AIでスポーツ映像分析、競技の“質”底上げに

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 人工知能(AI)技術のスポーツへの応用が進んでいる。これまでは選手の身体にセンサーを付けてパフォーマンスを計測する手法が中心だったが、動画をAI技術で解析できるようになってきた。テレビの映像だけではなく、個人が撮影した映像も分析できるようになりつつある。データ分析や戦術活用はプロスポーツに限られていたが、市民スポーツも協力すれば大量のデータを集められる。枠組みさえ整えばAIによるスポーツ選手のレベルアップは、大きなポテンシャルを秘めている。

 AIによる静止画での物体認識は人間の精度を超え、立体物や動画などに応用を広げている。東京大学の原田達也教授らは、動画データとその解説文をつなぐAI技術を開発した。

 例えば「高飛びの練習をする黒シャツの男の子」と検索すると、動画データベースの中から当該シーンを引き当てる。検索トップ1に入る確率が約36%で、トップ5までに入る確率は約70%。いくつか候補を示す形でシーン検索に応用できる。

 新技術では、まず動画に映る人物を検出して追跡する。画像を時系列に並べると一人ひとりの動きが連なる画像データができる。このデータの特徴と言葉を結び付け、意味の通る文書に仕上げる。

 すると人物が何をしているか文章で説明でき、シーン検索や分類などに応用できる。実際にスポーツデータベースの中から「ランニング」や「乗馬」などのシーンを検索して引き当てた。

 慶応義塾大学の青木義満教授らのAI技術は、よりスポーツの分析に特化している。青木教授は「スポーツ映像は被写体が選手やボールなどに限られる。識別の先のプレーやフォーメーションなどの戦術的な分析が求められる」と説明する。

 そこでテニスでは映像から選手の身体骨格を識別し、身体の動きとショットの成否を解析して、ショットごとに成功率を予測した。競泳ではクロールの一かき一かきを検出し、ストロークあたりの推進距離やペース配分を見える化。またラグビーでは選手たちの大局的な動きから攻守の逆転やシーンを分類し、個人プレーと集団プレーを扱うことに成功した。

 課題は学習用データの整備だ。原田教授は「詳細な分析には、詳細なデータが必要」と説明する。例えば慶大のテニスのショット予測はショット後の加点をもとに成否を判定している。成否だけでなく球種データが加われば、AI技術で学習して細かな分析も不可能ではない。

 プロスポーツでは専任の担当者が、映像を見てプレーやシーンを分類しデータ化している。データの質は高いが量が限られる。一方、市民スポーツでは撮影者の数は膨大だ。スマートフォンやビデオカメラの進化で映像の質も向上した。

 市民が協力して動画に解説を付けて集めれば、学習した分、AIは賢くなる。賢くなったAIに動画をアップすれば自動分析されるなど、競技者全員が恩恵を受け、競技全体の底上げにつながる。
(文=小寺貴之)