今回はフェラーリ「F430」を紹介する

日本の自動車市場には、いま世界中からさまざまな新型車が送り出されており、ニューモデルの登場を報道で耳にしない日はないと言っていい。そうした中から順当に新車を入手するのもいいが、すでに生産を終了してしまったモデルの中にも、自動車の歴史に名を残すような名車たちが数多存在する。それらをユーズドカーとして手に入れることも、新車選びに劣らず楽しく、時にはリーズナブルな自動車生活をもたらしてくれる。
この連載企画では、現在も誰もが現実的にマーケットにおけるクルマ選びをすることが可能で、十分実用に供することができる世代のモデル(つまり、いわゆるクラシックカーや希少車は含まない)を、筆者がドライブした経験と現実的な購入・維持にまつわる情報を交えて紹介していく。

第6世代にあたるフェラーリ「F430」

第1回としてフェラーリ「F430」を紹介したい。1970年代の308GTBに端を発するV型8気筒エンジン搭載のミッドシップ・フェラーリとしては第6世代にあたるモデルとして、2004年に産声を上げた。2004年といえばフェラーリF1チームはミハエル・シューマッハが前人未到の5年連続ドライバーズ・チャンピオンを成し遂げた全盛期で、誰もが新型の成功を疑わず、この上ない期待を背負っての登場だった。


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1999年に発売された従来型の「360モデナ」からボディ構造やエンジン、ギアボックスといった基本構成を受け継いではいたが、それだけに細部での進化には著しいものがあった。運転席の背後に置かれる自然吸気V8エンジンは、排気量を3.6リッターから4.3リッターまで拡大することなどによって最高出力が400馬力から490馬力まで高められていた。

高出力化に対応するためタイヤサイズは拡大され、高速化に対応するためエアロダイナミクスも改善。コーナリング時の加速を効率的にし、車両の挙動を安定化させる電子制御ディファレンシャルE-Diffや、エンジン全開で発進する際に馬力をうまく使い切るローンチ・コントロールがV8フェラーリとしては初めて搭載されたのもこのモデルだった。

長いミッドシップV8フェラーリの歴史の中で、今回特にこのモデルをチョイスしたのにはもちろん理由がある。それは、ステアリングホイール上に置かれるスイッチでモード選択が可能なスタビリティ・コントロール・システム(ESC)、つまりスピン防止装置がこのモデルから搭載されるからだ。

限界的な走行シーンにおいて、車両がスピンモードに入る、あるいは極端なアンダーステア(ハンドルを切っても曲がらない)が生じた場合に、エンジンの出力を調整するだけでなく各ホイールに備わるブレーキを電子制御でかけて車両を安定させる仕組みで、自動車の安全技術や法制について研究する公的機関として世界で最も大規模なもののひとつであるIIHS(米国道路安全保険協会)の調べによると、一般的にその装着により自動車の単独事故の5割以上が削減できるという。

スポーツカーをESCなしに制御できるのは…

「本格的なスポーツカーにそうした電子デバイスは必要ないのでは?」という論調も昔から存在する。しかし、すべてが自己責任で、速く走ることが目的のサーキット走行に限ればそうかもしれないが、一般公道上では不意な他者の飛び出しや路面の不整といった予期せぬ事態がしばしば訪れるし、私の経験からすると300馬力以上の最高出力を発し、このF430のようにリアが285mm幅という強力なタイヤグリップを備えるスポーツカーを、ESCなしに制御できるのは相当熟練したドライバーに限られると思うのだ。


ステアリングホイール

そして、整備が行き届いたクルマであれば、4段階に調整できるF430のESCはまったくスポーツ・ドライビングの邪魔にはならない。前に説明したE-Diffや、走行モードによっても調整される電子制御ショックアブソーバーの効果もあって、つねに遠慮なくアクセルペダルを踏みつけて刺激的なV8エンジンを味わうことができるのだ。

絶対的な加速性能では最高出力670馬力の現役世代である「488GTB」に及ばないのは性能データから明らかながら、ペダルの動きに対する俊敏さや超高回転域のスムーズさ、そして濁りのないサウンドは、もしかしたら自然吸気エンジンのF430のほうが上を行くかもしれない。強烈な加速Gを身体で感じながら、まるで最高級の金管楽器を操っているかのような金属的な振動音が、F1ギアボックスの鋭い変速のたびに繰り返される様は痛快と表現するに尽きる。

さて、そんなF430の実力を多くのスポーツカー・ファンに味わってほしいところだが、市場の状況はどうだろうか。

主要な中古車サイトを覗くと、全国を探せばF430の台数はそれなりに多いことがわかる。2006〜2008年が中心で価格は1200万〜1500万円台に分布している。

走行距離が短いものが多い

フェラーリの中古車で特徴的なのは、基本的に生活の道具として使うものではないので年式が進んでいても走行距離が短いものが多いことだ。露天駐車ではイタズラが心配なので、車庫保管のものも多い。それゆえ内外装の程度は一般的に良好なはず。10年落ちとはいえ、新車(488GTB)の半額程度で入手できるとなれば買い得感が高いように思われる。


F430の足回り

逆に内外装が相当キレイでなければ、機関も含め手荒な扱いを受けていたことも想像される。気をつけたいのは事故の履歴があるかどうかと、改造の結果としての不調やエンジン回りのオイル漏れ、F1ギアボックスのクラッチの減りだろう。改造について、これはフェラーリに限らずだが、国土交通省が定めた基準に沿わない場合は正規ディーラーが入庫を拒否するケースが最近の法改正で増えているので気をつけたい。F1ギアボックスのクラッチの消耗については、診断機を接続すれば状況が把握できるそうで、交換する場合はかなりの出費(100万円弱)を覚悟しなければならない。

走行距離が短いクルマでも安心はできない。街乗りばかりを続けていると高性能車ゆえエンジンルーム周辺に熱がこもりやすく、それがコンピューターの不調や樹脂製部品の劣化を招くことがあるからだ。美術品のように美しくても、快調に走らせようと思えば製造から10年近くを経たクルマである。保証プログラムのあるお店を選ぶか、あらかじめ整備費の余裕をみた資金計画をこころがけたい。