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●災害時はドローンで基地局運用も

7年前の3月11日、誰もが忘れもしない東日本大震災が起こった。さまざまなライフラインが寸断されるなか、通信網とて例外ではなかった。例えば、2011年3月12日時点で可動できなかったau携帯基地局は1933局あった。「津波被害があったから…」と思いがちだが、そのうち77%は停電によるもので、回線の断線や機器の破損、津波被害などによる電波のストップは22%に過ぎなかった。

KDDI 理事 技術統括本部 運用本部長の奥山 勝美氏は、「通信を届けられなかった」と振り返る。7年が経つ直前の3月8日、甚大な被害を出した東北の宮城の地で、KDDIとして初めて災害対策訓練を行い、その開会宣言の場で語った言葉だ。KDDIはその後、東日本大震災の教訓を生かして太陽電池パネルや蓄電池を組み合わせた「トライブリッド基地局」などを展開している。

○災害時に"多様性"を

なぜ、7年の時を経て宮城県・仙台市の宮城県総合運動公園で災害対策訓練を行ったのか。KDDI 技術統括本部 運用本部 運用品質管理部長の大内 良久氏は、「災害時に陸・海・空のすべてで通信を確保できる"多様性"を実現できたためだ」と話す。

KDDIは、2010年より防衛省や陸上自衛隊の各方面隊と災害協定を締結しており、災害時におけるインフラ復旧の協力関係にある。「陸」では、事前に災害時における協力体制を取り決め、基地局の修復や臨時基地局の設置などで自衛隊車の協力を仰ぐ。「インフラ復旧ならば、パトランプがあるのでは?」という疑問もあるが、自衛隊の協力によって、例えばがけ崩れなど危険な場所を通行する場合など、孤立地域への迅速なインフラ復旧が可能になる。

一方で「海」についても「船舶型 携帯電話基地局」を2012年より実証実験を進め、2017年にはグループ会社が所有する海底ケーブル敷設船に実践配備している。東日本大震災の記憶も新しいが、沿岸部は海岸線の基地局が利用できなくなる可能性が高く、かと言って周囲の山々の基地局も断線など"万が一"の可能性がある。海岸線から少し離れた位置であれば津波被害の影響を受けない船舶が通信を担うことで、助かる地域があることから考案された。

最後の1ピースである「空」は、ドローンを活用した"空飛ぶ基地局"。こちらも実証実験を進めており、昨年12月には鹿児島県の屋久島で実稼働に成功している。ドローンはスペック上で40分、実稼働で30分程度しか可動できないものの、高度100mほどに飛ばすことで半径800m程度のエリアをカバーできる。災害直後の急を要する際、迅速に通信手段を確保するという意味でも用意された「空」なのだ。なお、「空」の取り組みではもう一つ、自衛隊機による輸送も想定されている。

KDDIは同時に、グループ会社のUQコミュニケーションズやイオン、東北インテリジェント通信(TOHKnet)とも"多様性"を実現する。例えばイオンは、震災直後の混乱時に現金を必要とする地域住民に対して簡易的な避難場所となるバルーンシェルターと車載ATMを提供している。KDDIとイオンは今年1月に災害協定を締結しており、災害発生時、イオンモール内に避難所が開設された場合に、車載型基地局の設置場所を確保し、避難所周辺での通信エリア復旧を実現させるという。

一方でUQコミュニケーションズとTOHKnetは、災害時のインフラ復旧で元来の通信復旧のサポートを行う。KDDIはUQが提供するWiMAX/WiMAX 2+回線を借り受けており、同社の車載型基地局も活用する形だ。TOHKnetは東北地域の通信インフラを提供しており、災害時にはUQの車載型基地局に光通信のアクセス伝送路を貸与する形でサポートする。

もちろん、KDDIに限らず、携帯主要3キャリアはさまざまな災害対策を進めている。

例えばソフトバンクの「空」対策では、ドローンではなく「気球基地局」を用意。ドローンとは異なり、地上に係留する形で基地局を設置するため、1カ月の連続使用が可能になるのが強みだ。NTTドコモも、仙台市と「ICTを活用したまちづくりに関する連携協定」を締結しており、防災・減災にとどまらず、包括的な協力体制を自治体と組んでいる。

また、3キャリア共同で推し進めている災害対策が「00000JAPAN」だ。2016年に起きた熊本地震の際にクローズアップされたが、各キャリアが提供するWi-FiスポットのSSIDを無償開放したり、00000JAPANという名前で各避難所でSSIDを開放することで誰もが通信インフラを利用できるようにしたものだ。東日本大震災を教訓にスタートした施策で、冒頭の大内氏がこの施策に携わっており、熊本地震では一定の成果を挙げたと、以前に語ってくれた。

●5Gで実現する災害対策

さまざまな方法で通信を確保する手段を用意している携帯キャリアだが、早くも次世代通信規格「5G」を活用した災害対策の事例も出てきた。

3月8日のKDDIの訓練では、5G基地局の実験免許をわざわざ取得して臨んでおり、5Gで被災地と遠隔地にいる人をつなげるデモンストレーションが行われた。デモは、避難所に避難した母子が、遠隔地にいる父親とVRを介して連絡するというものだ。KDDIは同様の仕組みを使った一般用途の実験を1月にも行っている。VRは臨場感溢れる映像体験によって、従来の映像とは違う新たな価値を生み出す。災害時にこそ、「あたかも隣りにいるように感じられる価値」を提供したいというのが、今回のデモの狙いだろう。

LTEから5Gへの進化では、「大容量」と「低遅延」「多接続」が3大メリットとなるが、VRはその中でも「大容量」と「低遅延」を活かしたものだ。VRは4K、8K映像を360度に引き伸ばして見せる。フルHDでさえ高画質なものはビットレートが数十Mbpsに及ぶ。解像度が4倍、16倍にも達する4K、8Kの映像を送信するには、既存のLTEでは容量が足りなくなることは、想像に難くない。

今回の訓練では、200Mbps程度のアップロード速度を記録しており、避難所側でVR向け動画を処理、送信して遠隔地側の父親へと瞬時に届けていた。低遅延についても、電波の搬送路としては数ms程度の遅延を実現していたが、「むしろ映像のエンコード/デコードで数百ms単位の遅延が生じる」と、KDDI モバイル技術本部 次世代ネットワーク開発部 アクセスグループ グループリーダーの黒澤 葉子氏は話す。

5GはLTEの通信技術をさらに昇華させたもので、根本的な新技術ではない。それであっても、将来的には20Gbpsという大容量、1msという低遅延、1km2あたり100万台という多接続環境が実現する。「通信がボトルネック」という時代が終わる未来が、そこまで来ているいい例だろう。

災害対策に5Gを、というアイデアは、あくまで試験段階。そもそも、各携帯キャリアは2020年に5Gのスタートを予定しているものの、都市部、特に三大都市圏でしか当初は利用できない公算が高い。これは、LTEはもちろん、3Gも通ってきた道のりであり、いずれ全国に広がるはずだ。

ただ、商用サービスがスタートしてから数年が経ってようやく全国で利用できる環境、しかも中長期的にLTEと共存していくとみられる5Gありきで、どこまでこうした利活用の方法を模索できるかは難しい側面もあるように思う。

とはいえ黒澤氏は、5Gのその他の活用手法として、遠隔監視システムの高度化による予兆保全などが実現できると話す。例えば、KDDIのドローン基地局に4Kカメラを搭載して、基地局機能を提供しつつ、自衛隊などと協力して山間部における土砂崩れの把握といったことも実現できるはずだ。

5Gは、通信の可用性を大きく広げる存在。各キャリアとも、さまざまな企業と利用用途の想定を模索して実証実験を繰り返しているが、日本人なら誰もが災害と隣り合わせで生きている中で、防災という側面でも同様の取り組みに期待したい。