「集団心理って怖い」。そう感じる事件が起こりました。

10日、日本リトルシニア中学公式野球協会関東連盟の開幕式が神宮球場で開催され、タレントの稲村亜美さんが始球式を行なったときの動画がTwitterに投稿されました。

マウンドに上がる稲村亜美さんを数十メートルほど距離を置いて取り囲でいた数千人の球児たちが、じわじわとその輪を狭めていき、ついには、どこに稲村さんがいるのかわからないくらいの人の山ができて、それが崩れていくーー。見ていて、つい「あっぶない!」と声をあげてしまうレベルの映像です。

約2分間のその映像で、画面左下に映っている審判のような服を着ている数人の大人たちは、まさに「突っ立ってる」という状況。その位置からは、危険度が感じられなかったのかな……と首をかしげてしまいます。

命にかかわる事故にならなかったのでよかったですが、ネットでは「集団性犯罪だ」とも騒がれています。筆者も、稲村さんを取り囲むチームの先頭にいた子らが、キョロキョロと周りの仲間の動向を伺いながら、少しずつ稲村さんに近づいていく様子にゾッとしました。中学生男子ならではと言っていいのかどうかわかりませんが、「いいの? 行っちゃう?どうする?」みたいな、ニヤけたこふざけ感。これが集団心理というものなのでしょう。調子に乗った“だけ”。本人に悪意がないことが、余計に恐ろしいです。

さらにTwitterで拡散された「歴代最高に荒れたね笑」「審判にガチギレされたけどガン無視笑」などという、当事者と思われる子らのコメントも、悪びれてなさ過ぎて、怖さを増長させられました。

筆者の周囲でも、「中学生なら、女性が数千人のニヤけた男に取り囲まれたら怖い思いをするだろうとか、わかると思う。わかってて、ああいうことをした気がする。ほんと、こういう男って気持ち悪い」と嫌悪感を顕わにする人もいたし、「自分の子供がここにいたら、首が1回転するくらいぶん殴ってやる」と母親目線で苦々しく語っている人もいました。

「こういう子らが、将来、セクハラとか、集団レイプとかを“悪気はなかった”とか言ってやるんだよ」という発言は決めつけすぎだと思いますが、この現場を突っ立って見ていた大人がいたことからも、男性にとっては「大事にするほどのことじゃないもの」なのかもしれません。

実際そのあと、何事もなかったかのように普通に試合が行なわれたそうですし、13日には主催者である連盟が謝罪文を公式ホームページに発表しましたが、それまでは「稲村さんに寛大に対応していただいて……」など、「中で話はついているんで」風のコメントで濁していました。何言ってんの?稲村さんは怒ってるし、怖かったに決まってるじゃん!いや、決まってはいませんが。

稲村さんの「大丈夫」は「大丈夫」なんかじゃない

確かに稲村さんは、始球式後には「ハプニングはあったけど、みんなからパワーをもらった」「私は全く問題なく大丈夫ですよー」などとTwitterで発信し、テレビの取材に答えたときにも「これからも一生懸命、野球をやってもらって、野球界を盛り上げるために頑張ってほしい」と、今回のことを「気にしていない」と主張していました。

また、稲村さんは「握手はせがまれたけれど体に触られるということはなかった」と、中学球児の性犯罪疑惑自体も完全否定していました。Twitterで「触っちゃった!」と呟いている当事者らしい子らのコメントが魚拓され、当事者特定がされたのなんだので炎上しているにも関わらずです。その真偽はわかりませんが、映像の様子を見ても、筆者は黒だと思っています。でも、本人が「ない」というのであれば、部外者はそれ以上のことは言えません。

でも、これって自分も所属していた連盟の顔に泥を塗らないように、野球を楽しみにしている子らの試合が中止にならないように、SNSなどで批難されはじめている子らが傷つかないように、といった配慮なんじゃないでしょうか。「大丈夫」を言葉のまま「大丈夫」と受け取るなんて、どんな思考回路をしているのかと、愕然としてしまいます。

そして、世間はこれを「神対応」と評価しているようです。自分が怖かった思いを我慢して「大丈夫」って言うのが「神対応」とされる風潮は、世のセクハラ・パワハラ被害告発を抑圧することにもなるんじゃないかと思ってヒヤヒヤします。配慮は大事です。稲村さんが悪いとも思いません。でも、こういうことがあったときに、ちゃんとやっとかないと、「こういうことしてもOKなんでしょ?」っていう空気が作られてしまうと思う。

だからといって、あの場で稲村さんが泣き崩れたり、事務所が大騒ぎして大会が中止なんかになったら、みんながもやもやした気持ちになるでしょう。調子に乗った子らは「悪気はなかった」から、ふてくされるでしょうし、稲村さんは心苦しい気持ちになると思います。自分が被害者なのに、加害者のことを考えてあげなければいけない。なんて理不尽なんでしょう。相手が子供だからでしょうか。正解はなんだったんでしょうか。あーもやもやする。

組織に所属していると、大人同士の関係でも、「自分が我慢すればまるく収まるから言わない」ということがよく起こります。セクハラ・パワハラ被害告発がしにくいのも、そのひとつです。

「酔った上司に冗談めかして抱きつかれ、震撼した」「セクハラ被害を愚痴ったら“あんまり人に言わない方がいいよ”と逆に責められた」〜その2〜では、働くアラサー&アラフォーに聞いた「大丈夫だけど大丈夫じゃない」体験談を紹介します。〜その2〜に続きます。

「スポーツしているから爽やか」とか「心身ともに鍛えたらなんちゃら」とかいうの、すっかり崩壊してる平成30年。