春は手帳選びのシーズンでもある(写真:レイメイ藤井提供)

もうすぐ新年度。手帳の新調を考えている人も多いのではないだろうか。手帳メーカーといえば、シェア1位の高橋書店や「NOLTY」ブランドを擁する日本能率協会が強いが、九州で創業100年を超す老舗メーカーが気を吐いている。システム手帳「ダ・ヴィンチ」の販売元であるレイメイ藤井(福岡市)だ。


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近年、スマホの普及やペーパーレス化にともない、文具業界は頭打ちだ。また、同社が手掛ける文具卸売り事業についても、「アスクル」や「アマゾン」といったEC事業者が法人向け販売を伸ばしていることで先行きが明るいとは言えない。

こうした中で、レイメイ藤井は過去5年、売上高を伸ばし、利益率を上げることに成功している。


九州の中堅企業が、どうやって逆風の中で利益成長を続けてきたのか。同社の歴史をひもとくと、強さの理由が見えてきた。

レイメイ藤井は、1890(明治23)年に熊本市新町で創業。字を書いたり、食品や薬などを包んだりする和紙をはじめ、ペン先などの欧米文具を取り扱っていた。明治時代は教育制度の変革期でもあったため、習字紙やノート、文房具などの需要を取り込み、取り扱い商材を拡大させていった。

印刷会社向けの洋紙卸や、企業・官公庁向けの文具販売を中心とし、戦後から高度経済成長期にかけてはオフィス需要の増加から、オフィス用品、オフィス家具、計算機、事務機器などにも領域を拡大していった。同時に、九州一円に営業拠点を開設し、文具専門店や量販店向けの卸事業部門も大きく成長した。

今となってはプライベートブランドという言葉が定着しているが、レイメイ藤井は昭和初期から自社ブランド商品を持つことにこだわり、オリジナルの半紙などを販売していたのだという。時代が大正から昭和に移り変わる際に、「明け方」「夜明け」という意味の言葉、“黎明(れいめい)”をブランド名に選んだ。

5代目・藤井輝彰、そして6代目・藤井邦宏は、学童文具などのオリジナル商品の開発に再びスポットを当てた。1973(昭和48)年に文具製販事業を事業の柱の一つと位置付けてレイメイ事業部を発足、開発拠点を東京に設けたのだ。時代が昭和から平成に移る“黎明期”にはコーポレート・アイデンティティを再構築。社名を「レイメイ藤井」に変更し、ロゴマークも一新した。

手帳事業は1980年代に開始

現在の代表商材になっている手帳の開発販売を始めたのは、1980年代に入ってから。日本で英国製手帳「ファイロファックス」が1984年に発売され、脚光を浴びた。その人気と可能性に注目した同社は、翌1985年に「ウォルターウルフ」のブランドでシステム手帳の開発・販売を開始した。その後もミドル・ハイゾーンを狙い本革製システム手帳の開発に取り組み、同社の主力商品「ダ・ヴィンチ」を1996年に投入した。

ブランド名の由来は、芸術家のレオナルド・ダ・ヴィンチ。彼はその生涯で1万枚以上のアイデアメモを残したという逸話もあるほどの「メモ魔」であったとされ、レイメイ藤井では、いつの日か、その多才なメモ魔のイメージと合致する自社商品を売り出す際にブランドとして冠したいと考え、1982年には商標出願を済ませていた。温めてきたブランドを冠したその商品は、20年以上続く看板商品に成長している。

また、専門店・量販店との取引では、売り場づくりを支援する営業スタイルに近年転換。店頭陳列コンクールを実施するなど、販売店との関係強化を徹底した結果、自社ブランド商品の扱い量を増やすことに成功した。

さらに、東京の商品開発ノウハウと、九州における地元の“縁”をつなぐ商品開発にも注力している。博多織の中でも「献上柄」と呼ばれる紋様をあしらったご祝儀袋を発売し、インバウンドを含めた国内外からの観光客向け商材として売り出している。

福岡県以外の九州各地でも、地元の名産品と「紙」などを組み合わせた商品の開発を進めている。こうした地元での奮闘もあり、着実な利益成長につながったのだろう。

ただ、今後も文具業界で成長を続けるのが容易でないことは周知の事実。7代目の藤井章生現社長は「既存事業の延長線上に成長の姿が描きにくくなっている」と危機感を口にする。そもそも同社の売上高のうち、「ダ・ヴィンチ」をはじめとする文具製販事業の構成比率は約1割に過ぎない。残る9割は、主に九州で展開する紙・文具・事務機器卸事業による。新たな事業展開が求められる中で、同社が注力しているのが、OA機器を核とした社内ITソリューションの提案事業と、海外展開だ。

これまでもコピー機などOA機器の販売を手掛けてきた同社だが、今後は売りきりのビジネスモデルからネットワーク構築も含めたITソリューションを提供するビジネスへの転換を図っている。オフィスのレイアウト変更や業務効率化に向けたソフトウエアの選定、セキュリティ体制の構築など、オフィスに関する悩みの「御用聞き」を目指している。

中でも、オフィスレイアウトのコンサル事業は近年盛んな「働き方改革」に関連した引き合いが強い。新しい働き方として「フリーアドレス(個人が専用の机を持たず、日ごとに座る席を変えるといったオフィスの形式)」などを導入したい企業が増えていることが背景にある。

同社は業務の流れを踏まえた導線分析や、最適な業務フローとレイアウトの提案などを担い、そうした企業のオフィス改革を支援している。「商社として幅広い仕入れルートを確保していることで、多様な提案が可能となっている」(レイメイ藤井)という。

また、筆者が日ごろ企業取材を重ねる中で、「人手不足」に悩む企業が、魅力的なオフィスに転換したことで新卒・中途社員の採用状況が好転した例もしばしば耳にする。採用面接時にチラっと見えたオフィスの様子が採用の決め手にもなるのだという。オフィス空間の重要度が高まっている今、この分野で勝負を懸ける同社の戦略は理にかなっていると言える。

子どもが増えるアジア諸国に熱視線

海外展開は藤井社長が最も期待を寄せる事業だ。香港オフィスを2011年10月に開設し、香港を拠点に中国本土や東南アジア諸国・地域で文具販売の拡大を目指している。

アジアには平均年齢が20〜30歳代前半である国・地域が多く、今後、子どもの数が増加し、経済成長にともなって教育制度の充実も見込めるため、文具市場には伸びしろがあると踏んでいるためだ。

本社を置く福岡は、東京よりもこれらの国・地域に近い「地の利」もある。オリジナル文具の輸出量を伸ばすことができれば、国内文具市場が縮小しても売上高を維持・拡大する道が拓ける。

2020年には創業130周年を迎えるレイメイ藤井。大正・昭和・平成を生き抜いた九州の雄は、その慧眼を活かし来年迎える新たな時代でも、確かな歩みを続けるだろう。