CM単体としてYouTubeの視聴回数はホンダCMの最多を更新。2000万回に届く勢いだ(配信日時点)

あなたのお気に入りCMは、何位にランクインしているだろうか?
CM総合研究所が毎月2回実施しているCM好感度調査は、東京キー5局でオンエアされたすべてのCMを対象として、関東在住の男女モニターが、好きなCM・印象に残ったCMをヒントなしに思い出して回答するものだ。
最新の2018年2月後期(2018年2月5日〜 2018年2月19日)調査結果から、作品別CM好感度ランキングTOP30を発表。その中から、CM総研が注目するCMをピックアップして、ヒットの理由に迫る。

街中に小型ジェット!? HondaJetのCMがヒット

アメリカの街角、渋滞する交差点に突如現れた小型ジェット機。踊りながらテンポ良く交通整理をしていた警官同様に驚かされた視聴者も多かったのではないだろうか。これは2017年小型ジェット機カテゴリの年間デリバリー数で世界トップに輝くという快挙を成し遂げた『HondaJet』をテーマにした企業CMだ。

KDDI『au』を筆頭に人気タレントが登場する定番シリーズが上位に並ぶ中、2月後期に放送された全3018作品の中でCM好感度トップ30にランクインした。


CMは「Go,Vantage Point.」と題してホンダが昨年7月より展開していた施策の第2弾として2月1日に開始。同社広報部によると「多様化する世の中の価値観を理解するためには相手側に立って相手の想いを想像することが必要。そのためには新しい視点を手に入れられる“見晴らしのいい場所=Vantage Point”へ自分を連れ出すことが大切なのではないか」とのメッセージを込めているという。

自らのコミュニティーの枠を飛び出し、そこから離れることで視野を広げ、柔軟な思考を手に入れる。ダイバーシティーが声高に叫ばれる現代にこそ必要な考え方だ。第1弾では6年半ぶりに国内販売を再開し、復活を遂げた新型『シビック』を題材に据えた。「ティザー」篇では荒野を走る同車の遠景に「ONE OK ROCK」「Go,Vantage Point.」のコピーと「見晴らしのいい場所へ」というナレーションがかかるだけのシンプルな構成だった。

続篇もガソリンスタンドや市街地に車を走らせるロックバンド・ONE OK ROCKのメンバーの姿に同様のフレーズを重ねるのみ。

彼らと映画監督・庵野秀明それぞれが“見晴らしのいい場所”を目指す5作目(本篇)で初めてそのメッセージの真意が明かされるわけだが、調査モニターの感想を確認すると「ワンオクのタカがかっこ良かった。曲も良かった」「ONE OK ROCK最高!!」「庵野監督がCMに出るなんてびっくり」など、出演者や音楽に意識が向いた内容が目立った。

一方、今回の主役は完全にHondaJetである。自動車にとどまらない“製品の多様性・モビリティの可能性への挑戦”という価値を表現するうえで象徴的な製品だったという。

華麗なダンスでCMに引き込もうとする警官こそ登場するが、有名なタレントが登場するわけではない。ONE OK ROCKの新曲『Change』がBGMに使われてはいるが、彼らは映像上には一切映らず、ボーカルのTakaがナレーションで参加するだけにとどまっている。

主役である製品に意識を集中させるためのシンプルな構成と言えばそれまでだが、その要素を一つひとつ紐解いていくとよく練られていることがわかる。ONE OK ROCKがこの企業広告シリーズのメッセージに共感して書き下ろした『Change』の歌詞をここで一部取り上げてみる。

「♪You know it's not too late for us to make a change(変わるのに遅すぎるなんてない)」「No matter how much we might bend we will not break(どんなに曲がってたわんでも折れることはないから大丈夫)」

昨夏の施策を通してキャンペーンの伝道師となったONE OK ROCKが書いた歌詞は、根の部分でしっかりと企業の想いとつながっている。同じ方向を向いたメッセージを共有していれば、たとえ英語の歌詞が聞き取れなくても直感的に受け取るものが違う。

いくらメロディーや歌声がCMの世界観とマッチしていたとしても他の楽曲では取って代わることのできないストロングポイントだ。

30・60秒とCMとしては長い尺で展開されながら、CMで使われているコピーは「私たちに必要なのは空を自由に走るスポーツカーだった」「自分を、もっともっと連れ出すんだ。Go,Vantage Point.」の2フレーズのみ。思い切って言葉での説明を減らし、視聴者のCMへの集中力を高めることができたのも、この楽曲あってのことだろう。

ジェット機を日常化するという夢

もう一点。なぜ『HondaJet』が街中に現れるのか? 製品を主役にするなら、美しく大空を飛ぶ姿を切り取っても良かったはずだ。しかし、わざわざ自動車で渋滞する交差点を舞台に選んだのにも理由がある。「日常」のシーンの中に突如ジェット機が現れて街から空へと飛び立っていく展開には、近い未来にジェット機を日常化するというホンダの夢が込められている。

視聴者の反応はどうか。モニターのコメントでは「映画の1シーンのような映像、音楽も合っている。何度も見たくなる」「ONE OK ROCKの曲がとてもかっこいい! 突然街中に飛行機が出てきて飛び立つところもかっこいい!」と、映像と楽曲のクオリティーの高さを評価する声が多い。さらには「近未来にはそういう時代が来ることを予想させる」「飛行機を買うという感覚がとても新しいと思った」と同社の夢をしっかりと受け止めた視聴者までいた。

言葉は多くなくとも、企業の熱量は表現できる。むしろ夢や想いは説き聞かせるものではなく、感じさせるものなのだと改めて考えさせられる好事例だろう。

「安全」「安心」をテーマとした技術訴求が増加している自動車CMの現状において、この横並び状態から抜け出すのはなかなか難しい。例えば「自動運転」「自動ブレーキ」といった最先端技術は誰しもの関心を集める要素ではあるものの、クルマのことばかり考えているわけではない消費者にとっては違いがわかりにくい。

そういった視点でもHondaJetは存在そのものがホンダならではのオリジナリティーを持っており、こうした製品を中心とした企業ブランディングは同社の十八番だと言えよう。

なかでも思い起こされるのは「Do you have a HONDA?」をコピーとした1999年開始の一連の企業CMだ。ザ・ハイロウズの『日曜日よりの使者』をBGMに、地下鉄の出口から『ASIMO』の前身となる自立歩行人間型ロボット『P-3』が現れる。この曲は2005年まで採用され、「この曲を聴けばホンダを思い出す」と言えるくらい、強く同社と結びついていた。

題材としてはロボットや自動車だけにとどまらず、ぬかるみにはまるモトクロスバイクや女子高生からの声援を浴びながら耕耘機を動かす男性などバリエーションに富んだ。さらに2007年には「Hondaの音がする。」「世界が生きている。」をコピーに自動車やジェット機、除雪機といった同社製品のエンジン音などをリレー式につなぎ、ベートーベンの『歓喜の歌』を奏でたCMでも好評を博した。

そのほかにもASIMOがダイナーで配膳や空いた食器の回収をするもの、さらにはケーブルカーに乗り遅れてしまうものなど、これまでにヒットした同社の企業広告は“ものづくり”の本質を追求し続ける企業らしく、シンプルに製品を中心に据えた表現が多い。

「Go,Vantage Point.」に込められた意味

「二輪・四輪・パワープロダクツといったさまざまな製品を通じて、単なる移動手段ではなく、自由で楽しい移動の提供を目指す」という企業姿勢・DNAをCMからもうかがい知ることができる。長年にわたって人間尊重・人間研究を続けてきたモビリティ企業だからこそ、今、「Go,Vantage Point.」というメッセージを発信するに至ったのだという。

1917(大正6)年、静岡県浜松市で開催されたアクロバット飛行ショー。当時10歳だった本田宗一郎少年を強く突き動かした飛行機への夢はホンダ創業当初からの悲願となり、ついにHondaJetを世界一の座に導いた。

まさに「夢を追い続ける力」の象徴というべきこのCMを本田宗一郎氏が目にしたならば、どのように感じるのだろう。そんなことを考えると、ホンダが掲げる「The Power of Dreams」という言葉が胸に突き刺さる。