写真はイメージです(写真=iStock.com/fizkes)

写真拡大

日本の男性は「ほめるのは下手」なくせに、実は人一倍「ほめられたい」生き物である。コミュニケーション・ストラテジストの岡本純子さんは、「男はプライドの生き物。『すごい』『ありがとう』『こんなの初めて』という『3つの言葉』で転がせる」という。その背景には女性に比べて男性は「ほめられづらい」という「絶望的な格差」の存在がある――。

*本稿は、岡本純子著『世界一孤独な日本のオジサン』(角川新書)の第4章「オジサンたちのコミュ力の“貧困”」の一部を再編集したものです。

■日本人は「ほめる」のも「ほめられる」のも下手クソ

アメリカ人などと比べると、日本人は基本的に「ほめ下手」だ。

アメリカは、子供のころからとにかくほめて育てる文化なので、「子供をほめる100の言葉」といったリストが山ほどあり、例えば、日本語の「すごい」「素晴らしい」だけで、Super、Fabulous、Fantastic、Terrific、Awesome、Marvelous、Brilliant、Great、Excellent、Amazing、Wonderfulなど、ゆうに50種類以上の言い方がある。

キリスト教には「神をたたえる、賛美する」という習慣があり、お祈りや讃美歌などでも、ほめて、ほめて、ほめまくる。「あなたは偉大」「あなたを崇めます」「あなたこそ真の王」など、延々と続く礼賛の言葉。そうした文化においては人を称賛することへの抵抗感はあまりないのかもしれない。

日常生活でも、お互いをひたすら、ほめ合っている。

「その服、素敵ね、どこで買ったの」「なんてきれいな髪」「似合っているね」など、スムーズに次から次へと人を喜ばせる言葉が出てくる。それがお世辞だと分かっていても、聞くほうは何となく気分がよくなるし、会話もはずむ。

職場も同様だ。アメリカの会社の職場でのコミュニケーションを観察していると、絶えず、社員同士が「ほめあい」「認め合っている」。「Great work(素晴らしい仕事ぶりだね)」、「ありがとう」「感心するよ」。常に細かく声を掛け合い、お互いの存在価値を認め合う。「ほめ言葉」はコミュニケーションの最高の潤滑油なのだ。

▼「欧米流のほめ育てが挫折に弱い若者を生み出した」

その点、日本人は「お世辞」「社交辞令」「おべっか」「二枚舌」などと否定的な言葉で表現するように、ほめること自体を、表面的で上っ面だけの行為のようにとらえているところがある。

口がうまい奴は信頼できない、何か裏がある、という通念もあってか、特に男性は「ほめること」をためらいがちだ。やたら、ほめる奴は、「軽率」「ちゃらい」というマッチョな「偏見」もはびこっている。「日本はほめない文化なのだから仕方ない」と言い訳をしたり、「欧米流のほめ育てが挫折に弱い日本の若者を生み出している」「ほめ過ぎはよくない」などといった説も喧伝されたりする。

もちろん、ほめ過ぎは問題だが、そもそも、ほめることがDNAに組み込まれていない日本人が、どんなにほめたところで、過ぎることなどない。日本の“ほめ力GDP”は世界水準よりダントツに低く、絶望的な「飢餓」状態にあるといってもいい。「ほめ過ぎ」より、「ほめなさ過ぎ」のほうが100倍問題なのである。

■英BBCも不可解に思う「なぜ日本ではほめないのか?」

2016年8月の英BBCのニュースサイトの「なんで日本ではほめないのか」という記事の中で「伝統的な日本の階層的な職場社会においては、ポジティブなフィードバックはほぼ、ありえない」という指摘がある。まさに「西洋の国々とも、ほかのアジアの国々とも全く異なるビジネスルール」(同記事)だという。

筆者も20年弱、サラリーマン生活を経験したが、上司にほめられた思い出があまりない。「もっとほめてもらえたら、やる気だってもっと上がるのに……」。こんな思いを抱いている日本人は少なくないのではないか。日本人の「ほめ力欠乏症」の実態を知りたくて、自分の会社で1000人の会社員にネット上でアンケート調査を行った。その結果は以下のようなものだ。

Q ポジティブなフィードバック(ほめる、評価する)とネガティブなフィードバック(叱る、責める)のどちらにやる気を刺激されるか。

「ポジティブ」(84.1%)
「ネガティブ」(15.9%)

Q 直属の上司はほめてくれますか。

「ほめるタイプ」(42.3%)
「ほめないタイプ」(57.7%)

▼40、50代男性社員は「人からほめられない」

つまり8割以上が褒められたいのに、実際には4割程度しかほめられていないという「ほめギャップ」が存在していた。

特に、上司にほめられる割合は男性社員のほうが女性社員より低い。「ほめる上司」を持つ割合は、20代の女性社員の場合は59.2%であるのに対し、40代の男性社員の場合は27.1%、50代の男性も30.8%しかほめられないという絶望的な年代・性別「格差」が存在していたのだ。(図参照)特に、やる気ややりがいを失いがちな40代、50代会社員の士気と「ほめ不足」に関係性があると言ったら、勘繰り過ぎだろうか。

男性は女性に比べて「ほめるのは下手」なくせに、実は人一倍「ほめられたい」生き物である。周りの男性を見ていると、単純なぐらいに「ほめ」に弱い。たとえ、おべんちゃらでも、お世辞でも、その辺はあまり見分けがつかないらしい。

■「こんなの初めてです」と言われ有頂天になる上司

女性の場合は、明らかなおべっかは「嘘臭い」と見抜くのだが、男性の場合は、素直に喜び、調子に乗るところがある。「男はプライドの生き物、そのプライドをくすぐる『3つの言葉』で男は転がせる」と恋愛心理学の先生に教わって以来、筆者は、その3つ「すごい」「ありがとう」「こんなの初めて」を「人生訓」にしているが、確かにその3語の使いまわしで男性のモチベーションはぐんと上がる気がする。

自分がそれだけほめられたいのに、他人をほめることには抵抗がある男性。一方、女性は自分がほめられたいから、相手もほめる。女性にとっては、ほめることなどお茶の子さいさい。お互いをひたすらたたえ合って、ほめ力をぐんぐん鍛えるのだ。

▼日本人はみんなほめられたくてウズウズしている

アメリカの調査会社ギャラップの調査によると、人は働きを認められ、ほめられると、生産性は向上し、勤労意欲、忠誠心は増し、帰属意識が高まり、会社への定着率が上がる、という。

転職が盛んなアメリカにおいては、優秀な社員をつなぎとめておくためにも上司の「ほめ力」は欠かせない。戦略コンサルティング企業、マッキンゼー・アンド・カンパニーによれば、たとえ報酬を上げなくても、(1)上司からの称賛(2)幹部(リーダーシップ層)からの評価(3)プロジェクトやタスクフォースの仕事を主導するように任せる、という3つの方法で、コストをかけずに、社員のやる気を刺激できるとしている。

なぜ、「ほめること」は人のやる気を刺激するのか。

それは仕事が認められ、称賛されることによって、脳内に「生きる意欲を生み出す快楽ホルモン」ドーパミンが放出されるからだ。ほめられることによって、自分の価値を再認識し、自分が必要とされていると感じることができる。最も強力な動機付けツールなのに、日本人はその活用を怠っている。

ほめられたいのに、ほめられない。ほめたくても、ほめられない。日本のおじさんの「ほめられない」苦悩の淵はマリアナ海溝よりも深いのだ。

(コミュニケーション・ストラテジスト 岡本 純子 写真=iStock.com)