グーグルでは誰もがリーダーシップを発揮する組織をつくる。(時事通信フォト=写真)

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■他者を巻き込み行動するリーダーシップが世界標準

「リーダーシップ」と言えば、日本では経営者や管理職など、権限や役職を持った人が発揮するもの、というイメージを持つ人が多いのではないでしょうか。しかし、海外の先進国では、リーダーシップは組織の上位階層だけでなく、すべての従業員が発揮すべきスキルという認識が趨勢となっています。なぜなら、急激な環境変化に即応したり、イノベーションを創出したりするには、権限者や役職者によるリーダーシップだけでは限界があるからです。そのため、権限や役職に関係なく、目標を達成するために、自然発生的に他者を巻き込み行動するリーダーシップが、世界標準になりつつあるのです。

権限や役職に関係なく、ということは、リーダーシップを発揮する人が多数存在することになります。日本には「船頭多くして船山に上る」ということわざがあるように、リーダーが複数いると、組織がうまく動かないのではないか、と思う人もいるかもしれません。確かに、号令することだけがリーダーシップだと考えれば、そうなるでしょう。しかし、権限と関係ないリーダーシップを持った船頭であれば、船を目的地まで安全確実に運航するという共通の目標のために、自分は何をすべきかを考え、その役割に徹した仕事をします。したがって、リーダーシップを持っている人が多ければ多いほど、目標を達成しやすくなります。

このようなリーダーシップは、誰でもトレーニングによって身につけられます。アメリカでは、1980年代に、グローバルに展開する企業の間で、権限のない人にもリーダーシップが必要だと広く考えられるようになりました。それに応える形で、90年代にアメリカの大学でリーダーシッププログラムが急増して普及し、現在ではほとんどの大学で教えられています。

日本で従来行われてきたリーダーシップ教育は、成功したリーダーの講演を聴き、感想を話し合うといったスタイルが一般的でした。しかし、そのやり方では、対象者との距離が遠すぎて、リーダーシップを身につけるまでの道筋を想像できません。一方、アメリカの大学では、実際にリーダーシップを発揮してみて、それが機能するかどうかを周囲からフィードバックしてもらい、修正してもう1度やってみるというサイクルの繰り返しで習得する手法が頻繁にとられています。

私は、日本の大学でも世界標準のリーダーシップ教育が必要と考え、アメリカの大学などで使われている手法を参考にして独自の教育プログラムを開発し、学生に教えるとともに、全国の高校・大学にリーダーシップ教育を普及させる活動を行っています。

■リーダーシップを発揮するための「3要素」とは

リーダーシップには、さまざまな定義があります。学界で昔から言われてきた定義は、「他者に影響を与えて、成果を出すこと」です。しかし、これはリーダーシップを持っている人を識別するための定義でしかなく、どうすればリーダーシップを発揮できるのかはわかりません。

リーダーシップ開発論における基準で最も有名なのが、クーゼスとポズナーの「5つの実践」です。私はそれを参考に、初学者にも理解しやすいように、リーダーシップ行動に必要な「最小3要素」に整理しました。1つ目は「目標設定」。明確な目標を決めて、周囲の人たちと共有します。2つ目は「率先垂範」。権限がなくても周囲を動かすためには、自ら進んで行動することが求められます。そして3つ目は「同僚支援」。周囲の人たちには、行動したくてもしづらい事情が大抵あるものです。それを取り除く支援をします。

もちろん、この3つ以外にもさまざまな要素があります。例えば、目標を決めて走り出した後に、状況の変化に応じて目標を修正する、あるいは、うまく進まない状況でも粘るといった行動は、現実にはよく求められる要素です。しかし、少なくともこの3要素をすべて発揮できなければ、リーダーシップとは言えません。

この3要素を身につける王道は、実際にリーダーシップ行動を取ってみることです。そして、その行動について、周囲からSBIフィードバックを受けます。フィードバックの内容は、どのような状況(Situation)で、どのような行動(Behavior)を取ったことによって、自分と周囲にどのような影響(Impact)があったか、の3点です。リーダーシップは態度のスキルなので、自分はリーダーシップを取ったつもりになっていても、実際には発揮されていないことがあります。そのため、周囲から見てどうだったのか、フィードバックを受けることが重要になるのです。その内容を参考にして、行動を振り返り、改善する形で再度リーダーシップ行動を取ってみます。このサイクルを繰り返すことで、リーダーシップスキルは次第に高まります。

このトレーニングを普段から行うには、フィードバックをしてもらう相手が必要になります。建設的なフィードバックをしてくれる上司や先輩がいればベストですが、それが難しい場合は、互いにフィードバックし合える相手を見つけるとよいでしょう。相手が同じ職場なら、頻繁にフィードバックし合ってスキルを磨くことができます。

フィードバックをするうえで注意したいのは、評価と混同しないことです。相手の人格や業績を評価するものではなく、あくまでもリーダーシップスキルを高めるために行うものだということを、あらかじめ明確にしておくことが大切です。また、小さな成功体験の積み重ねが成長意欲につながりますので、よい面を必ず認めて、信頼関係を築いたうえで改善点を伝えるようにすべきです。

■「前向きになった」「人生観が変わった」

権限を必要としないリーダーシップを組織に定着させるには、トップや上司の理解が欠かせません。現場や部下からの提案を歓迎する風土が必要です。また、社内で集合研修を行う場合は、階層別などで各部門からバラバラに集めて行うだけでなく、部署ごとに行ったほうが、組織開発にもつながり、フィードバックの文化もつくりやすくなります。階層別に行う場合は、上位階層から実施したほうが、率先垂範にもなり、組織に浸透しやすくなります。

このリーダーシップは組織内だけでなく、取引先との関係においても有効です。ゼロサムゲームではなく、双方の利益の和が増えることを目標として共有し、そのための提案を行い、それに対するフィードバックを受け、さらに提案を行うことを繰り返して、信頼関係が徐々に構築されていきます。

権限を必要としないリーダーシップを学んだ学生は、「自分から仲間を集めて行動すれば、物事は変えられる」ということを実際に体験するので前向きになりますし、なかには「人生観が変わった」と言う学生もいます。また、私が研修を担当したある企業からは、3年間継続して取り組む中で、従業員たちが新しいアイデアを積極的に提案するようになったという声を聞いています。

今、経営でも政治でも、さまざまなところで、上の人たちに任せておけないようなことが起きています。それを自分たちの力で解決するには、権限を必要としないリーダーシップが必要です。このベーシックなスキルを身につけた人が増えていけば、日本はかなり変わるのではないかと思います。

また、旧来の権限を伴ったリーダーシップは、男性的な姿勢を望まれることが多いですが、権限を必要としないリーダーシップは、女性にも発揮しやすいスキルと言えます。特に同僚支援は女性が得意な部分です。このリーダーシップが広がれば、女性のリーダーが増えることも予想されます。

(早稲田大学大学総合研究センター教授 日向野 幹也 構成=増田忠英 写真=時事通信フォト)