一流の仕事につき、高い年収を稼ぐ東京の男たち。

世の中の大半の女性が結婚を夢見る、いわゆる“アッパー層”と呼ばれる人種である。

しかしその中でも、ハイスペであるが故に決定的に“残念な欠点”を持つ男、というのが存在するのだ。

元彼を35歳の美女・恭子にとられて傷心中の瑠璃子は、彼を忘れるためにハイスペ男との出会いを積極的に繰り返すが、なぜか残念男たちを次々引き寄せてしまう。

瑠璃子が出会う、“残念極まる男”たち。あなたも、出会ったことはないだろうか?

先週は、ピーターパン症候群男・マサシと出会ってしまった瑠璃子。さて、彼女が最後に出会うのは…?




-瑠璃子、今週の木曜空いてたら、面白いパーティーがあるから一緒に行かない?

ランチタイムに瑠璃子が『ルークス 表参道店』のロブスターロールを食べていたとき、渋谷のIT企業で働いている女友達からLINEが届いた。

面白いパーティーとは、若手のベンチャー経営者が多く集まる交流会のことらしい。

実を言うと、ここのところ、残念な男ばかりを連続で引き寄せてしまい、すっかり自分への自信を失いかけていた。

-若干胡散臭いけど…。せっかくだし、参加してみようかな。

瑠璃子は自らを奮い立たせ、パーティーに顔を出すことを決めたのだった。



パーティーは『ティー・ワイ・ハーバー リバーラウンジ』を貸し切って開催された。レストランに隣接された、水上に浮かぶラウンジは、まるで運河に浮かぶ船のようにロマンティックな雰囲気だ。

パーティーは、IT系のベンチャー企業やスマホアプリ、キュレーションサイトなどの経営者で賑わい、人々がしきりに名刺交換をし続けているという少し異様な空間だった。

誘ってくれた女友達も、いつのまにか集団に紛れて名刺交換に夢中になっている。

-場違いだったかなあ…。

まずは自家製のクラフトビールでも飲もうと、バーカウンターに向かいかけたとき、突然誰かとぶつかった。

「…すみません!」
「こちらこそ…すみません…」

その男と見つめ合うこと、約5秒。一目惚れとは、まさにこのことを言うのだろう。瑠璃子は稲妻に打たれたかのごとく、恋に落ちたのだった。


瑠璃子が一目惚れした相手とは?




瑠璃子と男が、呆然と見つめ合っていると、女友達がやってきて声をかける。

「瑠璃子!ずいぶん探しちゃった!…あら?トオルくんと知り合い?」

「え?…ううん、今たまたまぶつかっちゃって…」

女友達は、その男・トオルと元同期だという。

「トオルくんはね、うちの会社を辞めて独立したのよ。いくつもスマホアプリを手がけた、業界でもかなり知られた優秀なwebクリエイターなの」

友人の説明を聞きながら、瑠璃子はトオルの透き通った瞳に吸い込まれそうになっていた。

「瑠璃子ちゃん、はじめまして」

実際に話してみると、トオルはとても気さくで明るく、感じの良い男だ。その熱い視線から、彼の方も瑠璃子に惹かれているのが手に取るように伝わってくる。

うまくいくときは何の駆け引きも必要なく、驚くほどスムーズに事が運ぶ。二人はその場で、週末に会う約束を交わしたのだった。

その週末、早速食事を共にした。場所は、恵比寿にある洒落たイタリアンレストランで、トオルの行きつけの店らしい。

メニューを開こうとした瑠璃子の手を軽く遮って、トオルが言った。

「メニューは事前にオーダーしておいたんだ。僕のオススメ料理ばかり頼んでおいたから、瑠璃子ちゃんは楽しみに待っていて」

にっこり笑う彼の笑顔にときめきながら、瑠璃子は幸せな気分に浸る。

しかし、メイン料理が運ばれてきたときに、瑠璃子は黙り込んでしまった。それは、オマール海老のローストだった。

「ごめんなさい…私好き嫌いはないんだけど、唯一、甲殻類だけはアレルギーがあって、どうしても食べられないの…」

するとトオルは、途端に慌てふためいた様子になる。

「ええっ!?そうだったの?ゴメン…。そしたら何か別のものと替えてもらうね!」

「大丈夫、今から頼んだら時間もかかっちゃうから!前菜もボリュームがあったし、パスタもあるよね。よかったら私の分もトオルくんが食べてね」

本当はお腹が空いていたが、顔を真っ青にして慌てる彼の様子もまた可愛らしく思えて、瑠璃子は微笑んだ。



それからも、彼との関係は順調だった。今日は六本木ヒルズで待ち合わせをして、これからランチだ。

「ランチの店、予約しておいたんだ。瑠璃子ちゃん、テラス席で飲むのが大好きって言ってたよね?テラス席、手配したよ!」

こうして二人で店に向かったが、いくつもテーブルがあるはずのテラス席には瑠璃子たち以外客はいない。

それもそのはず、今日は3月だというのに冬並みの気温の低さだ。屋外用ストーブがあるにはあるのだが、風が強くびゅうびゅうと吹きつけている。一方で店内のテーブルは満席のようだ。

「瑠璃子ちゃん、寒いよね…?ブランケットもらうね。大丈夫?」
「大丈夫だよ…!」

そう口では言いながら、瑠璃子は寒さでカタカタと震えていた。そのうちサラダのレタスが一枚ずつ、強風に煽られてピラピラと宙へ飛んでいく。瑠璃子はそれを必死でフォークで抑えながら、笑顔を保ち続けるのだった。


なんだか不安なトオルとの行く末は…?


それから数日後は、瑠璃子の30歳の誕生日で、トオルの方からお祝いしたいと言ってきてくれた。手料理を振舞ってくれるらしく、今日は彼の自宅に呼ばれている。

高輪台のトオルのマンションにたどり着くと、迎えいれてくれたトオルは、なぜか全身汗びっしょりだ。

「お邪魔しまぁす」

上機嫌で家にあがった瑠璃子は、リビングルームに入って愕然とした。

リビングの片隅には、10個ほどの膨らんだピンクの風船がふわふわと浮かんでいるが、床には大量の、膨らませる前の風船が落ちている。その数は100個ほどあるだろうか。

「トオルくん…これは…?」

瑠璃子が尋ねると、トオルはしょんぼりと肩を落として言った。

「実はサプライズで部屋じゅうを風船でいっぱいにしようと思ったんだけど…風船を膨らませる作業がまさかこんなに大変だとは予想していなくて…間に合わなかったんだ…」

「そ、そうなんだ。せっかく途中まで準備してくれたし、私、手伝うね」

こうして瑠璃子は、なぜか自分の誕生日に必死で風船に息を吹き込んでいた。




結局、途中で力尽きたが、トオルお手製のラザニアやローストビーフのサラダを食べて、途端に夢見心地になる。

しばらくして、トオルがもぞもぞとポケットから小さな箱を取り出した。それは、瑠璃子も大好きなジュエリーブランド・Hirotakaのダイヤモンドのピアスだった。

「瑠璃子ちゃん、おめでとう!」

言葉を失っている瑠璃子を見て、トオルが怪訝な顔をする。

「もしかして…気に入らなかった…?」

瑠璃子は首を横に振り、やっとの思いで声を絞り出す。

「…ううん、すごく気に入ったんだけど…。ただ私、ピアス開けてないの」



ランチタイムに同僚たちにそのことを報告すると、同僚のひとりは呆れ顔で言った。

「無いわ、その彼…。初デートにアレルギーの甲殻類、その次は強風のテラス席でしょ。極め付けは誕生日プレゼントに使い道のないピアスって、詰めが甘すぎる!それでよく仕事がつとまるわね。残念な男だわ!」

「うん、でもね…」

トオルが詰めの甘い男だということにはとっくに気付いていた。正直、誕生日プレゼントの件だってひどく落胆したのだ。

ただそれ以上に、瑠璃子はトオルに惹かれていた。誰に何を言われようと、この気持ちは絶対揺るがない自信がある。

しかし周りの同僚は瑠璃子の話もろくに聞かず、トオルの残念っぷりを嘆いている。その様子に困惑していると、背後から突然声が聞こえた。

「そうかしら?」

振り返るとそこには、コーヒーを片手に持った恭子が立っている。

「誰だって、ひとつやふたつ残念な欠点を持っているものよ。でも、大事なのはそれを許せるか許せないか。どんなに残念でも、瑠璃子が彼を受け入れたいと思うなら、それでいいのよ」

恭子はにっこり笑って、こちらに微笑みかける。その笑顔に勇気をもらった瑠璃子は、ありがたく恭子の言葉にこう重ねた。

「わたしも残念な男とたくさんデートして気付いたんです…!男なんて多かれ少なかれ、みんなどこか残念なところがあるって」

そう、どんなに詰めが甘くても、失敗続きのトオルのことを愛しいと思う気持ちに嘘はない。

今まで数々の残念な欠点を持つ男に出会ってきた瑠璃子だったが、トオルの“詰めが甘い”という欠点は、難なく受け入れられたのだ。

また週末に会いたいと別れ際に言っていた、トオルの笑顔を思い出す。

どうやら、残念極まる男たちの更新記録に、ようやく終止符を打てそうだ。そして瑠璃子は、笑顔で立ち上がるのだった。

Fin.