩れ落ちて…(笑)。それを支えるのに必死で、ほかのことは覚えてないです!
広瀬 みんなの気持ちを代弁してくれてたよね? 勝手に(笑)。
野村 そうそう。かるたをまたやるんだ…って。大変な日々がまた来るんだなと(笑)。俺の年齢だと、膝が(正座に)耐えきれないんじゃないか?というのと、高校生役は大丈夫かな?と思いつつ、またみんなとかるたができるんだと思うと嬉しかったですね。
大変なことになるだろうと思いつつも、またこのメンバーで映画ができる喜びをかみしめて…。
野村 そうして台本を読んだら俺、最初から離れるのか!(※野村さん演じる真島太一は、序盤で瑞沢高校かるた部を退部する)ってなりました(笑)。
新田 僕は新という役、『ちはやふる』という作品が大好きだったので、またこの作品ができる、またこの役でかるたができるってことがすごくうれしかったですね。
そうして発表があり、それから実際に『結び』の撮影が始まるまで1年ほどありましたが、この3人、もしくは他のメンバーも含めて会う機会は…?
野村 いや、なかったよね? TVの中でみんなを見るくらいでしたよ。矢本っちゃん(矢本悠馬/西田優征役)、これ出てるんだ? すずも出てるね。マッケン、出まくってるな!って(笑)。

「みんな成長しすぎて、おじさん困っちゃう(笑)」(野村)

久々に再会を果たし、撮影が始まって、互いの変化や成長を感じましたか?
新田 みんな、大人になってるなと感じました。新は瑞沢高校ではなく、違う空間(※藤岡東高校)にいたので、空気感も芝居の仕方も違いますし。(※『上の句』『下の句』の撮影終了から『結び』のクランクインまで)役ではない2年間があって、ちょうどいいなと思いましたし、そうした変化がすごく楽しみでもありました。
前作で祖父を亡くしたショックでかるたを辞めかけていた新ですが、千早や太一に触発され、藤岡東高校で自ら部を作って、団体戦に臨むことになりますね。
新田 初めてのことで新鮮でしたし、(千早たちと)子どもの頃のように、またかるたができるのがすごくうれしかったです。
広瀬 2年間でそれぞれ別の経験も増えて、私にとっても濃い2年で、(そのあいだに出演した作品の)ジャンルも幅広くて、青春ものもあれば、ラブストーリーやシリアスな作品もあって。より一層、みんなパワーアップしていたし、ひとりひとりのパワーアップがひとつになったと思う。完成した作品を見て『ちはや』は大きくなってるなと感じました。
野村 僕もいろいろありましたし、みんな変わってましたよね。すずは女の子から大人の女性になっていたし、未成年だったメンバーがお酒を飲めるようになってたりして、最初から飲める身としては「この人と一緒に酒を飲んでるのか…」って不思議な気持ちになりました。
「みんな大人になったな」と?(笑)
野村 やっと大人の気持ちがわかり始めたのかもしれません。「僕が二十歳になったとき、大人たちはこんなふうに感じていたのかな」と。みんな、心身ともに大人になっているなと。もりりん(森永悠希/駒野 勉役)とも飲みに行ったし。マッケンとはまだ飲めてないよね?(※取材が行われたのは2月中旬)
作品を離れると兄のような目線で?
野村 いやいや! そんな、上から言えないですよ。「真剣佑さん、お願いします!」という感じです(笑)。
広瀬 もねねん(上白石萌音/大江 奏役)も二十歳になったしね。
野村 「もねねんさん、お願いします! ライブ素晴らしかったです」って。みなさん、成長しすぎて、おじさん困っちゃう。あんまり成長しないで!って(笑)。
改めていま、4年を費やして作り上げたこの『ちはやふる』シリーズを通じて、みなさんが手に入れたもの、成長はどういう部分だと思いますか?
広瀬 女優としての成長という意味では、あまり自分ではわからないけど、役以外のことについても、相談できる人たちに出会えたってことですね。支えになってくれる人たちなので心強いです。
ご自身でもおっしゃっているように、いろんな作品に出られていますが、やはりこの『ちはや』は特別だと?
広瀬 これまでそういう人がいなかったわけではないけど、東京に出てきて、仕事を始めてまだそんなに経っていない時期で出た作品だったので、心強いものができたなと感じますね。

「日本に来たときから一緒で、本当に兄弟みたい」(新田)

3人で、普段から連絡を取り合ったりすることはあるんですか?
広瀬 ありますね。現場で会うこともあるし。たとえばマッケンと共演する人たちから「真剣佑くんってどんな人?」と聞かれたりすることもけっこうあります。「野村くんってどんな人?」とか。
野村 「よく野村くんと仲良くなれたね」とか言われたり?(笑)
広瀬 そうそう、昨日もそう言われて、「何でだろうなぁ?」って(笑)。いやいや、ちゃんといいこと言ってるよ!
野村 僕も同じで、そういう仲間じゃないですか? やはり。みんな、心を普通にして好きなことを言い合える仲間たち。アホなことをやっても許されるし、それをお互いにわかってあげられる。本心を言える。キャストだけでなく、スタッフさんも含めて、そういう仲間ですよね。
この作品が特別なのは、やはり4年という長さの影響でしょうか?
野村 長さはありますね、やはり。4年間、ずっと一緒ってわけじゃないけど、3作もやったら何か芽生えるでしょ? “家族感”と言うと言いすぎかもしれないけど。“兄弟感”みたいなものは出てきますよね。
一緒にはいなかった、撮影以外の期間を含めて、それぞれに成長してきたと。
野村 俺もこの2年でいっぱい作品に出たし、「みんなの成長を見てる」なんて言い方は上から目線だけど、さっきも言ったように、TVをつけたらみんながそこにいたから。よかったなって思う。そういう姿を見るのがうれしかったです。
新田 僕にとっては、日本に来たときからみんなとずっと一緒で『ちはや』がスタートラインだと思ってるので、4年…本当に兄弟みたいな感じですね。みんなと成長できたのがうれしかったし。すずに関しては(『チア☆ダン』を加えた)4作品も一緒だし。…一緒にいすぎ?(笑)
広瀬 すいませんでした!(笑)
野村 何で俺とは全然(再共演が)ないの?
広瀬 もしかして事務所が…?(笑)

新の心境の変化、太一の葛藤。キャラクターの成長を演じて

物語は最後の夏を前に太一が部を離脱し、3人それぞれが孤独や葛藤、チームへの責任などを抱えながら進んでいきます。今回、再び同じ役を演じるうえで、どんなことを意識されたんでしょうか?
新田 前回の「かるたを辞める」というところから「チームを作りたい」となる新の気持ちを考えましたし、チームができてからの新の成長も描かれているので、そこはすごく意識して演じました。
迷いを克服し、逆に仲間ができたことで強くなる部分もあったかと思います。
新田 新は、かるたに対しての自信はあるし、たぶん誰よりもかるたが好きなんですよね。『上の句』『下の句』での葛藤は、辛かっただろうと思います。今回、僕は藤岡東チームのメンバーとずっと一緒にいましたし、そこは違いましたね。ひとりじゃなかった。
太一は、誰のために、何のためにかるたをやるのか?という葛藤の末に部を離脱するという決断を下します。
野村 みんなと一緒に撮影をする機会があまりなくて、ひとりだけ別だったし、そこで気持ちを作ることはできました。ただ、みんなと仲良くしたらいけないというのはしんどかったです(苦笑)。途中で一緒に撮影しなきゃいけないシーンもあって…。
役作りのうえでは、実際にみんなと距離が離れていたほうが楽だけど、スケジュール的にそうもいかず…?
野村 でも普段の(野村周平の)テンションでいなくちゃいけないじゃないですか? 急に、周囲を突き放すようなキツい態度になってもイヤでしょ?(苦笑)
広瀬 え? そこ?
野村 そこはひとつの仕事として。もちろん(役としての)気持ちの整理はしますけど、基本的にカメラが回ったらやります!という感じで、あまり意識はしないように。
3作品を通じて、太一という役への思いはいかがですか? 周囲はイケメンとして騒ぎますが、太一はそれを意識しているわけでもないし、単純な王子様ではなく、シリーズを通じてあがき、もがき、苦しみます。
野村 初めて役と向き合ったのが太一だったなという思いはすごくあります。すごく難しかったし、一番しんどい役でした。(見た目は)イケメンでいなくちゃいけないし、でも芝居もしなきゃいけなかったし。
千早は太一という精神的な支柱を失い、苦しみますね?
広瀬 揺れ動くんですけど、みんなの前に行くと千早になれるテンションと雰囲気があったので、(演じるうえでは)あんまり意識しなかったですね。同じ役を2年前に演じているからこそ、どうかなという不安もあったんですが、思った以上にそれは大丈夫で。
安心して現場で千早として生きて、笑ったり、泣いたり、悩んだりできた?
広瀬 それこそ、最後に太一の顔を見た瞬間にワーッとくるものがあったし。2年前と変わらず、みんなからもらう気持ちが多かったなって思います。普段はワイワイとやっているけど、緊張感のあるシーンになると、みんなしゃべらなくなったり。
互いを知り抜いた仲間であるからこそ、緊張感さえも共有して、シーンを作っていけるんですね。
広瀬 みんながそういう雰囲気を作ってくれるんです。最後の太一とのシーンもそうで、そこで、みんなの顔を見て、ワーッとなる瞬間がありました。劇中の千早のセリフと同じで「(みんなから)もらうものしかなかった」と思います。2年前よりも心にゆとりができて、逆に自分から何かを起こすことが、いい意味でなかったなと思える時間でしたね。

太一がいない、“もどかしい雰囲気”が現場にはあった

クライマックスも感動的ですが、途中、誰もいない部室で千早が太一の不在を実感するシーンも、見ていて胸が痛くなりました!
広瀬 瑞沢に太一がいないって大きいんだなって強く感じました。現場の雰囲気もやっぱり違うんですよ。最初のムズムズするような感じはリアルに感じていましたし、それをみんなが気にしないようにっていうお芝居でもあったんですが、実際に、太一がいないもどかしい雰囲気はあったと思います。
回想で太一が現れて…。
広瀬 あそこは、いま見ても一番泣けます! 感情がよみがえってきて、バーッと出てくるものがあります。
野村 あれ? あのシーンは俺、今回、実際に演じたんだっけ?
太一の回想シーンは、『上の句』のシーンを使用しているそうです。
広瀬 撮影直前に『上の句』の映像を見せてもらって、本当にキラキラしてたんですよ! そうしたら、一発で(涙が)ぐわーっと出てきちゃって、控室に戻ったら、マスカラがベッタリでした(苦笑)。それくらい思い入れが強かったし、脚本を読んだときも「頑張らなきゃ」って思ったシーンでした。
その頃、太一は部を離れて、名人の周防久志(賀来賢人)のもとでいろいろ学んでいたわけですが、太一がいないことに対して広瀬さんがこんなにも感情を高ぶらせて…。
野村 うれしいですよね、普通に(笑)。太一は基本、自分が特訓しているあいだ、「みんなは何をやってるのかな?」と思い出すシーンはなかったので。途中で、踏切を渡ったら千早がいて、「バカ! バカ!」って言われて、俺の芝居している顔はあまり映ってないし(苦笑)。だからうれしいですね。そうか、あれは『上の句』で撮ったシーンだったんだ…。
新田さんは思い入れのあるシーンはどこですか?
新田 僕は、太一が僕の目の前に来るシーンが好きですね。それを見て「あぁ、また3人が揃ったね」と。見ていて一番好きなシーンでした。
演じていて思い入れが強かったのは?
新田 いっぱいあるけど、やっぱり試合だと思います。初めての団体戦での試合だったので、みんなで戦えることがうれしかったですね。
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