トランプ大統領が北朝鮮の要請に応じ、5月にも行われることが現実のものとなりつつある「米朝首脳会談」。北は核放棄の可能性も示唆し、日本にとっては明るいニュースとして報じられています。その一方、米国在住の作家・ジャーナリストの冷泉彰彦さんは、自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、「会談の内容によっては日本も巻き込まれ、悲惨な状況が起こる可能性もあるとし、考えられる「7つのシナリオ」を提示しています。

米朝会談『7つのシナリオ』

先週、とにかくいきなり飛び込んできたのが「トランプ、米朝首脳会談に応じる」というニュースでした。まず重要なのは、このニュースを市場が好感したということです。同時に「雇用指数が良すぎる」というデータが出て、それでは前月のように「利上げ懸念からの暴落」もあって良かったのですが、それを上回るモメンタムで、市場がこのニュースで上げたのです。

要するに、アメリカ経済もアメリカ社会も「平和」を望んでいるということです。これは大変に重要なことです。

一方で、会談に関して過大な期待は禁物です。ます、具体的な場所、進め方は未定ですし、とにかくドタキャンの可能性は常に残るでしょう。

ですが、ホワイトハウスが今回の「合意」は南北協議を受けた流れと認めているということは重要です。五輪での南北外交があり、実務者協議があり、その上でのまず「南北首脳会談」が恐らくはあって、更に「米朝首脳会談」があるという流れに当面は齟齬はありません。

その背景には、アメリカの国内事情があります。まず大前提としては、「アメリカは北朝鮮の本土核攻撃能力の完成を許すことはない」ということがあります。仮にその能力が完成していて、その放棄をしないのであれば、アメリカは軍事行動を真剣に考慮することになります。

そのために「あらゆるカード」の中の1枚として「首脳会談」というデシジョンがされたわけです。このことは、大変に重たい事実であり、トランプ大統領が好きとか嫌いとか、良い大統領とか悪い大統領という話を超えた重要性を持っています。

一方で、では「あらゆるカード」の用意があると言っても、軍事行動が可能かというとアメリカの世論(特にトランプ支持者)には強い厭戦感情があるわけです。トランプは、イラク戦争やアフガン戦争を批判し、シリアへの介入を拒否する「アメリカ・ファーストという観点からの不介入主義」を強く掲げて当選しています。その公約に縛られているというよりも、この「孤立、不介入」という考え方が、就任後も世論の間には強まっているとすら言えるのです。また、朝鮮半島への心理的な距離という問題、朝鮮戦争で海兵隊が苦渋を舐めたという歴史もあるでしょう。

また、トランプの具体的な選挙公約も想起されます。彼は、北朝鮮問題についてはまず「中国主導で」解決させてみせる、として、あるいは「自分流のディール」で解決するということも言っていました。このことも、今となっては重たい意味を持ち始めているわけです。

いずれにしても、会談合意への市場の信認があり、そして世論における一定の支持があるということから、勿論、不確定要素は山積なのですが、今回の「米朝会談」に関する「合意」というのは重く受け止める必要があると思います。

ですから、少々気が早いのですが、会談に関してとりあえず7つのシナリオを提示してみたいと思います。

(1)会談不成立、トランプは何も手が打てない

(2)会談不成立、核施設への空爆を前提に情勢緊迫

(3)会談成立、しかし決裂、その後は(1)もしくは(2)となる

(4)会談成立、非核化合意、緩衝国家として北は存続

(5)会談成立、非核化合意、米国は朝鮮半島から撤退

(6)会談成立、非核化合意、なし崩し的に半島再統一

(7)会談成立、非核化合意、再統一、その後統一国家が波乱要因に

非常に大雑把なまとめであり、(5)〜(7)というのは別のシナリオではなく、順番にこのように事態が進むという可能性があるわけです。

ズバリ、日本の国益を考えると(4)が最善であり、それ以外のシナリオに進むということは、明治以来の国家的危機を招く危険性があります。

仮に(1)となった場合でも、もはや「嫌韓」や「北朝鮮への制裁強化」などで日本国内の「ふわっとしたナショナリズム」を政治的求心力にするという、現在の政治風土などでは、到底受け止められない厳しい事態になると思います。これは安倍政権ではダメだという意味ではなく、他の政権になって「より良い対応」ができる可能性は薄いので消去法でも良いので、安倍政権の実務能力を維持しながら、事態に対応するのが現実的というのが私の立場ですが、それはともかく、(1)でも大変に厳しいと思います。

この(1)にも出口がないわけではありません。一つの可能性としては、「トランプの顔を潰す」ために、中国が北朝鮮を動かして「核放棄」をさせるというシナリオです。ですが、仮にそうなってもトランプは「中国を動かしたのは私で、完全に公約通りになった」と胸を張るでしょう。その場合に、仮に「日本だけが最後まで強気の圧力」を続けていたら、本当に孤立してしまいます。結果は(4)になって日本にとって最善なのに、外交では大きな失点となるわけです。

一方で、(5)以降は悪魔のシナリオです。統一国家が「極めて中国寄りとなる可能性」そしてそれを「トランプが放置する可能性」、更には、「統一国家の民主主義が後退する可能性」など、考えるだけでも厳しいです。

その厳しさというのには2通りがあります。1つは、こちらの方が深刻なのですが、統一後の社会の混乱を収拾できない統一政府が「反日カード」を切るということです。具体的には竹島だけでなく、対馬などを巡ってのトラブルを仕掛けるという可能性です。

もう1つは、韓国内の軍や保守勢力が「左寄りの統一政権」に対してゲリラ的な実力行使で抵抗を始めて内戦的な混乱状態が発生する場合です。このシナリオの場合には、難民の流入だけでなく、日本国内にも大きな影響があります。例えばですが、アメリカで政権交代があって「リベラルホーク」的な新政権が生まれ、「在日米軍を使って韓国の右派ゲリラを支援する」などという話になった場合には、日本はかなり深刻な「巻き込まれ」をするでしょう。

更に懸念されるのは、なし崩し的に統一が実現した場合に、「統一国家が核武装」するという可能性です。更には、それを中国が暗黙の承認を与えるという悪魔のシナリオ、ついでにトランプまでが「俺が以前から言っていたように認めてやる」などと言い出した場合です。そうなると、日本は「自分も核武装し、しかも当面の核による仮想敵は隣国」という事態に陥ります。

そうなれば、日韓は、印パと同じ「バカバカしいケンカをしている隣国同士」という地位に転落します。世界から原子力協定を切られたり、国内は分裂するし、政治は不安定になるし、それこそ明治150年の近代化の歴史の成果を全部食いつぶすような自滅に陥る可能性すらあります。

日本の方向性は多分1つなんだろうと思います。それは(4)を目指して、仮に南北首脳会談、そして米朝首脳会談が本当に実施されるのであれば、「成功を心から祈る姿勢でブレず、その動きに1秒たりとも遅れない」ようにするということです。そして、何よりもオバマ、トランプ、習近平、韓国などとの交渉のチャンネルを持つ、いや北朝鮮外交の経験もある安倍政権が、この「1秒たりとも遅れない」という姿勢を保つことです。

私はそれ以外の選択は日本にはない、しかも選択を誤ると大変な事態を招来するというように考えます。安倍政権を存続させて、この問題に対処させるべきです。しかし1秒たりとも、米韓朝中の動きに対して日本は遅れてはなりません。もっと言えば、仮に事態が前へ進む場合はそれを1秒たりとも遅れずに支持し支援すること、仮に事態が決裂の場合は、1秒たりとも遅れずに包囲網結束の要(かなめ)になることです。

日本の国内事情では、森友問題で安倍政権を葬る方向性が出てきているのかもしれませんが、それは全くの勘違いであると思います。

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