ツタロックフェスの仕掛け人と兵庫慎司が語る「邦楽ロックの現場で起きてること」

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いよいよ今週末18日(日)に開催が迫った音楽フェス「ツタロックフェス2018 〜TSUTAYA ROCK FESTIVAL 2018〜」。開催を記念して今回、同イベントの仕掛け人でありプロデューサーの前田博章(カルチュア・エンタテインメント株式会社/株式会社TSUTAYA)とロッキング・オン出身でフリーの音楽ライターとして活躍する兵庫慎司の対談を実施。2017年のベスト・ライブのリストをお互いに持ち寄り、2017〜2018年の日本のロックとそのリスナーの新しい動きをテーマに話が交わされた。

・前田博章が選んだ2017年のベストライブ10本
4/22 [Alexandros] 幕張メッセ
6/19 yonige 渋谷クラブクアトロ
8/7 04 Limited Sazabys O-EAST
8/18 CHAI Basement Bar
8/30 欅坂46 幕張メッセ
9/10 星野源 さいたまスーパーアリーナ
10/5 HYUKOH ブリッツ赤坂
12/7 never young beach スタジオコースト
12/13 Nulbarich リキッドルーム
12/17 OGRE YOU ASSHOLE リキッドルーム
12/22 D.A.N. リキッドルーム

・兵庫慎司が選んだ2017年のベストライブ10本
4/9 Creepy Nuts リキッドルーム
6/9 Theピーズ 日本武道館
8/8 女王蜂 東京キネマ倶楽部
9/10 星野 源 さいたまスーパーアリーナ
9/16 plenty 日比谷野音
10/13 銀杏BOYZ 日本武道館
12/3 サンボマスター 日本武道館
12/9 エレファントカシマシ 富山オーバード・ホール
12/31 魔法少女になり隊 COUNTDOWN JAPAN MOON STAGE
12/31 ヤバイTシャツ屋さん COUNTDOWN JAPAN Galaxy Stageカウントダウン

兵庫:リストアップをしていて気がついたんだけど、俺、同じバンドばっかり観てるのね。数えたら、2017年に180本ぐらいライブ観てるんだけど、そのうちエレファントカシマシが10本、フラワーカンパニーズが12本、みたいな。

前田:(笑)。じゃあ、2017年に自分が体験したライブの現場から、2017年のシーンを総括とかは、しづらいですか?

兵庫:うん。年末も、シーン総括とか年間ベスト選出みたいな仕事、俺には来ないなあと思ってたけど、「そりゃ来ねえよ、こんな奴に」っていう(笑)。

前田:たとえば、2017年から今年にかけての新人バンドとかはどうですか?

兵庫:そうねえ……あ、前田くんが挙げてるCHAIは、俺の2017年のベスト・デビューアルバムなんだよね。強いて言うなら、若い世代の女の子、いくつも才能あるバンドが台頭して来たな、という印象はあったかな。聴いていて自分がひっかかるものがそうだったというか。yonige、CHAI、The Wisely Brothers、羊文学とかね。

前田:あ、それはそうですね。どういうふうに捉えてます?

兵庫:たとえば、ひとつバンドがブレイクすると、それと同じジャンルのバンドがドーッと増えるじゃない? ああいうのって音楽業界が仕組んでると思われがちだけど、それ以前にまずアマチュアがそうなるじゃないですか。

前田:ですよね。フォロワーがいっぱい出て来る。

兵庫:ライブハウスもそうだし、コンテストやオーディションに応募してくるバンドもそうだし。っていう話をGLIM SPANKYにしたら、「ほんとにそうでした。私たちの頃はライブハウス、神聖かまってちゃんみたいなバンドだらけで、その中で浮いてました」って。
前田:はははは。

兵庫:というふうに、何かが流行ればみんなドーッとそっちに行く中で、比較的、それとは別のところで独自の音楽を作っているのは、女の子のバンドなのかもな、と。

前田:ああ、そうかも。確かに男の方が、流行ってる音に対して「これかっこいい! 自分もやりたい!」って飛びつくかも。僕もそうなんですけど。

兵庫:俺もです。っていうようなことを、さっき名前を挙げたガールズ・バンドを聴いていて思いました。サウンド・スタイルありきで音を選んでないというか。まず自分の中に表現したい感情とかがあって、それを音楽に置き換えたらこうなりました、という順番な気がする。

前田:yonigeとかまさに、言いたいことが先にあって、それが音楽になった感じですもんね。あと、CHAIに関して言うと……今って洋楽を聴かない若いバンド、増えてるじゃないですか。その中ではめずらしく、CHAIは洋楽のルーツを感じますよね。

兵庫:ああ、前にアンコールでThe Ting Tingsのカバーやってて、「やっぱりそうか!」って思った。TOM TOM CLUB、CIBO MATTO、The Ting Tings、CHAIっていう感じ。

前田:あとBEASTIE BOYSとかも入ってる気がする。でもほんと減りましたよね、洋楽ロックがルーツのバンド。

兵庫:まあ、こうなるのもしかたないとも思うけど。

前田:今、日本の洋楽の状況って、海外とは完全に分断されちゃっていますしね。

兵庫:それも大きいし、今海外ではロックが弱体化している、ヒップホップやEDMに負けてるっていうのも大きいよね。たとえばThe Mirrazって、最初はまんまArctic Monkeysだったじゃない? The Telephonesがディスコ・パンク直撃の音で登場したのもそうだし。でも今、ああいう洋楽のロック・バンドとか、ムーブメントってないもんね。

前田:確かに。でも男の子も、いい新人バンドがいくつも……たとえば、tetoってどうですか?

兵庫:ああ、好きですね。でも、けっこう前からいない?

前田:前からいるけど、ここ半年くらいの間に急に注目度が上がった感じが。で、ライブもよくなったし。ギアが入ったというか。

兵庫:ちょっと前からいるけど最近特に注目度アップ、っていうのだと、AGE FACTORYもそうですよね。

前田:あと、CDショップの目線で言うと、お客さんの嗜好も、以前とはかなり変わって来た気がします。ジャンル買いっていうか、「これが好きな人はこれも好きなんじゃない?」っていうの、あるじゃないですか。

兵庫:Amazonのおすすめ的な。

前田:そうそう。それがだんだん効かなくなって来た実感があるんですよね。だから、店としては、ジャンルとかじゃなくて、その単体のバンドのCDをいかに売るか、みたいな発想になっていく。

兵庫:ごく限られた好きなバンドしか聴かないっていうこと?

前田:いや、それがそうでもないんです。いろいろ聴くし、いろいろ買ってくれるんだけど、1枚ずつジャンルがバラバラだったりするんですよね。

兵庫:あ、それと近いことを感じたのが……たとえば、04 LIMITED SAZABYSとMy Hair is BadとヤバイTシャツ屋さんって、全然違うバンドじゃない?

前田:ああ、でもお客さんは違うものとして聴いてない、ってことでしょ?

兵庫:そうそう。その3つ、どのワンマンに行っても、お客さん、着ているものも盛り上がり方も同じなんだよね。でもあれはいいことのような気がする。聴き方に変なカテゴライズがなくて柔軟というか。俺らの世代よりよっぽど自由に音楽を楽しんでるなあと思う。

前田:そうですね。だから、ジャンルで買わないというか。「10-FEETを買いに来ました。以上!」みたいな。

兵庫:ああ。でもそれ、「10-FEETぐらいじゃないと買わないよ」という可能性もあるよね。

前田:(笑)そうか。他のものはサブスクで聴いて──。

兵庫:そのジャンルのトップクラスで好きなものだけCDも買う、という。

前田:でも、僕らはCD屋さんなんで、そこはあきらめずにやっていきたいんですけどね。だから、逆に言うと、CDショップも書店も、買いに行ったもの以外が目に入ってくる、というのがいいところじゃないですか。

兵庫:Amazonのおすすめは「これ、あなたが好きそうなやつですよ」っていうものを推してくるけど、CDショップだとその外側にあるもの、ほっといたら自分が触れそうにないものも、情報として入ってくるっていうことね。

前田:そうです、そうです。だから、もし本当に今のリスナーの聴き方が、Amazonのおすすめ的なものが通用しない感じになっていっているなら、ショップにはそこの可能性をまだ探れる余地があるのかも、と思っているんですけどね。

前田:兵庫さん、2017年はフェスってどれくらい行きました?

兵庫:えーとねえ……、3月に「ビクターロック祭り」、4月に「ARABAKI ROCKFEST.」、5月にスガシカオの「スガフェス」とJAPAN JAM、6月に「TAICOCLUB」と「YATSUI FES.」、7月は「PEANUTS CAMP」と「FUJI ROCK FESTIVAL」、8月は「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」2週と「UKFC」と「SUMMERSONIC」、9月は大阪の「OTODAMA」と「氣志團万博」とくるりの「京都音楽博覧会」、10月は「ASAGIRI JAM」、あと11月にグッドモーニングアメリカの「八王子天狗祭」、あとは年末の「COUNTDOWN JAPAN」かな。

前田:行ってますねえ。フェスというもの自体の役割とか存在って、何か変わってきたところって感じました?

兵庫:感じますね。特に邦楽のフェスは、誰がどんな理由でやっているのかがはっきりしているフェスが残っている気がする。

前田:作り手の顔が見えるってことですか? でもそれ、昔から言われてましたよね。

兵庫:そうなんだけど、今「ARABAKI」や「OTODAMA」に行くと、特に感じるの。たとえば2017年の「ARABAKI」は、6月9日に日本武道館ワンマンを控えたTheピーズのためにスペシャルな枠を作ったわけ。「OTODAMA」は2016年、フラワーカンパニーズからTHE COLLECTORSへの「日本武道館のタスキ」受け渡しイベントをやった。そういうことって、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」では──。

前田:やるわけないですよね。どちらのバンドも、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」の参加者のまんなかではない年齢層だし。

兵庫:それもあるけど、もしまんなかの年齢層だったとしてもやらないと思うんですよ。あそこまで巨大なフェスになると、ある程度の公共性みたいなものも求められるというか、どこかのバンドに肩入れすることって難しいでしょ。たとえば再結成したTHE YELLOW MONKEYが出演した2016年に、「イエモン復活祭」みたいなこと、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」がやるかというと──。

前田:やらなかったし、そういう発想自体ないでしょうね。

兵庫:「ARABAKI」も「OTODAMA」も、地方のイベンターが作ってるフェスなのね。そうすると、規模がそこまで大きくなくて、アーティストとの距離が近い分、特定のバンドに肩入れすることも多くなって、そんなふうにフェスとしてのカラーが出て来るという結果になるんだなあ、と思った。ただ、「このバンドなら肩入れしても他のバンドがイヤな気持ちにならない」っていう線はちゃんと考えていると思うけど。

前田:あと、ラインナップの数の多さ、幅の広さにおいては、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」が絶対的な存在ですしね。

兵庫:そう、だから、そこは目指さないというか、ほかに目指す場所があって作られているフェスがおもしろい存在になっているんだと思う。夢番地が山口でやっている「WILD BUNCH」や、四国でずっと続いてる「MONSTER baSH」や、あと老舗の「RISING SUN ROCK FESTIVAL」もそうだと思うし。たとえば、ディスクガレージが「DI:GA online」っていう音楽サイト、やってるじゃない?

前田:ああ、兵庫さん、書いてますよね。

兵庫:書いてるし、編集的なこともちょっとお手伝いしていて。あのサイトも「もっと独自のカラーを出したいよね」っていう話をよくするんだけど、難しいのが、アーティストのセレクトでカラーを出すことが不可能なんですよ。

前田:ディスクガレージのサイトですもんね。日本でいちばん大きいイベンター。

兵庫:そう、アイドルとか芝居とかアイスショーまでやっていて、本当に幅広いから。っていうことを考えていて、「ヴィンテージロックならカラー出せるんだけどな」って思って。

前田:確かに。「個人がやってる感」がある規模だから。

兵庫:それで言うディスクガレージが「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」で、ヴィンテージロックが「OTODAMA」なのかな、っていうね。で、前田くん、かつては「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」と「COUNTDOWN JAPAN」の出演者だったわけじゃないですか。DJブースのレジデントで。

前田:はい。夏と冬、10年くらいやらせてもらいました。

兵庫:たとえばあの現場でずっと体験したことが、今自分が「ツタロックフェス」を作る上で役に立っていたりします?

前田:そうですね。あの時の感覚って今でも残っていて。新しい音を聴いて「いいな、このバンド」と思う時の視点って、あそこでDJをやっていた時の感じがずっと抜けていなくて。というか、音楽を聴く上でずっと残ってますね、無意識に。DJをやめて何年も経ちますけど。たとえば僕、そんなに音楽を深く詳しく理解しているという自信はないんですけど。ただ、お客さんが「こういうの好き」って感じるのをパッとキャッチすることはできていたのかな、だからああいう場で続けさせてもらえたのかな、と自分では思っていて。

この「ツタロックフェス」のブッキングも……自分的に「今これを聴いてほしい」っていうのが活かせてるのかな、と思っていて。たとえば、このフェスの出演者にKANDYTOWNやD.A.N.が入っているのって、「違和感がある人もいると思うよ」って言われるんですけど。でも、自分としては何も違和感がなくて。

兵庫:ああ、「俺だったらDJで並べてかけますけど」っていう。

前田:(笑)そうです、そうです。で、どのタイミングで、どういう流れでかければその曲がかっこよく響くのか、っていうのは考えながらやりますけど。フレデリックとBase Ball Bearは続けてかけられるし、そこからD.A.N.にも行けるし。っていうようなことは考えますね。だから、僕のDJの、「今このバンドが面白いよ」っていうセットリストになっているのかもしれない、今回の「ツタロックフェス」のラインナップは。それをフェスとしてどういうふうに見せていくか、というテーマはあるんですけど。

兵庫:でも正直、「ツタロックフェス2018」のブッキングを見た時に「これはいいな」と思いました。

前田:あ、ほんとですか?

兵庫:うん。お客さんが観たいもの、自分たちが観せたいものがうまく入っているし、いい感じにバラけてるし。ただ、ほんとにバラけてるだけだと、お客さんの観たいものから乖離しちゃうこともあるでしょ? 作り手の自己満足になってしまって。

前田:わかります、わかります。

兵庫:でもこれだったらみんな喜ぶし、チケット売り切れるんじゃないかな。

前田:あ、もう売り切れました。

兵庫:すごいじゃん。だって、武道館が売り切れるバンドが3つ集まってもZepp Tokyoが埋まらない、みたいなことってよくあるもんね。足し算にならないっていう。

前田:そこなんですよね。裏の話をすると、そういうのと逆の売れ方をしたんですよ、チケットが。第三弾発表でyonigeの名前が出たら、チケットが一気に伸びたんです。でも普通、他のバンドと比べるとまだ新人の彼女たちが出ることがわかったからって、そこまで伸びるとは思わないでしょ。

兵庫:ああ、組み合わせの妙があったってことね。

前田:そうです。SNSとか見てたら「クリープハイプが出てMy Hair is Badが出てyonigeが出るんなら行くしかない!」ってみんな言ってて。正直、そこまで計算してブッキングしたわけじゃないんですけど、「そうか、このラインってそこまで強力だったのか」っていうことを、お客さんに学びましたね(笑)。

前田博章
カルチュア・エンタテインメント株式会社 音楽事業企画部 所属。TSUTAYA RECORDSの本部MDを長らく担当し、ツタロック立ち上げ当初から関わり、今回の「ツタロックフェス2018」立ち上げメンバー。2003年〜2013年の間、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」と「COUNTDOWN JAPAN」のレジデントDJを務める。

兵庫慎司
音楽などのライター。ロッキング・オン社で雑誌・書籍・ウェブサイトの編集に携わり、2015年からフリーに。リアルサウンド、週刊SPA!、DI:GA online、KAMINOGE、月刊ロッキング・オン・ジャパン等に寄稿中。

ツタロックフェス2018〜TSUTAYA ROCK FES 2018〜
■公演日:2018年3月18日(日)
■会場名:幕張メッセ 国際展示場9・10・11ホール
■出演者:[Alexandros] / OGRE YOU ASSHOLE / KANA-BOON / KANDYTOWN / クリープハイプ / SUPER BEAVER / sumika / D.A.N / 04 Limited Sazabys / フレデリック / Base Ball Bear / My Hair is Bad / MAN WITH A MISSION / yonige
■OPEN 9:00/START 10:30/CLOSE 21:00(変更の場合もあります。)
■チケット料金 ¥8,700(TAX IN)
■主催 カルチュア・エンタテインメント(株)/ライブマスターズ(株)
■企画 カルチュア・エンタテインメント(株)
■制作 ライブマスターズ(株)
■協賛 シンハービール TSUTAYA Tポイント 八海山
■運営 (株)ディスクガレージ
■協力 (株)TSUTAYA / Rolling Stone Japan
http://tsutaya.tsite.jp/feature/music/tsutarock/tsutarockfes2018/index