女性の活躍に、本当に必要なものは。


 働き方改革のあり方、またそもそも働くことの価値を、根本から問い直すカギは「女性の活躍」かもしれない。

 2016年4月には女性活躍推進法が全面施行され、女性の個性や能力を発揮させるための取り組みが、大企業を中心に動き出している。また、働き方改革実現会議でも「女性・若者の人材育成など活躍しやすい環境整備」や「子育て・介護等と仕事の両立」が議論され、数々の施策が実行計画として明記されるに至った。全体として「女性が働きやすい社会」に向けて舵を切り始めたと言えよう。

 しかし、さまざまな方針や施策を議論する際、「女性」をひとくくりに考えてしまってはいないだろうか。各種ある統計も、全体としての傾向こそ把握できるが、そこに個々の人々が持つ悩みなどは現れてこない。働く現場の女性が本当に求めているものが見過ごされてはいないだろうか。

 女性が働き活躍していくために、社会にとって本当に必要なものは何なのか。

 長年にわたり、働く女性の「生の声」に耳を傾け調査をしてきた、ビースタイル「しゅふJOB総研」所長の川上敬太郎氏に、調査の目的や概要、そして考えられる女性の働き方の課題を聞いた。

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働く女性の生の声を聞く

――そもそも、なぜこのような調査を行ったのですか。

しゅふJOB総研所長の川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)氏。1997年愛知大学文学部卒業。テンプスタッフ株式会社(現パーソルホールディングス)に入社し新規事業責任者等を歴任後、転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』では営業推進部部長 兼 編集委員を務め、人材ビジネス企業の経営者に向けた勉強会を企画運営。2010年株式会社ビースタイル入社。2011年より現職。フェイスブック上で人材サービス業界のあり方を問う『ヒトラボ』『人材サービスの公益的発展を考える会』を主宰し、厚生労働省委託事業検討会委員なども務める。メディアへの出演・コメント多数。日本労務学会員。


川上敬太郎氏(以下、敬称略) 当社では多くの働きたいという主婦の方々から、日々、要望などいただくわけですが、そういったものが社会には十分伝わっていないなと。誰もがもっと働きやすくなる社会にしていくためには、働く主婦の生の声をきちんと届けていかないといけないと思ったのです。

 実際、多くの主婦の人たちは、働いて自分自身もっと活躍したい、輝きたいと思っているのですが、世の中が主婦というものに対して誤解をしているところがあります。本当は人材としてもすごく優秀な人たちなのですが、「仕事は二の次で」「大した仕事はできない」「本腰を入れて仕事をしない」など、ある種の思い込みのような形で見られてしまいがちです。

 だから、主婦層と呼ばれる人たちの考えや生の声を伝えて、その誤解を解いていくことによって、活躍の場をもっと広げていきたいと思いました。雇用創出をしようと思っても、受け入れる企業さんも、あるいは主婦の方ご自身も、自分の可能性に気づいていなければ社会は変わらない。ですので、7年前からデータを取って発信するというのを始めました。

――ありのままの女性の姿というところでしょうか。

しゅふJOB総研「」より。


川上 一言に主婦といっても、考え方や置かれている環境は十人十色。象徴的な例を挙げると、2016年に「保育園落ちた日本死ね」というブログが話題になりました。この頃、これはきっと働く女性の多くが共感しているだろうと思ったのですが、実際どれくらいなのだろうと思い、調査してみたのです。

 その結果、共感している方も多かったのですが、一方でフリーコメントには批判の声もかなり寄せられました。その批判もいろいろな種類の批判があって、言葉遣いとしておかしいという批判もあれば、そもそも子どもを保育園に預けるべきではないというのもありました。それが正しいとか間違っているとかいうことではなく、「女性だからみんな同じ考えだ」と見てしまうとしたら間違いだと改めて気づかされました。

 これは「アンコンシャス・バイアス(Unconscious Bias)」と呼ばれるものの1つです。十把一絡げに見てしまうスタンスは、認識されていない少数の人に対する「無意識の偏見」につながってしまうかもしれません。女性はみんな保育園に預けたいんでしょと、保育園に預けられないからみんな怒っているんでしょと言われると、いや私はそんな考えじゃないよという人も中にはいるわけです。

働きやすくなった実感は?

――2017年12月に発表された「働く主婦が振り返る2017」という調査では、「自由にキャリアを選べるようになった」「女性が働くことの価値をより認めるようになった」との回答が、前年と比べて増加しました。その理由はどう考えられるでしょうか。

しゅふJOB総研「」より。


川上 いくつか要因はあると思いますが、女性や主婦層が戦力として優秀な人材なのだ、という事実に気づき出したということもあるように思います。それは主婦自身も自分たちに対して気づき出しているし、企業側もそこに気づき出しています。

 例として、我々が取り組んできた事業を挙げると、「スマートキャリア」というサービスがあります。こちらは主婦層を主な対象に、補佐的な業務ではなくて、どちらかというとコンサルティングに近いような専門性の高いポジションを、時短勤務でお願いするというものです。職種は、広報、法務、総務、人事などいろいろあります。

 人事を例として挙げると、一般的に派遣やパートで働くという場合は、人事の経験者であってもサポート的な業務が多いのです。それに対してスマートキャリアは、人事の経験者に対して「就業規則を新しくしたいので改訂をお願いしたい」というように、専門的な知識や経験がないとできないレベルの仕事を任せていきます。すなわち、ハイキャリア層向けの時短の人材サービスでして、これが実際に我々のサービスの中で一番伸びています。

 いま、社会では採用難が叫ばれていますが、「正社員でフルタイムで年収1000万のスペシャリスト」を雇おうとすると、なかなか人員の確保は難しい状況です。そういうときに、主婦層で優秀な方に、拘束時間でなくて成果を明確にして依頼すれば、時短勤務でも十分な成果を返してくれる人たちが実際にいるのです。

――こういう発想がなかった時代、スキルを生かし切れなかった人も、多かったのではないでしょうか。

川上 社会のあり方に合わせようとしてしまい、そういうことを考えてはいけないとか、考える自分がダメなんだと責めてしまう人もいます。ですので、そこは旧来の考え方から解放されなければなりませんし、選択肢を増やさなければなりません

 キャリアを継続するための仕事をやろうと思うと、どうしてもフルタイムになってしまいます。そうすると、家庭を犠牲にするのかと板挟みになりがちです。でも、そもそも家庭は女性がマネージメントしなければならないなんて誰が決めたのでしょうか。

一方で男性の役割は

――女性の働き方を考えるためには、男性の役割も考える必要があると思います。「夫の家事・育児への取り組み2017」の調査では、不満を持つ女性と持たない女性が、ほぼ半々でした。夫の役割についてどのあたりを認めていて、どのあたりに不満があるのでしょうか。

しゅふJOB総研「」より。


川上 夫婦間によっても違うという話だと思います。私自身もデータをとったときに気になって、自分の妻に聞いたのですが、不満はないと。ただ、そこで話し合ってみると、いろいろなことが出てきました。結局は、その夫婦間で見えない不満をためているケースが結構あって、家事をどうシェアするかの話し合いが、きちんとなされていないケースが多いのです。

 ただ、忘れられている点として、夫側はなぜそこまで家事をしないかという理由の1つに、夫側が家庭の収入の責任を負っているということがあります。「妻が家事」というイメージに紐付けられているのと同じように、夫は「自分が稼がなければいけない」と世の中から見られています。そこも同時に解放されないと、夫側も家事をしようという気持ちになりにくい面もあると思います。

――どうしたら、そういう社会的なバイアスを崩していけるでしょうか。

川上 まずは、こういう情報を目に見える形にして伝えていくことだと思っています。それによって、たくさんの方の目に触れることで、「そういう見方もあるのか」というように、アンコンシャス・バイアスをアンコンシャスではなくすというのが、まず大事かと思います。しゅふJOB総研も、その一翼を担う存在であればと願っています。

 次に大事なのは、事例が増えていくことだと思っています。最近、僕が見てかっこいいなと思うのは、朝、新宿駅で、赤ちゃんを前に抱いて出勤している男の人です。そういう姿を実際に目にするようになれば、そこに恥ずかしさはなくなってきますし、ずいぶんと変わるだろうなと。

 ただ、嫌なのは、頑なになってしまうことです。1週間の家事時間などよく比較で並べられますが、「男ももっと家事をしなくちゃいけない」とか「最低3時間やらなきゃいけない」とか、本来は他人から押しつけられるものではありません。

 家事が得意な男の人であれば家事をもっとやればいいし、それによって時間が割かれるのであれば、その分、妻が収入を確保するというバランスもあっていいはずです。また、家事代行のサービスや食器洗浄機の導入などで、カバーすべき絶対量を減らすこともできます。そうして、家族の中で話し合いながらきちんと解決していければいいのではないかと思います。

これからの働き方は

――これからの女性の働き方は、どうなっていくと考えられますか。

しゅふJOB総研「」より。


川上 主婦の働き方、また女性が活躍するための課題として、一番に「そもそも条件に合う仕事が少ない」というのがあります。女性活躍推進法ができた頃に、企業に何を求めるかを調査したところ、保育所を求める声もたくさんありましたが上位から4番目でした。一番は時短や日数など、自分の条件に合う仕事をもっと増やしてほしいというものでした。

 いま、求人倍率が上がっているといいますが、働く主婦層からするとそこまでの実感はありません。たとえば、仕事の内容、給料、通勤場所、社内の雰囲気など、他の条件がどんなに良くても、17時までに子供を迎えに行かなければならない人は、仕事の定時が17時までだと、それだけで無理なのです。

 主婦たちの条件に合う仕事が足りないという認識が、世の中にまだまだ足りないと思います。

――時間の制約は大きいですね。

川上 もう1つ大事なのは、拘束時間で評価して給料を払うという考え方自体が、ネックになってしまっています。拘束時間ではなく成果に対して給料を支払うという形にしていく必要があります。特に、時間制約のある主婦層にとっては、そこはすごく大事なポイントです。

 例えば子どもが急に熱を出して早く帰らなきゃいけないというときに、「時間は任せますよ、ただ来週までにこれをやっておいてもらえますか」というのが明確だったら、その人は自分のスケジュールをやりくりできますよね。仕事の考え方自体もそちらに変わっていけば、こういう問題も解消されていくと思います。根本的な仕事のあり方を今こそ見直すべきなのです。

筆者:西原 潔