日韓の言葉を扱う仕事に携わっているせいか、古来からある言葉や用語はもちろん新語に関しても日韓でどのように使われているかをまとめたりしている。

 そんななか日韓で共通しているようで、多少の温度差を感じるのが「姑と嫁」の関係である。

 韓国では「嫁ぐ」という言葉は「シジプカダ」と言い、姑、小姑などには「シ」という言葉をつけて呼ぶ。

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韓国のシーワールドとは

 例えば、舅は「シアボジ(アボジは父の意)」、姑は「シオモニ(オモニは、母)」、小姑は「シヌイ(ヌイは女兄弟)」などである。

 最近の新語「シーワールド」は、そこから派生した用語で、イルカがショーを披露する場所を指す日本とは異なり、韓国では嫁ぎ先のことをこう呼ぶようになった。

 さて、韓国の「Me Too運動」はついに政界にまで波及し、文在寅大統領の側近の1人だった道知事も性暴力で訴えられる始末。ここからさらに一波乱起きそうである。

 そうした「Me Too運動」とはやや異なるが、韓国女性は韓国の儒教的な呪縛から脱するために、最近、立て続けに反乱を企てている。

 まず、紹介したいのは、今年公開されたドキュメンタリー映画「B級嫁」。

 B級嫁は、結婚してからシーワールドが理解できない嫁とそんな嫁が気に入らない姑、そしてその狭間で苦悩する嫁の夫であり姑の息子である映画監督が主な登場人物だ。

 3年かけて撮り続けた映画監督本人の家族のドキュメンタリーだという。

 カール・マルクスは「地獄への道は善意で敷き詰められている」と言ったが、この映画の登場人物にも悪人はいない。

火に油を注ぐ夫の言動

 朝鮮時代から続いてきた社会的システムとしてのシーワールドが嫁を苦しめ、システムに溶け込んでいる姑は嫁が理解できず苦悩するのだ。

 映画監督本人は、そんな2人の間で両方の意見を理解できず、仲を取り持つどころか火に油を注ぐような発言を繰り返す。挙句に自分(映画監督)がこんなに苦しいんだから、これを映画にして一儲けしようと企んだ。

 かいつまんで映画のストーリーを説明しよう。

 嫁はなぜ名節(旧正月など韓国の伝統的祭日)の日になると必ず夫の家へ行って家事労働を強いられるのかに疑問を抱く。

 名節だけではない。舅の誕生日、姑の誕生日、夫側の祖先の祭祀など、ひっきりなしに嫁の家事労働が続く。

 そればかりか、2日に1度は姑に電話をかけてご機嫌伺をするように言われる始末。電話をすれば、息子は何々が好きだからとか、ご飯をちゃんと作ってあげなさいとか、さらには下着はどこどこのを買いなさいまで、細かく指定される。

 B級嫁は、それらすべてを拒否し、最終的にそういう記念日的な日には一切シーワールドに行かない。

 万一行くことがあっても夫の弟に対し名前で呼び捨てにする。韓国では、結婚してない弟は「トリョンニム」など敬称で呼び、名前を呼び捨てにするのはご法度である。

A級嫁とB級嫁

 姑はそうした嫁が気に入らず「もういいわ。あなたが何て言おうが私は孫の顔さえ見られればいいのよ」と言うと、「私をないがしろにするなら、孫の顔は見られないと思ってください」と、きつい言葉を返す。

 どちらも言いようのない腹立たしさがこみ上げ苦悩し、結果として、嫁はシーワールドに足を向けなくなる。

 すると嫁は自由になり、気が楽になって、次第に自ら進んでシーワールドに出入りするようになる・・・。

 ところが、姑の方はシーワールドのシステムに溶け込んでくれたもう1人の息子の嫁を「A級」とし、主人公の嫁には「B級」の烙印を押してしまう。「あなたは良い嫁ではない。死ぬまでB級のままなのよ」というわけである。

 昨年は、「ミョヌラギ(嫁期)」というウエブ漫画もSNSで大ヒットした。

 結婚すると嫁として一生懸命義務を果たし姑に気に入られようとする時期があるとして、「嫁期」なる造語を作った漫画である。

 人によって嫁期は異なり、数か月でやめてしまう人もいれば10年以上に及ぶ人もいる。けれども、女性たちよ、私たちのアイデンティティは「嫁」ではなく、1人の人間だ、というのがテーマだ。

 ここでの1つのエピソードは、共働きをしている嫁の海外出張。

嫁の海外出張を止めようとする姑

 嫁が海外出張に行くと言うと、「なぜ人妻のあなたが出張に行くのか。行ったら、うちの子(夫)の食事はどうなるのか」と姑が問う。そして「出張には行けないと会社に言えないのか」とまで言うのである。

 だが、ここにも悪人はいない。ただ、社会システムにのまれた姑が嫁に対して自分と同じ道を行ってほしいと思う。

 その姑も社会システムに不満がないわけでもない。だが、あきらめの境地でやっている。

 また、夫も自分の母親がかわいそうで、自分と結婚した嫁はやさしいからそんな母親を助けてくれるだろうと思う。

 結婚したての嫁だって、嫁期の間は一生懸命尽くそうとする。ここでは誰かが少し我慢すれば、家庭はうまくいく。

 それを嫁に期待しているだけなのだ。だが、嫁は本当にそれでいいのか、と疑問を抱き始める。漫画では、淡々と事実が述べられていて、どちらが悪いとも主張しない。

 現在「嫁期」は、女性たちから大きな反響を得て本が出版され、グッズもバカ売れ状態だ。そして、2月には実写版としてテレビでオンエアされた。

 これはドラマのような創作されたものではなく、嫁期をベースに実際のカップルの様子を追いかけたドキュメンタリー番組だった。

シーワールドから卒業した嫁

 上記の2つの作品は、結婚したての若い嫁がシーワールドのおかしさに気づいて、自分たちの主張をし始めたものだが、さらにその先を行く本も出版されている。

 「ミョヌリ辞表(嫁辞表)」のタイトルで、、結婚して24年間専業主婦として一生懸命シーワールドに尽くしてきた嫁が、ついにシーワールドから退社することを決心し、辞表を出す内容の本である。

 これまた実在の人物、キム・ヨンジュ(53)氏が2013年秋夕(チュソク:旧盆に行われる祭祀)の頃に辞表を持ってシーワールドに行き、「これから長男の嫁職を辞退いたします」と述べ、2016年には「卒婚」も果たした。

 彼女が辞表を出してからシーワールドは劇的に変わったという。

 舅は祭祀や名節の儀式を簡素化した。家族会合でも家事労働を強いられず笑いながら食事ができるという。そして、卒婚をすることで、「男子厨房に入るべからず」であった夫が料理をするまでになったという。

 韓国の中流家庭では男女区別なく教育を受けさせ、子供たちには水仕事を一切させないところも多い。

 それなのに、シーワールドに入った途端、家事労働者になることを強要するのは矛盾している。そんな矛盾に女性たちが気づき始め、声を出し始めているのだ。

 毎年、名節の後になると、「名節症候群」で病院へかけつける嫁がいまだに多い韓国。嫁期で女の子を生んだ母親がこうつぶやいた。

 「(女の子に向かって)あなたは外国で暮らしなさい。韓国じゃ駄目よ」

 これが彼女たちの本音であり、まだまだ社会システムが変わらないことへの反抗なのだ。少子化対策に苦悩する政府はこうした女性心理をもっと理解すべきではなかろうか。

筆者:アン・ヨンヒ