「低消費電力」で「広範囲」をカバーする無線通信網の構築を可能にする、無線センサーネットワーク技術LPWA(Low Power Wide Area)に注目が集まっている。

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新しい無線技術LPWAがなぜ注目されるのか? 

 LPWAの規格は独自仕様のLPWAと、携帯電話網を利用するセルラーLPWAに大別できる。独自仕様LPWAは実サービスが国内ですでに始まったものや、2018年に開始が予定されているものがいくつかある。

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独自仕様LPWAの代表格LoRaとSigfoxを知る

独自の強みを持つ、要注目の「後発組」LPWA

 一方、携帯電話網を活用するセルラーLPWAの実サービスも2018年1月に始まった。すでに全国をカバーする第4世代(4G)携帯電話網を生かしたLTE版LPWAは、企業のIoT活用の動きを格段に加速させる可能性がある。

 今回は、携帯電話網の歴史上で初めて高速化以外の性能目標を持つ仕様が定められたLTE版LPWAと、数年後の商用化が見込まれる第5世代(5G)の動向についてみていく。

 本連載の第1回で既述のとおり、LTE版LPWAは携帯電話関連機器ベンダーなどの危機感から生まれた。まずは、その経緯を簡単に振り返っておこう。

 LTEと呼ばれる第4世代(4G)は、携帯電話網の標準仕様を策定する3GPP(Third Generation Partnership Project)が2008年頃から規格化の検討を進め、2014年にいったん標準化を終えた。当時の仕様は、第3世代(3G)よりも通信速度を高速化したスマートフォン向けの「MBB(Mobile BroadBand)」と呼ぶサービスに関するものだった。LTEという呼称は、このMBBの仕様が「LTE-Advanced」と名づけられたことに由来している。

 その一方で、独自仕様LPWAのSigfoxやLoRaのサービスが2012年に始まり、2015年にはヨーロッパを中心に携帯電話網のデータ通信市場を奪い始めた。この状況に対抗するため3GPPは2015年末、4Gに関する標準化の議論を急きょ再開。スウェーデンのエリクソンとフィンランドのノキアが中心となり、4Gを用いたLPWAの検討に乗り出した。そして2016年3月、わずか数カ月という短期間でLTE版LPWAを規格化した。

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適用分野が異なる2つの仕様、LTE-M(eMTC)とNB-IoT

 3GPPがLTE版LPWAとして規格化した仕様は2種類ある。一つは、高速高機能版の「LTE-M(eMTC)」だ。LTE-Mの「M」はMachineの略、eMTCは3GPPにおける呼称で「enhanced Machine Type Communications」の略である。もう一つは、低速低機能版の「NB-IoT」で、NBはNarrow Bandの頭文字をとった。

表1 LTE版LPWAの仕様概要


 LTE-M(eMTC)は既存の基地局でIoT向けの低速通信サービスと4Gの高速通信サービス(MBB)を同時に提供するのに対し、NB-IoTはLPWA用に別のチャネルを設定するといった技術面の違いのほかに、2つの仕様の間には適用分野を見定めるうえで見逃せない機能面の大きな違いが1点ある。広いエリア内でLTE版LPWA対応のセンサー(端末)を移動させる際、ある基地局から、より電波を受信しやすい基地局に切り替えて通信を続けるハンドオーバー(端末のモビリティ)の可否である。LTE-M(eMTC)はハンドオーバーが可能だが、NB-IoTは利用できない。

 このためLTE-M(eMTC)は、移動中の高齢者や児童の見守り、自転車の盗難防止など、センサーが広範囲を低速で移動するようなIoTサービスの利用が想定される。これに対してNB-IoTは、スマートメーター、農場、プラント、駐車場(スマートパーキング)、マンホール、エレベーター/エスカレーター、自動販売機、ゴミ収集場のように、センサーにモビリティが求められない用途が見込まれる。

独自仕様LPWA対抗のための省電力化と低価格化の工夫

 LTE版LPWAの性能と機能は独自仕様のLPWAに勝る。半面、独自仕様のLPWAよりも消費電力が大きく、価格が高くなる傾向がある。見方を変えると、省電力化と低価格化は、LTE版LPWAが独自仕様のLPWAに対抗するための重要な要件になる。

 省電力化に関してLTE-M(eMTC)とNB-IoTはともに、「eDRX(extended Discontinuous Reception)」および「PSM(Power Saving Mode)」の2方式を採用して対処する。通常LTE版LPWAのセンサーは、消費電力を減らすために、ネットワーク側から送信された各種信号を確認する受信状態と、受信しないスリープ状態を繰り返している。eDRXは、ネットワーク側から信号を送信する間隔を長くすることで、センサーのスリープ状態を延ばして消費電力を抑える。PSMは、スリープ状態から信号を確認する受信状態になるまでの間隔をセンサー側で空けて省電力化を実現する。

 他方、低価格化を実現できるかどうかは、LTE版LPWAのサービスを提供するにあたり、4GのMBB向け基幹網や基地局のソフトウエアをどの程度小規模な変更にとどめられるかによるところが大きい。変更が少なければ、価格を抑えやすくなる。その点、LTE-M(eMTC)よりMBBの仕様との開きが大きなNB-IoTは、多くのソフトウエアの変更が求められる。

 この点を踏まえると、すでに4Gが普及している米国や日本では、安価に提供できる可能性があるLTE-M(eMTC)のサービスが先行して広がる公算が大きい。実際、2018年1月にKDDIが先陣を切ってLTE-M(eMTC)のサービス「KDDI IoTコネクト LPWA (LTE-M)」を開始。月間の通信量が10KBまでのプランの場合、1回線当たり月額40円から利用できる。なお、NTTドコモとソフトバンクも2018年度中にLTE版LPWAのサービス開始を計画している。

 世界に目を転じると、中国や北欧でも2018年初めからLTE版LPWAの一部の仕様を採用したサービスが始まった。このうち4Gの普及率が低かった中国は、NB-IoTを他国に先駆けて普及させるという方針の下、環境の整備を強力に推し進めている。

IoT活用を意識した5G版LPWAの検討も開始

 4Gを利用するLTE版LPWAのサービスが始まったばかりではあるが、セルラーLPWAの未来として、5G(第5世代)の行方も今からおさえておきたい。

 5Gは「IMT-2020」という呼称が示す通り、2020年のサービス開始を目指して3GPPが2014年から検討を進めている。当初策定しようとしたのは4GのMBBを数十倍高速化したもの(eMBB)で、通信速度が10Gbpsオーダー、4K・8Kの高品質映像配信や3次元映像を駆使したVR(仮想現実感)/AR(拡張現実感)コンテンツへの応用が主なターゲットだった。ところが、2015年以降のIoTや自動運転などの急速なニーズの広がりに伴い、要求性能項目が大きく異なる3種類のサービスを規定することに変更された。

 IoT活用の観点から着目したいのは、超高信頼低遅延通信を実現する「URLLC(Ultra-Reliable and Low Latency Communications)」と、膨大な数のセンサーを同時接続する「mMTC(massive Machine Type Communications)」というあとから追加された2つである。

表2 5Gにおける3種類のサービス


 URLLCは、最高性能で1ms(ミリ秒)という超低遅延の通信を掲げるハイエンドの仕様だ。一部自動運転を含むコネクテッドカー、スマート工場、遠隔手術などミッションクリティカルIoTと呼ばれる分野での活用が想定されている。

 逆にmMTCはローエンドの位置づけで、LTE版LPWAのNB-IoTより消費電力や通信速度を低く抑えつつ通信を長距離化する。さらに、1平方キロメートルあたり100万台のセンサーを接続し、物流管理などにおけるIoT活用やスマートシティへの応用が見込まれる。

 3GPPは2018年にURLLCとmMTCの仕様の検討を始め、2020年の規格化を目指している。5G版LPWAの実サービスを利用できるようになるのは、2022年以降とみられる。

筆者:阪田 史郎