無印良品「ポリプロピレンスタンドファイルボックス」

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本来の意図とは違う用途で使われることに対し、企業はどう受け止めるべきなのか。無印良品の定番商品「体にフィットするソファ」は、2013年に「人をダメにするソファ」とネットでもてはやされ、人気が再燃した。専門家は「個人の目線から商品の価値を新たにいいあてたものだ」と評価する。識者2人の対談をお届けしよう――。

※本稿は、勝部健太郎+無印良品コミュニティデザインチーム (著)『新しい買い物 理想の社会を買い物でつくる。』(KADOKAWA)の第3章「『新しい買い物』は文化をつくる」の一部を再編集したものです。

■ファイルボックスが「フライパン立て」に

勝部健太郎(ユニット・ワン代表):なかには、本来の意図とちがった用途でつかわれることをよく思わない企業もあるようですが、無印良品の場合は、むしろ歓迎しているような印象すらあります。

川名常海(良品計画 WEB事業部長):無印良品の商品は、たとえばスタッキングシェルフにしてもそうですが、シェルフの形状は決まっているけれど、そこにチェストだったり、バスケットだったり、ボックスだったりといったモジュールを組み込めるようになっていて、好きなつかい方をしてもらうことを前提にしているものが少なくありません。

もともとそういう考え方があるから、本来の意図とはちがったつかい方を受け入れやすい土壌はあるのかもしれません。

勝部:そのあたりは、すでにお話しした「共感性」にもかかわる部分だと思うのですが、無印良品の場合は、企業としての価値観や思想が「買う人」にうまく伝わっているという印象があります。それが共創をあと押ししているんじゃないでしょうか。

いくら自由につかってくださいと口でいっていても、実際の企業の考え方がかたくなだったりすると、「買った人」はそもそも工夫してつかってみようかなという気持ちにならないわけですから。

■「カスタマイズ」と「共創」は別物

川名:そうかもしれません。すでにお話ししたように、ぼくら無印良品は、企業として「資本の論理」だけにもとづくのではなく、自然体であることに重きを置く「人間の論理」を大切にしています。いま勝部さんがおっしゃったように、たしかに無印良品の商品を買ってくださっている人の多くは、意識的にせよ、無意識的にせよ、そういう価値観や思想の部分に共感してくださっている、という実感はありますね。

そのいっぽうで「買ってくださっている人たち」は、「すっきりとした空間で暮らしたい」とか、「余計な成分が入っていない化粧品をつかいたい」とかという個人的な理想をもっていて、商品を通じてその実現をはかろうともしていると思うんです。「共感性」の部分を大切にしつつ、その実現に貢献するためには、企業としての商品提供のあり方が問われるところですね。

勝部:たしかに。そう考えると、「新しい買い物」では、企業と「買う人」のかけあいが大切なのはまちがいないけれど、それはいわゆるカスタマイズとはちがうといえるかもしれません。

カスタマイズは一見すると、「買う人」とのコラボで新しい価値をつくっているように思えますが、実際のところは、企業があらかじめ想定した範囲内のバラエティです。結局のところ、企業主導の価値創造の域を出ていないものが少なくないし、企業と「買う人」との共創とはいえないと思います。

クルマなら、外装の色を選んだり、内装に凝ったチョイスをしたりすれば、自分好みの商品に近づくかもしれない。でも、ほとんどの場合、それで実現されるのは企業が提供する範疇の価値であって、その人のライフスタイルとして新しい価値をもたらす、とまではいきません。

川名:「生活者の価値観が多様化しているのだから、商品展開にもいろんなバリエーションを設けるべきだ」という考え方もありますが、そういう対応の仕方がすべてではないということですね。

■「見立て」をよしとする美意識を共有する

勝部:少し逆説的ですが、商品をつくりこみすぎない、決めつけない、ということも大切かもしれません。企業というのは、ともすると、「こういうことも、ああいうことも求められるかもしれないから、とにかくはじめからぜんぶ押さえておこう」などと考えがちなのだけど、あまりあれこれ網羅しようとしはじめると、肝心の部分のつかい勝手がおろそかになったり、商品の目的が曖昧になってしまったりして、かえってつかう人にとっての広がりや工夫の可能性を狭めてしまったりしますから。

川名:それは同感ですね。融通を利かせられるようにするためには、やっぱり余白が必要です。でも、余白をつくるとは、裏を返せば、肝心の部分を決めるということ。企業としてなにを大切にするのかという意志の部分が明確になっていなければ、じつは余白はつくりにくいんじゃないかと思います。抽象的な話で恐縮ですが……。

勝部:いや、そのとおりだとぼくも思いますよ。余白が自由につかえるのは、やっぱり最初に共感があるからです。先ほど例にあがっていたスタンドファイルボックスにしても、金井会長がおっしゃっていた「見立て」をよしとする美意識が共有されているから、書類入れに限定せずに、フライパン立てにしてみよう、ああしてみようと、いろんな工夫の仕方が考えられるのだと思います。

川名:いずれにしても、企業が「こういうものを大切にしませんか」「こういう生き方をしませんか」というメッセージを投げかけるのが先で、そことのかけ算によって、「買う人」が自分ならではの新しい価値を生みだしていく、という順ですね。

■企業の価値観や思想を大々的に発信する時代ではない

勝部:問題は、その企業の価値観や思想の伝え方ですが、伝えるとなると、どうしても声高に叫ぶことを考えてしまいがちです。でも、いまの時代は、そういうやり方ではかえって伝わらないところがあります。

川名:おっしゃるとおり、腕力にものをいわせるようなメッセージの仕方は、かえって受けとめてもらえないようなところがありますよね。ソーシャルメディア全盛のいまは、「私たちは○○な社会づくりに貢献します」「××を尊重しています」みたいなことをあれこれ表現して広告を打ったり、メディアに載せたりしても、なかなか耳を傾けてもらえませんから。

もはや企業の価値観や思想を大々的に発信して、アピールするような時代ではないと思うんですよ。社長室とか、社内のどこかに書いて貼ってあったりするのはいいとは思いますが、外に向けては、むしろいわないで黙っているくらいのほうがいい。それより大切なのは行動です。意志をきちんと反映した行動をとること。企業の価値観や思想は、行動を見て感じてもらうものだと思いますね。

勝部:行動したというファクトが大切だということですね。

川名:そうです。そこのところは、ぼくら無印良品も近いスタンスをとっていると思います。コアの部分に明確な意志をもっているとは思うのですが、あえてそれを外に向けて大々的にアピールしたり、細かに説明したりはしていません。

それでも幸いにして、たくさんの人たちが活動を応援してくださっているのは、おっしゃるとおり、開発した商品がもつ意義やたたずまい、みなさんの意見を広く求める場を設ける取り組みといった行動を見て、意志を感じとってくださっているからだと思いますね。

■ブームは「買う人」との共創から

勝部:「新しい買い物」が当たり前になる時代には、従来のようにマス広告で力まかせにアピールするようなやり方はちょっとしっくりきませんよね。価値創造の仕方が企業主導でなくなってきているわけですから。

川名:それはそうかもしれませんね。実際、ぼくらが扱っている商品についても、ブームの起こり方が以前とはちがってきている印象があります。というのは、「買う人」のあいだから、自然発生的にブームが起こることが増えてきているんです。

近年でいえば、「体にフィットするソファ」という、ストレッチ素材のニットのなかに大量のビーズが入ったクッションのようなソファがそうでした。無印良品の「モノづくりコミュニティー」というユーザーの投票を通じて商品開発をおこなう取り組みから生まれたもので、発売したのは2003年。当初は売れ行きも順調で、想定を上まわる売り上げだったのですが、10年近く経つうちにそれも伸び悩んできていたんです。

ところが、2013年にネットで、このソファが「人をダメにするソファ」としてもてはやされはじめて、状況が一変しました。

勝部:「人をダメにするソファ」とは、また奇抜な評価ですね。

■2014年の春ごろには生産が追いつかないくらいに

川名:ソファの形状が自由に変えられるので、どんな体勢にもしっくりくるんですよ。だから快適で、そこから動こうと思わなくなって、やるべきことがきちんとできないダメな人間になるくらい居心地がいい、という意味です。公式につかえるフレーズではありませんが(笑)、ソファの機能をうまくユーモラスにいいあててもらっているな、とは思います。

勝部:ネットで生まれたそのフレーズが、どんどん広がったわけですね。

川名:そうです。最初はブログからだったのですが、ソーシャルメディアに飛び火して、ついにはテレビでも取り上げられました。それで文字どおり人気が再燃して、2014年の春ごろには、生産が追いつかないくらいになったんです。

勝部:ブームをつくるのは、ずっと広告キャンペーンの役割でしたよね。大きな予算をかけて、メディアでバンバン広告を流して、アピールして、と。でも、それも「買う人」のなかから生まれるようになってきているのではないか、ということですか?

川名:あくまで肌感覚で、そうかもしれないというレベルの話ですが。ただ、ブームはそもそも押しつけるものじゃないから、そのほうが自然といえば自然です。本来あるべき姿に戻ろうとしているといえるかもしれません。

勝部:いや、でも、注目したいなと思ったのは、ブームの起点に共創があることです。「人をダメにするソファ」というフレーズは、生活の文脈をふまえたうえで、あくまで個人の目線から商品の価値を新たにいいあてたものですよね。あるいは、これまでも何度か出てきた「スタンドファイルボックスをフライパン立てとしてつかう」というお話もそうでしたが、いずれも「買う人」が新しく創造した価値の一種です。

■商品の先に文化がつくられていく可能性がある

川名:たしかに、企業として提案したものを超えていますね。

勝部:ええ。そういう意味では、新しい提案といってもいいと思うのですが、つまりは「買う人」と商品との共創によって生活のなかから生まれた提案が、大勢の人たちのライフスタイルを変える可能性もあるということです。誤解をおそれずにいうなら、文化をつくる可能性があるといってもいいかもしれません。

川名:広い意味では、そういえるかもしれませんね。無印良品の創業を提唱した田中一光さんは、文化とは思想やライフスタイルのことだといっています。いまは思想もライフスタイルも、本当に人それぞれだから、厳密にいえば、文化とは「思想やライフスタイルの集合体」といったほうがいいのかもしれませんが、だとすれば、「買う人」たちが、生活に根ざした価値を実現していけば、たしかに文化をつくることにもつながるかもしれません。

勝部:だからこそ、企業主導で価値を創造した時代のように直接文化をつくるわけではないにせよ、企業はやっぱり、自分たちの商品の先に文化がつくられていく可能性があることを、もっと意識したほうがいいと思うんですよ。

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勝部健太郎(かつべ・けんたろう)
ユニット・ワン 代表
1974年、東京都出身。慶應義塾大学経済学部卒。金融、クルマ、小売の各業界でのビジネス構築やマーケティングの実務を経て、2010年に株式会社ユニット・ワンを設立。無印良品のスマートフォンアプリ「MUJIpassport」の企画、制作、総合ディレクションを手がけて注目を集める。2016年より家電ベンチャーとして知られるバルミューダ株式会社の取締役を兼務。「BALMUDA The Toaster」などの商品・コミュニケーションおよびビジネス開発にたずさわる。国内外の広告賞受賞、講演多数。各種アワードの審査員としても活躍している。

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川名常海(かわな・つねみ)
良品計画 WEB事業部 部長
1992年、株式会社良品計画入社。宣伝販促業務を担当したのち、2004年よりWEB事業部に所属。ECサイト「無印良品ネットストア」、顧客との共創を目的としたコミュニティサイト「くらしの良品研究所」、スマートフォンアプリ「MUJI passport」などの無印良品のデジタルマーケティング全体を統括。とくに統合的な視点からのマーケティングコミュニケーション展開に定評がある。One Show、TIAA、文化庁メディア芸術祭、モバイル広告大賞、Yahoo! JAPANインターネットクリエイティブアワード、コードアワードなど受賞多数。

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(ユニット・ワン 代表 勝部 健太郎、良品計画 WEB事業部 部長 川名 常海)