電車内の忘れ物。相互乗り入れの多い路線では捜すのが大変だ(Graphs/PIXTA)

大学で消費者問題に関する講義をしているが、講義の後などに学生から消費生活上の相談を受けることがある。先日、ある学生からこんな相談があった。

東京メトロ副都心線を利用し、小竹向原駅から渋谷駅まで行ったときのこと。渋谷駅でパスモ定期券(記名式)と自宅の鍵が入った手のひらサイズのコインケースがなくなっていることに気づいた。駅員さんに尋ねると、「ヒカリエ」そばの改札口にある「お忘れ物承り所」に行くように言われ、さっそく出向いた。
そこで、「落としたと考えられる場所」「乗っていた電車」「落とし物の特徴」を聞かれ、答えると、「届いていないですね」と言われ、各社のお客さまセンターの連絡先が書いてある小さな紙を渡された。副都心線は東京メトロ、東急東横線、東武鉄道、西武鉄道と相互乗り入れしているので、それぞれに連絡するようにとのことだった。
各社に電話をするたびに、同じことを聞かれ、返答は「ありません。連絡が来た際にその都度お捜ししますので、時間をおいてからまたお問い合わせください」という内容の繰り返しだった。そこで、私は30〜40分おきに、各鉄道会社のお客様センターへ連絡し、その都度、同じ内容を説明し続けた。幸い、落とし物は見つかったが、大変な思いをした。何とかならないか。

忘れ物検索システムは各社バラバラ

東京メトロ副都心線は、北は東武東上線、西武池袋線、南は東急東横線、横浜高速鉄道みなとみらい線と相互乗り入れを行っている。そのために直通運転の電車内で忘れ物をすると、どこの鉄道会社で取得され、保管されるかわからない。

そして、現状では、各社の忘れ物検索システムはバラバラで相互に確認できない(東急電鉄と横浜高速鉄道だけは共通のシステムを使用)。そのために、この学生の例のように各社に問い合わせしなければならないことになる。すなわち、電車の運行はシームレス化しているが、忘れ物情報はそうなってはいない。

さらに手間がかかるのは、基本的に、一度忘れ物の問い合わせをすれば、定期的な報告や見つかったときに鉄道会社から連絡が来るシステムでなく、見つかるまで(あるいは見つからずにあきらめるまで)、何度も問い合わせしなければならないことだ。それが複数社に及ぶのだから、確かに大変だ。

無論、忘れ物をしないことが一番だし、その責任は持ち主にあるわけだが、その公共性から鉄道各社は忘れ物データベース等を作って、遺失物が見つかるように努力している。利益にならない業務であり、それには頭が下がる思いではあるが、こうしたバラバラなシステムは何とかならないのだろうか。

その過大な手間は忘れ物をした乗客だけでなく、鉄道会社にも及ぶ。なぜなら、一回の忘れ物で複数の会社に消費者は問い合わせをするのだから、各社の対応量はかなり増大していると考えられるからだ。また、何回も問い合わせ・対応しなければならないことも消費者、鉄道会社ともに面倒なことだ。

鉄道会社の負担も大きい

この点について、各社に聞いてみたが、バッグ、メガネ、傘、小物など持ち主を明確に特定できない忘れ物が多いこと、また、忘れ物の問い合わせが多くて確実な返答対応義務を負うことができないという事情があるようだ。しかし、こうした状況が逆に消費者の問い合わせ回数を増やし、それが鉄道会社の作業量の増大につながるという側面もあるように思う。

本人の連絡先が書いてあるモノなどは鉄道会社から連絡をくれることもあるようだ。東京メトロではネットでも問い合わせることができる。見つからなくても、一回は返事をもらえるが、それ以降は再び電話するなどして問い合わせをする必要がある。

東京メトロの忘れ物保管の流れは、忘れ物がその日に本人の手元に戻らなかったり、メトロから連絡ができなかった忘れ物は、翌日、飯田橋駅構内にある「お忘れ物総合取扱所」に集められ(夜間のものは、翌々日になる場合がある)、3〜4日保管される。それ以降は「警視庁遺失物センター」に移送されるので、なるべくこの期間に問い合わせをするか、お忘れ物総合取扱所に出向き、確認することを東京メトロでは勧めている。警視庁遺失物センターに移送後の忘れ物は、3カ月間保管され、その後処分される。

最近、相互乗り入れの電車の遅延拡大が問題になっているが、その電車で忘れ物をすると消費者も鉄道会社もかなりの負担を強いられる現状も無視できない。これは副都心線だけでなく、東京メトロと相互乗り入れをしている鉄道各社に共通しているし、大阪市営地下鉄と相互乗り入れしている鉄道各社も同様だ。また、東海道新幹線と山陽新幹線の場合も、もし、東京発博多行きののぞみ号の車内で忘れ物をすると、JR東海とJR西日本とで情報の共有化はしていないので、両社に問い合わせする必要がある。

モノがあふれる時代、なくしても捜さないということも多いかもしれない。たとえば、100円傘。わざわざ探す人は少ないと思うが、個人の所有物であるので、鉄道会社としても勝手に処分もできない。鉄道各社はそうした膨大な忘れ物に対処しているのだと思う。

技術革新で何とかなるはず

鉄道を利用する消費者の注意も必要だ。もちろん忘れ物をしないことが重要だが、なくすと困るモノには連絡先を書いておくのがいいだろう。見つかる確率は格段に高まるだろうし、鉄道会社の作業も軽減できる。

鉄道各社は、忘れ物情報を文字情報で把握しているのが現状のようだ。消費者の申し出情報と保管物の照合作業も手間だろうし、不可能なことも多いと察する。技術革新の時代、画像情報の導入も検討すべきと思う。そして、電車の相互乗り入れが当たり前の今日、消費者のためにも、鉄道会社の作業軽減のためにも、忘れ物情報の鉄道各社間の共有化は不可欠に思う。国土交通省も監督官庁として一定の役割を果たすべきだ。