「自民党内での“安倍一強”状態の風向きが変わり始めた。秋の総裁選へ向け、特に二階氏、額賀派に大きな影響を持つ青木氏、岸田派名誉会長の古賀氏の3長老の立ち位置が微妙に変わりつつある。3人は石破氏寄りに動き、安倍3選の妨害に動き出したのでは、ともっぱらだ」

 こう明かすのは、ベテラン自民党議員。その一端を象徴する出来事が、春の嵐が吹き荒れた3月2日に起きた。総裁選への出馬を明言している石破茂元幹事長が、安倍支持をいち早く打ち出していた二階俊博幹事長を訪れ会談したのだ。
 「石破氏は『春のご挨拶』などと煙に巻いているが、幹事長室を訪れ、サシで話すようなことはまれで、党内はかなりザワついています。2人はすでに急接近しており、何かを確認し合ったのではないか。そんな様々な憶測が、首相を支える細田派内でも広がっているのです」(政治部記者)

 それだけではない。総裁選へ向け、派閥としてはいまだ方向性を明確にしていない、石原伸晃前経済再生担当相が会長を務める石原派(近未来政治研究会)の最高顧問、山崎拓元副総裁が、近々に石破派(水月会)の勉強会に講師として参加し、憲法改正をテーマに講演をするという。
 「石原派は国対委員長こそ出しているが閣僚はゼロと、このところ安倍政権から冷飯を食わされている。その意味で、結束を強くし、存在感を示すために、反安倍の狼煙を上げ、石破派につく可能性は大きくなっている」(自民党関係者)

 また2月には、額賀派(平成研究会)では分裂騒動が起きている。
 「裏では、選挙で息子を全面支援してもらった恩で石破氏と急接近している、青木幹雄元参院議員会長が糸を引いていたとされる。今も参院と額賀派に強い影響力を持つ青木氏の意向を受け、額賀派参院議員らが安倍寄りの額賀福志郎会長を降ろしたということ。クーデターは成功し、後任の会長には、かつて青木氏が秘書として仕えた竹下登元首相の弟、竹下亘総務会長が就く。これにより、派閥は一気に石破寄りになると見られます」(前出・記者)

 竹下亘氏が島根、石破氏は鳥取という隣県の関係で、2人は何かと縁が深い。
 「'08年の総裁選で石破氏が立候補した際、竹下氏が推薦人集めに奔走している。また、石破氏は昨年12月、石破派の中西哲氏を掛け持ちの形で額賀派に送り込んでいるんです。その後に起きたクーデターの結果といい、竹下氏の会長就任といい、青木氏をバックに石破氏の計画通りに事が運んでいるのではないか」(自民党関係者)

 その青木氏と親しいとされる古賀誠氏が名誉会長の岸田派も、歩調を合わせる形で動き始めたという。
 「3月1日の夜、岸田派の望月義夫元環境相らと石破派の重鎮、鴨下一郎元環境相らが都内で会合を開いている。岸田文雄政調会長も総裁選に意欲を示す中、双方で何が話し合われたのか情報が飛び交っているが、状況を見るに、まずは石破で、その次に岸田といった棲み分けの話だとも言われている」(細田派関係者)

 こうした長老を中心とした動きの背景には、何があるのか。
 全国紙自民党担当記者はこう分析する。
 「安倍首相の政権運営を不安視する事態が、いくつも生じつつある。3人は、その芽が秋までに政権を死に体に陥らせると読んで同調し合っている節がある」

 不安視する“芽”は、主に2つある。
 「1つは安倍内閣が今国会の最重要法案と位置付けていた、働き方改革関連法案の裁量労働制対象拡大の失敗。厚労省のデタラメな調査データは、最終的に1000件にまで上り、結局は引っ込めざるを得なくなった。問題の長期化を避けるため安倍首相は『裁量労働制の部分については削除』を繰り返し、低姿勢に出ているが、自民党内からも『これでは消えた年金問題と同じだ』との声まで上がり、内閣の求心力低下は必至の状況になっている」