ドル安円高がなかなか修正されないのは、日銀の金融政策への信認が揺らいでいるからだ(撮影:今井康一)

2月初旬に米国株が急落するなど、米国を中心に金融市場が不安定化し、市場参加者のリスク回避姿勢が強まった。


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一時は落ち着きを取り戻したかに見えたが、3月に入って米国のトランプ政権が、鉄鋼・アルミニウム製品への関税引き上げを打ち出してから、再び米国株市場は動揺した。6日には関税引き上げ政策に反対していたゲーリー・コーンNEC(米国家経済会議)議長の辞任が発表されたが、ホワイトハウスの中でも関税引き上げ政策をめぐる意見の相違が大きかった模様だ。

特定の国内産業を保護するための関税引き上げ政策が、経済全体の観点では非合理な政策であることは、改めて指摘するまでもない。ビジネスマン出身のドナルド・トランプ大統領自身がこの点を理解しているかどうかは不明だが、政治事情が優先され、経済・貿易活動を阻害する政策が実現するリスクがあるということである。トランプ政権の動きに、金融市場が動揺するのはやむをえないだろう。

トランプ政権の保護主義政策は「驚き」ではない

だが、NAFTA(北米自由貿易協定)再交渉や、中国に対して強硬な通商政策で臨むことは、トランプ政権が当初から掲げていたことであり、その意味では驚きとまでは言えない。11月の中間選挙を前にした政治ツールとして保護主義政策が今後使われるとしても、米国のWTO(世界貿易機関)離脱など、貿易戦争に至るというのはテールリスクと位置づけられる。

また、米国が政治的事情で一部業界をターゲットとする不合理な貿易制限に踏み出すのは、2002年のジョージ・W・ブッシュ政権時の鉄鋼製品へのセーフガード、1990年代半ばのクリントン政権時の日本の自動車に対する対米輸出数量制限、など過去にも例がある。

当時これらの政策は、米国をはじめとした世界経済全体の成長率には大きく影響しなかった。2018年の米国経済は、辞任したコーン氏が大きく貢献したとされる減税・歳出拡大によって、成長率が上振れる可能性が依然高い。2017年は北朝鮮の核問題とそれに対するトランプ政権の対応が、最大のリスク要因と株式市場で認識された。2018年はトランプ政権の通商政策への疑念がそれに代わるリスクとなるのかもしれない。要因は異なるが、トランプ政権に対する疑念でリスク資産が不安定になる場面でのリスクテイクが報われる、という構図は、2017年と同じと言えるかもしれない。

ところで、3月に入ってから、為替市場において一時1ドル=105円台までドル安円高が進んでいる。金融市場が動揺しリスク資産価格が下落する中で、為替市場では明確なロジック(論理)もなく、ドル安期待が強まっているようにみえる。

実際に、2月中旬までは、ユーロドル相場を含め、全面的なドル安だった。だが、ユーロドルは2月中旬に1ユーロ=1.25ドル台がドル安のピークで、2月後半からはユーロ安ドル高となっている。そうした中で、ドル円の円高傾向が続いたのは、日本側に起因する「円高」が起きていることを意味する。やはり日本銀行が「早期に金融引き締めに踏み出す」という観測が影響しているとみられる。

たとえば、3月2日の衆議院議院運営委員会での黒田東彦・日銀総裁の所信聴取において、某通信社が「2019年度ごろ出口を検討していることは間違いない」と報じたことで、ドル円が105円台に円高に動く場面があった。この場での発言を含めて、黒田総裁の国会での発言に目を通せば、現状2%の物価目標実現までかなり距離があり、また下方リスクと不確実性が存在する、とも述べている。この時通信社がヘッドラインとして強調した「2019年度ころに出口を検討している」というのは展望レポートの公式見解を前提とした発言であり、それだけで「黒田総裁自身が早期の出口政策に傾いている」というのはかなり飛躍した解釈だろう。

4月以降、日銀の金融政策への信認低下に歯止めも

それでも、そうした黒田総裁の発言に疑念を抱く市場関係者が多くなっていることが、2月後半の円高を招いたことも否定しがたい。2月26日のコラム「日銀は再び金融緩和を強化する可能性がある」でも述べたが、現在のイールドカーブ・コントロールの枠組みでは、財政政策が再び緊縮的に運営されており、新規国債発行が減少し続けているため、マネタリーベースを抑制し金融引き締め的に作用し始めている可能性がある。現行の金融政策の枠組みにこだわり続けることで、日銀の金融政策が外部環境頼みとなっている。

筆者が懸念したとおり、2%のインフレ目標実現に対するコミットメントが揺らいでいるという意味で、日銀の金融政策への信認低下が起きているわけだ。その結果、前述した黒田総裁の発言の一部を切り取った報道に、為替市場が円高に反応したと言える。そして、マネタリーベースの伸びが鈍りさらに2%インフレ実現に距離がある中で、通貨高を許容すればそれは日銀が金融引き締めに実際に転じていることを意味する。

前回のコラムでも述べたが、4月から新たな日銀執行部になることをきっかけに、停滞していた決定会合での議論が再び活性化するとともに、緩和強化に向けて議論の方向が変わると筆者は予想している。それが、円高修正のきっかけになる可能性がある。