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長年連れ添ってきた妻からの突然の離婚宣告――。「いざ、そのとき!」にあわてないために、年金分割の基本と上手な離婚の仕方を、専門家に聞いた。

■妻の不貞で離婚しても年金分割で妻に不利にはならない

日本の年金制度は、現役時代に保険料を支払った者に「老後の生活保障」としての年金が支払われる仕組みです。世帯を単位として考えているので、受け取る年金は夫婦の生活のためのものです。男性側は、「自分が働いて保険料を納めてきたのだから、受け取る年金は自分のものだ」という感覚が強いかと思いますが、「夫が稼いでこられたのは妻の内助の功があってこそ」という考え方にのっとっています。そのため、離婚した場合にも、夫婦間で年金を分割することができる制度があるのです。

誤解をされている方も多いのですが、年金分割は、年金の支給額が真っ二つにされるわけではありません。

年金は、一般的なサラリーマンの場合、国民年金と厚生年金の2種類からなりますが、国民年金は個人単位で支給されるため、分割の対象にはなりません。厚生年金だけが分割の対象になります。夫側の年金が200万円であれば、国民年金がだいたい80万円で、厚生年金は120万円くらいですから、半々に分けると決めた場合でも、夫側の厚生年金を60万円ずつ分けるイメージです。ただ、厳密に言うと、実は支給された年金額を分割するのではなく、年金額の算出のもととなる、婚姻期間中の夫婦の保険料納付記録(いわゆる標準報酬)を分割するのです。

分割の対象となる期間の標準報酬を、それぞれの生年月日に応じた再評価率を使って現在の価値に換算して、その合計額(標準報酬総額)が多いほうから少ないほうに対して分割します。具体例を挙げると、婚姻期間中の夫の標準報酬総額が1億4000万円、妻の標準報酬総額が1000万円の場合、分割割合が2分の1だとすると、1億4000万円と1000万円を足して2で割った7500万円ずつを双方が取ることになります。このため、夫側から妻側へ、6500万円を分けます。

離婚後は、それぞれに分割された標準報酬が組み込まれ、老齢年金を受け取るときには、これをもとに年金額が計算されます。

分割の方法は、「3号分割(専業主婦やパート)」と「合意分割(それ以外)」の2つがあります。3号分割の場合、分割の割合は2分の1と決まっています。一方、合意分割は2分の1を上限、妻(夫の年収のほうが低い場合は夫)の持ち分を下限として、双方の合意で決めます。合意できなかった場合は、家庭裁判所に審判や調停の申し立てをしますが、その場合は2分の1になることが多いようです。話し合いで決める場合も、通常40〜50%程度です。仮に妻の不貞が離婚の原因であっても、そもそも年金は社会保障なので、それが裁判や調停などに影響することはなく、分割で妻側に不利になるようなことはないと言われています。

合意分割の制度が始まったのは2007年4月、3号分割は08年4月。それぞれ分割の対象となる婚姻期間が異なるので注意が必要です。合意分割については、制度開始前の婚姻期間も遡って対象とすることができますが、3号分割は、制度開始の08年4月1日以降分しか分割の対象になりません。

■年金分割の請求期間は、離婚の翌日から2年以内

年金分割は、日本年金機構の年金事務所での手続きが必要です。

まず、「情報通知書」の請求手続きを行います。情報通知書には、婚姻期間中の夫婦それぞれの標準報酬総額などの情報が記載されています。50歳以上で年金受給資格期間を満たしている場合は、年金の見込み額の試算もしてもらえます。情報通知書の請求は、2人一緒に行っても、どちらか一方が行ってもよく、離婚前でも離婚後でも可能です。「もし離婚して年金分割したなら、自分の年金額がいくらになるか知りたい」というときにも、配偶者に知られずに請求できます。

離婚が成立したら、年金分割の請求手続きを行います。合意分割の場合は割合を決めてから、3号分割の場合は合意が必要ないため、妻側の請求だけで手続きが可能です。手続きを行うと、分割割合に基づいて標準報酬が改定され、双方に通知書が送られてきます。

年金分割の請求期間は、離婚の翌日から2年以内です。請求期間について知らない妻に、夫が意図的に教えないケースもあります。また、1度決定した年金分割は、後で変更することはできません。例えば、離婚後に元妻が再婚したり、死亡したりしても、分割した分は戻ってきません。

夫側が、離婚してもできるだけ自分の年金を減らしたくないというのであれば、妻になるべく長い期間、正社員として働いてもらうのが一番よいということになります。なぜなら、自分の標準報酬総額と妻の標準報酬総額の差が少ないほうが、分割によって取られてしまう額が小さくなるからです。

離婚による年金分割の手続きは、それほど複雑ではありませんが、年金分割について相談したいことがある場合には、最寄りの年金事務所に行くのがよいでしょう。みなさんが一番関心を持っているのは、年金の金額だと思います。しかし、年金の計算はかなり複雑ですし、算定のもととなる標準報酬総額といったデータを持っているのは、日本年金機構だけです。年金事務所には相談コーナーなどもあり、年金のシミュレーションもしてくれます。

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三戸礼子
特定社会保険労務士
1965年、山口県生まれ。大槻経営労務管理事務所勤務。セミナー講師・執筆など、幅広く社会保険実務に携わる。著書に『介護・福祉・医療サービス事業の人事労務ガイドブック』(共著)など。

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(特定社会保険労務士 三戸 礼子 写真=iStock.com)