デジタル広告収入が伸び悩むなか、あらゆる角度から、再びマイクロペイメント(少額決済)を検討するパブリッシャーが増えてきた。

過去数カ月、スクロール(Scroll)やインビジブリー(Invisibly)、ブレイブブラウザ(the Brave browser)など、多数のマイクロペイメント重視のスタートアップが、受容性の高いパブリッシャーの注目を集めている。

トニー・ヘイル氏率いる有料広告のスタートアップ企業スクロールは、ガネット(Gannett)やニューヨーク・タイムズ(The New York Times)といった定期購読型のニュースパブリッシャーや、スレート(Slate)やフュージョンメディアグループ(Fusion Media Group)などのデジタルネイティブに働きかけ、1年間の試験運用を実施している。ジム・マッケルベイ氏のスタートアップ企業インビジブリーでは、調査会社コムスコア(comScore)が追跡したアメリカのパブリッシャーのうち、73%が2018年の第4四半期に製品をテストすると口頭で約束していると語る。

問題の解決を公約



パブリッシャー各社も、過去にマイクロペイメントが機能しなかったことは、嫌というほどわかっている。しかし、これらの新企業は、広告ブロックや貧弱なユーザーエクスペリエンス、ユーザー1人あたりの売上額低迷など、扱いにくい問題の解決を公約している。そして、マイクロペイメントの核心がオーディエンスに見えていないなかで、そのソリューションは公約実行できるだけの斬新さがあるように見える。

「広告がなくなればよいのに、というオーディエンスの要望は理解している」と話すのは、フュージョンメディアグループのビジネス開発担当バイスプレジデントを務める、ライアン・ブラウン氏だ。「パブリッシャーにも、ピュアプレイ(特定の商品等に特化した)広告以外の選択肢を模索したい、という強い要望がある」。

マイクロペイメントを通じてデジタルコンテンツに資金提供するという考え方に魅了された者は多い。アメリカンロイヤー(The American Lawyer)マガジンとコートテレビ(Court TV)の創始者であるスティーブン・ブリル氏は2009年、ジャーナリズムオンラインではじめてそれを批判した。2012年には、タイム(Time Inc.)、コンデナスト(CondéNast)、ハースト(Hearst)、ニュース・コープ(News Corp)、メレディス(Meredith)の合弁会社であるネクストイシューメディア(Next Issue Media)がアプリを立ち上げた。最終的にテクスチャー(Texture)となったそのアプリは、月額料金を支払った利用者が160ものマガジンにアクセスできるサービスを展開している。2014年にローンチしたオランダのペイ・パー・アーティクル(読んだ記事ごとに料金を支払う)形式のスタートアップ企業ブレンドル(Blendle)は現地で人気を博し、2016年にはアメリカでベータ版を開始した。

ブレンドルは技術的にアメリカではまだベータ版で、テクスチャーも数年前に「数十万人」という購読者が集まったとしているが、まだ自らマーケティングを続けている状態だ。こういったアイデアはまだ健在だが、いずれも共通の欠陥を抱えている。

「アプリだと限界がある」



最大の課題は、オーディエンスの構築だ。ブレンドル、テクスチャー、インクル(Inkl)など古参のスタートアップの大半はアプリなので、オーディエンスを集めるのが難しい。アトランティック(The Atlantic)でデジタルオペレーションのバイスプレジデント兼ゼネラルマネジャーのキム・ラウ氏は、「アプリベースだと、歴史的にオーディエンスの規模に限界がある」と話す。

インビジブリーは自らを広告ネットワークと位置付け、スクロールもユーザーのクッキーに依存しているため、その点に関してはいずれも問題ないだろう。しかし、読者がスクロールを利用するにはクレジットカードが必要なので、オーディエンスと直接つながり、独自の購読契約およびメンバーシップを展開したいパブリッシャーの妨げとなる可能性がある。

「パブリッシャーにとっては価値のあることだ」と、ラウ氏はいう。「しかし、我々が注力したい分野はほかにもたくさんある」。

媒体が目を向ける理由



もうひとつの問題は、パブリッシャーがその実験に費やすことのできる時間や人材は限られているということだ。スレートの製品および事業開発担当バイスプレジデントのデビット・スターン氏は、「インビジブリーのモデルは悪くないし、うまくいくかもしれないが、開発にかけられる時間や法定時が限られているので、スクロールを優先した」と話す。

いまも収益減少に直面しながらも、多くのパブリッシャーが何か打開策を探るため、これらのものに目を向けてきた。インビジブリーのベータプログラムへの参加の同意書に署名したバッスルデジタルグループ(Bustle Digital Group)でマーケティングおよびオペレーション担当シニアバイスプレジデントを務めるカイ・シン氏は、「我々は広告モデルと悪戦苦闘している」と話す。「彼らは、[思い切って一緒にやろう]といった。私は、さて彼らがどんなことをやってくれるか、と考えた」。

Max Willens(原文 / 訳:Conyac)
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