小松美羽 (こまつ・みわ)  現代アーティスト。1984年、長野県坂城町生まれ。銅版画やアクリル画、焼き物への絵付けなど幅広い制作スタイルから、死とそれを取り巻く神々、神獣、もののけを力強く表現している。2014年、出雲大社へ「新・風土記」を奉納。2015年、「天地の守護獣」の大英博物館日本館永久展示が決まる。2016年より「The Origin of Life」が4ワールドトレードセンターに常設展示される。2017年には、劇中画を手掛けた映画「花戦さ」が公開されたほか、SONY「Xperia」のテレビコマーシャルに出演。

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2014年「新・風土記」出雲大社奉納、2015年「天地の守護獣」大英博物館日本館永久展示、「遺跡の門番」クリスティーズに出品・落札。2016年「The Origin of Life」4ワールドトレードセンター常設展示…。競争が激しいアートの世界で、なぜ、いま小松美羽が評価を集めているのか?その理由を、話題の新刊『世界のなかで自分の役割を見つけること』の内容からお伝えしていく。

世界に通じる大和力

 大英博物館に作品が所蔵されたり、クリスティーズ香港で作品が落札されたり、「小松さんは日本的な作品をつくっているのに、活動や評価は国際的ですね」と取材などで言っていただくことがある。

 確かに私の作品は、ありがたいことに少しずつ海の向こうへと旅を始めている。

 最近でいうと、2017年10月にアート台北に出品した際、私の活動のダイジェストVTRをアップしてくれた『VOGUE Taiwan』のフェイスブック記事は再生回数74万回を超えた。

 その年の4月に台北に新しくオープンした「Whitestone Gallery Taipei」で12月に開催した個展は、1ヵ月のトータル来場者数が3万人以上。初日はギャラリーの入口から交差点までのおよそ200メートルに1000人以上が並び、「Whitestone Gallery」50年の歴史上、ギャラリー内のイベントで警察署に届出を出したのは初めてのことだったと聞いた。

 台北の観客には目の肥えたコレクターもいたし、小学生や若い人も大勢いた。アートへの関心が非常に高い地域なのだろう。

 あまりの熱気に地上波のテレビでニュースとして取り上げられ、四大紙『中国時報』でも大きく紹介していただくことができた。

 また、私の作品を購入してくださるコレクターも、さまざまな国の方々だ。日本の有名企業の創業者。台湾の超人気シンガーソングライター。台湾の銀行頭取。シンガポールの不動産王。世界的ブランドの副社長。マレーシアの王族……。

 銀座での個展には、初来日していたアメリカの現代アートコレクターがふらりと訪れ、即決で2作品を。彼が取り出したのは、生まれて初めて見るチタンのクレジットカードで、私は「これって、銃弾で撃たれたりしても弾き返すのかな?」などと子どもみたいなことを考えながら、世の中には桁外れの人がいるものだと仰天するばかりだった。

 こうした活動をする中で、私が「大和力を世界に発信したい」と言うと、「日本らしさを世界に伝えたい」という意味に受け取られることがある。

 確かに有田焼、博多織など日本の伝統文化とコラボレーションする形で作品をつくっているし、狛犬や龍は一見すると「和のモチーフ」という印象かもしれない。日本に生まれた私にとって、日本らしさは大切な手法だ。

 だが、私は、単なるクールジャパンを目指したり、日本らしさのアピールに留めるつもりはない。

 大和力というのは、「日本らしさ」ということではない。日本が古来持っている、いろいろなものを組み合わせ、まとめあげてデザインする力であり、方法である。

 世界のさまざまな文化を集約し、統合する能力こそ、日本が持つ「和」の力であり、「大和力」とは大きな和の力である。「和」は一人称で、「大和」になると大勢になるというようなイメージもある。

 「和」とは、まるで円のように、ありとあらゆる異なるものをすべて包み込み、ミックスする力だ。異なる文化、異なる宗教、異なる考え方、異なる歴史が融合することで、和が自然と成立していく。

 つまり大和力とは、日本だけのものというわけではない。海を超えて地球の大きな和となり、本当の大和になる。

 人の想い、文化、宗教、芸術が一つになる力だから、どの国にも大和力はある。ただ、日本は古来、それを最も得意としてきた国の一つということなのだ。こう考えると大和力とは世界に共通するものであり、地球の歴史の大いなる流れの遺産なのだろう。

 有田焼第15代酒井田柿右衛門さんに「日本文化を世界に発信していくにあたって、どんな工夫をしていますか?」と聞いたとき、面白いことをおっしゃっていた。

 「日本文化を世界に発信しているつもりはありません。私たちはもともと、日本的なものだけでなく西洋食器をつくり、海外に向けて制作していたのですから」

 17世紀のヨーロッパで、オランダ東インド会社が輸入する中国の磁器、なかでも景徳鎮は絶大な人気を集めていた。ところが明から清に変わる戦乱の中、景徳鎮の生産は止まってしまった。「それなら磁器文化がある日本のものを輸入しよう」となったらしい。

 こうして最初は「景徳鎮の代わり」として買い付けられた柿右衛門や伊万里焼は、やがて独自の美しさで世界を魅了していったという。

 つまり文化というのは、そのときに必要とされる最先端のものを、生きるために提供したことから始まる。それがいつのまにか何百年もたって「伝統文化だ」と言われるようになる。

 「昔ながらの伝統ややり方を守ることも大切だが、斬新なことをやったからこそ、柿右衛門は長い時代を生き抜くことができた。これからも私たちは、苦悩しながらそれをやっていく」

 柿右衛門さんの話を聞いて、私は確かにその通りだと勉強させていただいた。

 中国や韓国や日本の磁器文化がヨーロッパに渡り、ドイツのマイセンやデンマークのロイヤルコペンハーゲンが生まれたのだし、逆に西欧の文化の影響で、日本の磁器のデザインも変わっていった。どちらもより美しく、より洗練されていったのだ。

 まさに大和力そのものだと思う。

 私も、尊敬の念によって自分が描いているものとその国をつなげ、ルーツを合致させていきたい。

 だから私は、外国に行くと、その国の大和力に敬意を払いながら、自分の大和力を発揮したいと願っている。

 その国の文化を尊敬している気持ちをしっかり伝えてこそ、アートを通して世界とコミュニケーションができると思っている。

 たとえば香港や台湾では、その国の獅子と私の狛犬をつなげた作品を発表している。

 もともと中華圏ではたくさんの獅子や龍が描かれ、残されている。深く根づいた「獅子文化」があるのだ。

 日本では獅子は狛犬となり、「犬文化」になっているのかもしれないが、私が描く狛犬は、さまざまな国の獅子と日本の狛犬が混じり合ったものだ。

 大和力で、狛犬をキメラ化しているようなものだ。

 キメラというのは生物学の考え方だ。ロバと馬から生まれたラバのように、違う種の細胞が混じって生まれたものがキメラ。

 キメラという言葉はギリシャ神話に出てくる「キマイラ」からきていて、頭はライオン、体はヤギ、蛇のしっぽを持つ。キマイラは伝説の怪物と言われているが、私は神獣の一つだと思う。

 大和力を世界へ。すべてを融合させ、和という方法でキメラ化していく。

 これもまた、私が絵を描く大きな理由である。