楽天の2軍キャンプ、ブルペンで投手の球を受ける嶋基宏捕手(筆者撮影)

筆者は昨年2月、12球団の15のキャンプ地を回った。今年も18のキャンプを回った。こういう形でキャンプ地を網羅する人は少ないのではないか。「キャンプ地総まくり」からは、今のプロ野球の違った側面がいろいろ見えてきた。宮崎県に続いて、沖縄県などのキャンプを見ていこう。

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市町村の個性が現れる沖縄県キャンプ

沖縄、那覇空港に降り立てば、一瞬でこの地が、本州とは別世界であることに気付く。

2月の平均気温は15度。南国宮崎でも朝方には氷点下になることも珍しくないことを考えれば、別世界だ。この温暖さがキャンプをするうえでは、圧倒的なアドバンテージであるのは間違いない。


沖縄県では、二次キャンプ、2軍キャンプも含めて9球団、12カ所の春季キャンプが設けられている。宮崎県との大きな違いは、沖縄県のキャンプは、1市町村で1つになっていることだ。このため、それぞれのキャンプ地で個性豊かな支援やイベントが行われる。ただ1、2軍合同のキャンプは、離島の2キャンプだけだ。自治体規模の問題もあって、施設的には宮崎より見劣りするものもある。

那覇空港からモノレールで15分の至便の地にあるのが巨人の二次キャンプ(1軍選手だけが参加)だ。真新しい沖縄セルラースタジアム那覇を中心に、沖縄県営奥武山(おうのやま)総合運動公園の広大な敷地で行われている。こちらも宮崎に負けず劣らず施設が充実。選手の動静をWeb上で伝えるサービスも宮崎同様。また先着順で選手の練習をグラウンドで見ることができるサービスも行っている。出店も多く充実している。


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那覇市の近郊都市、浦添市の浦添運動公園で行われているのがヤクルトの1軍キャンプだ。美術館などの施設とも隣接し、週末には家族連れが多く訪れる。今年は2月に入って入団が決まった青木宣親関連のグッズが人気だ。また12球団屈指のキャラ立ちで知られるマスコットのつば九郎は、ブルペンで投手に指示をするなど活躍している。キャンプ地にはつば九郎神社もあり、ファンを一手に引き受けている感がある。

DeNA1軍の宜野湾キャンプは西海岸のコンベンション施設に隣接。売店は少ないが、リゾート気分にあふれている。メイングラウンドのアトムホームスタジアム宜野湾では、ランチタイムにラミレス監督がスタンドに現れ、ファンと交流することがある。前任の中畑清監督もスタンドのファンとハイタッチをしていたが、こうしたファンとの近さが魅力だ。

宜野湾市の北隣の北谷町(ちゃたんちょう)の中日1軍キャンプは、大型ショッピングモールのアメリカンビレッジに隣接している。今年は松坂大輔フィーバーに沸いた。ファンの数は倍増し、急きょ作られた松坂の背番号「99」のレプリカユニが飛ぶように売れた。ブルペンには観客席が新しく設けられるほどで、松坂大輔のカリスマ性を改めて思い知らされた。

沖縄本島中部の沖縄市のコザしんきんスタジアムでは、広島が二次キャンプを張っている。すでに32年の歴史がある。日南市民の「広島愛」は熱烈だが、沖縄市も負けていない。昨年のキャンプでは優勝パレードが行われた。また本場の「広島風お好み焼き」の店舗も出ている。二次キャンプは練習試合が中心だが、キャンプ周辺には「チバリヨ―広島」ののぼりがはためいている。

関西弁の含有率高い阪神、沖縄最北の村の日本ハム

那覇から車で1時間、沖縄本島中部の東海岸の宜野座村に阪神タイガース1軍キャンプがある。2003年からと歴史は浅いが、今や高知県安芸市に代わって虎ファンのメッカとなった。キャンプ地での関西弁の含有率は極めて高い。

メイングラウンドのかりゆしホテルズボールパーク宜野座には、甲子園の整備を担当する阪神園芸の社員が1月から入って土を入れ替え、芝を整備し、甲子園と同じコンディションをキープしている。ブルペンの観客席も見やすい。売店も多彩で、充実している。

2017年までは沖縄本島中部の名護市で日本ハムファイターズが1軍キャンプを営んでいた。1978年から40年の歴史がある沖縄最古のキャンプだ。那覇市から1時間半以上もかかる立地にもかかわらず多くのファンが押し寄せ、多数の店舗が出店していたが、名護市営球場は老朽化のため昨年キャンプ終了後に取り壊され、再建中だ。

今年の日本ハムは、アリゾナで一次キャンプを行い、二次キャンプは沖縄最北端の国頭村(くにがみそん)で行った。もともと日本ハムが2軍キャンプを行っていた地である。

施設は、かいぎんスタジアム国頭を中心に整備され、いわゆる山原(ヤンバル)の自然を満喫できる立地ではあるが、平日は店舗は一つだけ。前年まで名護市で出店していた業者が名物の焼きそばを売っている。キャンプ地では大型ルーキーの清宮幸太郎ものびのびと体を動かしていた。国頭村は那覇市から車で2時間以上かかるが、熱心なファンが訪れていた。


日本ハム国頭村キャンプ、名護市からやきそばを焼きに来ていた出店店主(筆者撮影)

現在、沖縄県の離島のキャンプは2カ所で行われている。

沖縄本島から西に100kmの久米島(沖縄県久米島町)では、2005年の球団創設以来、楽天がキャンプを張っている。久米島球場を中心に、キャンプ施設が整備されている。周囲にはサトウキビ畑が広がる。沖縄本島にもない独特の雰囲気だ。

久米島の東部の仲里球場では楽天の2軍がキャンプを行っている。1、2軍が同じエリアでキャンプを張るメリットは大きい。しかしながら、楽天の1軍は2012年から、2月中盤以降、沖縄本島の金武町(きんちょう)で練習をしている。

このあたりの事情について楽天野球団広報本部広報部長の五十井寛之氏はこう説明した。

「久米島のキャンプは、施設的にも、久米島町の支援体制も素晴らしい。離島というデメリットよりもメリットの方がずっと大きいと思います。ただキャンプ中盤以降は、どうしても実戦が中心になる。沖縄本島の金武町に移動するのは練習試合のためです。そのタイミングで2軍が仲里球場から久米島球場に移ります」

巨人、広島もそうだが、1軍がキャンプ地を移転した後に2軍が入るというパターンが定番になっている。

前述したように、キャンプは1、2軍が合同でやった方が効率は良い。しかし、球団とキャンプ地の間に深いつながりができるとともに、ドライにキャンプ地を移転することはできないという感情が球団、地元双方に生まれる。プロ野球のキャンプが来るにあたっては、自治体側は例外なく公費で球場や環境の整備を行っている。そういうこともあって、2軍が1軍キャンプに移転するということになっているようだ。

今年の久米島の楽天2軍キャンプでは、チームの守備の要、嶋基宏や、セットアッパーの福山博之などの一流どころも調整している。筆者は3年前、沖縄本島の読谷村(よみたんそん)の中日2軍キャンプで、この年限りで引退する山本昌の始動をじっくりと見ることができた。実は2軍キャンプは、通のファンには穴場でもあるのだ。

今年から二次キャンプとなった金武町の楽天キャンプ

さて、沖縄本島の金武町での楽天の練習は、今年から正式に二次キャンプになった。金武町ベースボールスタジアムは、今年1月4日に逝去した星野仙一前監督が、まだ建設中から目をつけ、使用を申し入れたという経緯があるが、完成後はKBO(韓国プロ野球)のKIAタイガースが春季キャンプに使っていた。楽天は開設時から練習に使用していたが、今年から二次キャンプとなった。

球場玄関には、星野仙一前監督の「77」のユニフォームが飾られている。

正式にキャンプを名乗ったことで、出店も増えた。金武町はタコライス発祥の地とされる。タコライスを出す店も数店舗あった。店に話を聞くと、売り上げは今一つとのことだったが、これから人気が出てくるだろう。

ロッテのキャンプ地は沖縄本島から400km離れた石垣島(沖縄県石垣市)で1、2軍が合同でキャンプを行っている。石垣島の気温はこの時期でも25度以上。タクシーに乗れば冷房が利いている。本土から持ってきたダウンジャケットを小脇に抱えた筆者の姿は、Tシャツ半パンの人々に交じって実に滑稽だった。

投手がブルペンに入るのは、宮崎ではおおむね10時半以降、沖縄本島でも10時頃からだが、石垣島では9時半には投手がブルペンで捕手のミットにいい音を響かせている。井口資仁新監督が、捕手の後ろで真剣な表情で投手を見つめていた。

ロッテキャンプが石垣市に与えた影響

石垣市企画部観光文化スポーツ局スポーツ交流課、イベント交流班班長の小底正弘氏は、ロッテキャンプの地元への影響についてこう話した。

「ロッテさんが石垣市で春季キャンプをするようになって、今年で11年です。経済効果ももちろんですが、何より、子どもたちが野球のできる環境を整備できたことが大きい。ロッテキャンプを受け入れるに際して、市はグラウンドを改修し、さまざまな施設を整備しました。

2月は、ロッテがこの施設を使用しますが、それ以外の季節は島の住民や子どもたちが使います。プロ野球が使う立派な施設で練習や試合をすることで、子どもたちはさらに野球が好きになりましたし、技術もアップしました」

ただ、離島キャンプには対戦相手がいないことがついて回る。石垣市では、3年前からCPBL(台湾プロ野球)のLamigoモンキーズとの交流戦であるアジアゲートウェイ交流戦Power Seriesを誘致している。

「今年は多くの応援団の皆さんもやってきて、インバウンドも期待できるようになりました。また、今年2月6日(日本時間7日)台湾東部を中心に発生した地震における被災地への支援のため、石垣市主催の募金活動も行いました。絆は深まっていると思います」

CPBLと言えば球団お抱えのチアガールがリードし「アッタラアター(安打、安打!)」とシュプレヒコールをする派手な応援が売り物だが、南の島は、大いに盛り上がっていた。


石垣島ロッテキャンプ、Lamigoモンキーズ、球団専属チアガール(筆者撮影)

沖縄県のデータでは、2017年(2016年度)のキャンプの経済効果は109.5億円、県外からの観客は7万900人となっている。10年前はそれぞれ53.4億円、2.8万人だったから急成長していることがわかる。

沖縄県文化観光スポーツ部スポーツ振興課スポーツ企画班の紱嶺竜二氏は、沖縄キャンプの経済以外の効果について、「子どもたちへの影響が大きいと思います。プロの技を間近に見られることに加え、野球教室などで地域児童との交流も図れることから、子どもたちのアスリートキャリアの構築や健全育成に大きく寄与しているものと考えます。また、経済効果に含まれていますが、キャンプを受け入れている市町村はこの時期、凄く盛り上がっており、地域活性化にも大きく貢献していると思います」と語った。

球団の直接的な支援は受け入れ市町村が中心となって行っているが、県としても「スポーツツーリズムの推進を図るため、受け入れ市町村の意見交換会の開催、空港でのめんそーれパーク(キャンプブース)の設置、キャンプ地情報を一元化したWEBサイトやガイドブックでの情報発信など、国内外の方々にプロ野球沖縄キャンプの魅力をPRし、来訪のきっかけとなる取り組みを行っています。また、キャンプの継続実施が重要となるため、球団ともより良い関係の構築を図り、球団、市町村、県、地元住民と一体となり、キャンプ地を盛り上げていきたいと考えています」とのことだった。

沖縄本島への一極集中は今後も進むか?

かつてのキャンプ王国、高知県では今、西武の二次キャンプと阪神の2軍キャンプが行われている。掛布雅之、清原和博、松坂大輔などのスター選手も高知でプロデビューを果たしたが、今は辛うじて実施されているレベルだ。往時を知る筆者は、今回、改めて現地を回って愕然とした。

今も安芸市のタイガースタウンには熱心なファンがやってくるが、高知市のタクシー運転手は「野村克也監督の時代は、高知から何台も安芸へ向けて車が出たもんやが」と嘆く。

鹿児島県や長崎県、広島県、静岡県などのキャンプ地はすでにない。高知県は風前の灯火。この傾向が続けば、沖縄本島への一極集中になりそうだが、話はそれほど単純ではないかもしれない。

昨年のセ・パ両リーグの優勝チーム、広島、ソフトバンクは、いずれも宮崎県でキャンプを行っている。これは、偶然なのか。

前出の福岡ソフトバンクホークス経営管理本部広報企画部部長の鈴木直雅氏は言う。

「温暖な沖縄から本土に帰って、体調を崩す選手もいるのではないでしょうか。沖縄県の2月の平均気温17度は、福岡県では4月の気温です。このギャップを考えれば、徐々に温暖になる宮崎の気候は決して不利だとは思いません」

宮崎、沖縄、高知のキャンプをめぐって、しみじみ思ったのは、プロ野球キャンプのぜいたくさだ。

筆者は数年前からキャンプ地を回っている。キャンプガイド本を作るにあたって、ストックの写真が使えるかと思ったが、ほとんど使えなかった。ユニフォームやフラッグ、看板などが毎年新しくなるからだ。「この写真のスタジャンの袖のラインは3本線ですが、これは2年前です。今は4本線になっています」みたいな指摘を球団からいくつも受けた。毎年、多くのアイテムを作り替えているのだ。

また、自治体の熱烈歓迎ぶりもすごい。ある市の職員に取材アポを取っていて「雨が降ってきたのでグラウンドにシートをかけないといけないので会えません」とメールをもらったことがあった。市や観光協会のキャンプ担当職員は、この時期、キャンプに張り付いている。キャンプで一番忙しいのは間違いなくこの人たちだ。

キャンプで配布するパンフレットを自治体の費用で印刷している例もある。筆者はプロ野球キャンプに隣接するJリーグのキャンプもできるだけ見に行くようにしているが、施設の豪華さと地域の熱意では、Jリーグはプロ野球に及ばない。

「野球離れ」への危惧をテーマとして書いている筆者としては、この光景は誠に心強い。「まだまだ捨てたものではない」と思う。

キャンプの経営資源を活用しているとは言えない球団

とはいえ各球団がこうしたキャンプの有形無形の経営資源をビジネスや顧客拡大に有効に使っているとはとても思えない。
キャンプへの来場が原則無料なのは、それでいいと思うが、今のファンは勝手にキャンプにやってきて、勝手にモノを買って帰っているだけだ。

例えば回るコースを提案し、見どころやイベント、プレゼント、グルメなどを盛り込めば立派な旅行商品になると思う。ソフトバンクや巨人は少し実施しているが、他球団はほとんどそれができていない。

小規模なツアーはあるにはある。今年のロッテがキャンプを張っていた石垣市のアジアゲートウェイ交流戦Power Seriesには、JTBが千葉県出発のツアーを組んでいた。昨年までは日本ハムキャンプにもツアー客は来ていた。しかしそれはまだ例外的だ。航空会社やLCC(格安航空会社)、地元ホテル、レンタカー会社、観光地などとタイアップした商品はほとんどない。

その最大のネックになっているのが、キャンプ日程が直前まで公表されないことだ。ほとんどの球団は前年の12月になって2月のキャンプ予定を発表する。中には1月になって休日を変更した球団もあった。これでは本格的な旅行商品は作れない。

もちろん球団にしてみれば、キャンプの目的はあくまで「チーム作り」であって、観客動員ではないということになろうが、シーズン中、主催試合であれほどきめ細かいマーケティングを行っている手法を、なぜキャンプでも活用しないのだろうか。

選手たちの練習環境を損なわず、顧客に満足を与えるサービスを提供することは、今のNPB営業部隊のオペレーションの高さを考えれば決して不可能ではないと思う。

楽天は本拠地、楽天生命パーク宮城(今年から改称)の「ボールパーク化」を推進している。楽天野球団の五十井広報本部広報部長は「キャンプ地の久米島や金武町でも、ボールパーク化を推進できるポテンシャルは十分にある」と話した。本拠地球場の動員率が80%、90%と高まる中で、さらなる収益化のために春季キャンプを活かさない手はないだろう。

球団ビジネス、地域振興、さらには野球の普及を考えるうえでも、プロ野球キャンプはまだまだ進化の余地があるのではないか。引き続き、ウォッチしていきたい。