中国深センから映像革命を起こす26歳「Insta360」創業者の野望

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2017年8月、ユーチューブに掲載された一本の動画が世界に衝撃を与えた。ビーチに立つカップルの周囲をぐるぐる旋回する、謎の飛行物体が撮影したような奇妙なムービー。SF映画「マトリックス」を連想させるその動画は、撮影者の周囲360度を切り取る"究極のセルフィー(自撮り)"とも呼ぶべきものだった。

このプロモーション映像を撮影したのは中国の深圳で今、最注目のスタートアップ企業「Insta360」のカメラ。2014年に設立の同社は全天球撮影が可能な"360度カメラ"に特化したカメラメーカーとして、日本を含む世界100カ国以上で製品を販売。創業から4年で年間売上30億円を超える規模に成長した。

同社の広報部でプロモーションの指揮をとる、ドイツ人のマックス・リヒターは次のように話す。

「世界をあっと言わせるプロモーション映像を撮ってみんなをびっくりさせたかった。あの動画はカリフォルニアの海辺で撮影されたように見えるけど、撮影場所は深圳。西洋人のエキストラを雇った以外は全て社内のスタッフで撮影した。僕らは小さなスタートアップだから、お金は節約しないといけないからね」

リヒターは同じく深圳が生んだ世界的ドローンメーカー「DJI」に務めた後、2016年にInsta360の広報チームに加わった。

「ドイツの大学を出てメルセデス・ベンツに就職し、マーケティング担当として香港で働いた。ある日、リンクトインでDJIの人とつながって転職を決めた。子供の頃からカメラが好きでガジェットには関心があった」

2015年、ホワイトハウスの敷地にドローンが墜落して世界中が大騒ぎになった。その年にリヒターは深圳に居た。

「当時はDJIもまだ小さなスタートアップだったけれど、西洋人がいっぱいいて、なんてグローバルな会社なんだろうと思った。メルセデス時代に得たノウハウを投入してDJIをヨーロッパに認知させた」

リヒターは2016年秋にInsta360に参加。ソーシャルメディアを中心としたバイラルマーケティングを加速させている。

「Insta360は"360度撮影"という最先端のアイデアを実現し、人々がSNSでシェアする動画や画像に革新をもたらす企業。深圳に本拠を置くこの会社が未来を作ると確信した。社長のJKは自分より2つ年下だけれど、人を引っ張っていく才能がある天性のリーダーだ」

深圳のスタートアップが集まる宝安区に建つ25階建てのビルにInsta360のオフィスがある。約200名のチームを率いるのが、日本のガジェット好きの間で"JK"として知られる劉靖康(リウ・ジンカン)だ。

91年生まれの起業家が見た「映像の未来」

劉は南京大学に在学中の2014年に、動画サイトでVR(仮想現実)映像を見て衝撃を受けた。フェイスブックがVRヘッドセットのオキュラスリフトを20億ドルで買収して話題になったその年、彼はこの分野の巨大なポテンシャルに気づいた。

「グーグルがスマホで手軽にVRが体験できる『カードボード』を発売して、さっそく入手してその没入感を体験した。当時はVRコンテンツを撮影する360度撮影対応のカメラがまだ少なく、この分野で起業すればチャンスがあると思った」

玩具工場を経営する父のもとに1991年に生まれた劉は、小学校5年生の頃に独学でプログラミングを始めた。高校時代には、プログラムの全国大会で優秀な成績を収め、2010年に難関の南京大学に入学を果たした。

「南京大学を志願したのはテクノロジーに強い大学だという評判を聞いたから。けれど、大学の講義にはあまり出ず、家でプログラムを書いている時間のほうが長かった。卒業して会社員になるという発想は無かった。誰かに指図されて生きるのではなく、自分の人生を生きたいと思った」