日本を代表する企業・トヨタ自動車が1位に。写真は豊田章男社長(撮影:鈴木紳平)

戦後最大の危機とも言われる東日本大震災発生から7年が経とうとしている。小社が2017年に行った第13回東洋経済CSR調査では、2017年6月末時点の企業の東日本大震災復興支援の状況は「行っている」49.4%(492社)、「行っていない」48.8%(486社)だった。前年の「行っている」51.9%(488社)から微減となり初めて過半数を割った。94.7%(730社)が何らかの支援活動を行っていた2011年夏時点と比べると活動の後退は明らかだ。

ただ、多くの企業は各社の理念に基づき、「必ずしも利益を最優先としない」社会貢献的な活動にも幅広く取り組んでいる。復興支援は多くの活動のなかの一つになりつつあるというのが現状のようだ。

東洋経済では東日本大震災の復興支援も含む企業の社会貢献活動に関する情報を集めて『CSR企業総覧(ESG編)』に掲載。毎年、この中から各社の社会貢献活動支出額と支出比率のランキングを作成し発表している。今回もランキングをベースに各社の社会貢献の取り組みについてご紹介していく。

支出額では1位トヨタが他社を圧倒

まず、2016年度の社会貢献支出額のランキングから見ていこう。トップは5年連続でトヨタ自動車(292.4億円)。2014年度216.9億円、2015年度253.8億円と2位以下を大きく引き離す。同社は「ステークホルダーの笑顔のために」を基本に本業での貢献だけでなくさまざまな社会貢献活動に取り組んでいる。


1975年に開始し、参加者が累計26万人となった幼児向け交通安全教室「トヨタセーフティスクール」。音楽を通じた地域文化振興を目的に、地域のアマチュアオーケストラとともに全国で開催する「トヨタコミュニティコンサート」。中国で経済的な理由により大学進学・進級が困難な学生を支援する「トヨタ助学金」といった活動を行っている。

環境面の活動も多い。公募制の「トヨタ環境活動助成プログラム」でNGOの生物多様性保護などのプロジェクトを支援。「トヨタ白川郷自然學校」「トヨタの森」の運営、中国・河北省での植林活動、など多岐にわたる。

東日本大震災の復興支援活動も継続している。東北ではトヨタ自動車東日本でのコンパクトカーの製造、トヨタ東日本学園での人材育成、スマートグリッド技術を活用した農商工連携事業など本業を絡めた貢献にも積極的だ。

2位は日本生命の87.5億円。地方自治体と連携協定を締結し、「健康推進・疾病予防」や「障害者スポーツ支援」など地域課題の解決に取り組んでいる。自社野球部・卓球部によるスポーツ教室を全国で実施。2016年度は野球教室2649人、卓球教室1837人の子どもたちが参加した。

ライフイベントや将来設計等をテーマにした中高生向け出前授業を全国展開するほか、修学旅行生等の受け入れ授業を実施するなど本業に関連した活動も多く行う。東日本大震災の記憶を風化させないために、入社1年目の職員を対象にした東北復興支援体験教育プログラムも実施している。

3位はホンダの79.4億円。地域自治体と協力しながら全国の砂浜を清掃する「Hondaビーチクリーン活動」「全国高等専門学校ロボットコンテスト」の活動支援、「TOMODACHIイニシアチブ」を通じて日米の学生が文化交流を体験する機会を日本とアメリカで提供するなど幅広い活動を行っている。

海外売上高比率の高いJTは海外でも活動

4位はJTの74.4億円。市民参加型の清掃活動「ひろえば街が好きになる運動」を自治体・企業・学校・ボランティアなどさまざまな団体と協働し全国で実施。地元行政・森林組合・地域住民等と連携した森林保全活動「JTの森」といった国内での取り組みを多数行っている。

海外でも多くの活動を推進。児童労働の防止と撲滅を目指す「ARISEプログラム」をマラウイ、ザンビア、タンザニア、ブラジルで実施。2016年1年間で児童労働から解放もしくは免れた子どもは9742人にのぼる。苗木を植え、成長した樹木を切り倒さずそのまま支柱とする葉たばこ乾燥小屋「ライブ・バーン」の建設にも力を入れる。ザンビア東部の州では設置率100%を達成し、森林伐採の防止に貢献している。

以下、5位日本電信電話67.8億円、6位NTTドコモ64.7億円、7位三井不動産55.4億円、8位サントリーホールディングス54.8 億円、9位ソフトバンクグループ53.3億円、10位大日本印刷47.2億円と続く。

10億円以上の支出は62位LIXILグループ(10.0億円)まで。100位オムロンでも5.7億円と多くの企業が多額の金額を社会貢献に使っている。

続いて経常利益に対する社会貢献支出額が占める比率(「社会貢献支出比率」)を見ていこう。バラツキをならすため経常利益と社会貢献支出額はそれぞれ3年平均で計算。さらに利益が低く比率が高くなる企業を除外するため、売上高経常利益率1%以上、ROEプラスを条件とした。

比率では岐阜の印刷業中堅が1位に

トップは総合印刷業中堅のサンメッセ(8.13%)。3年平均の経常利益2.0億円に対して1700万円を支出する。「地域社会との共生」をCSR活動の重要テーマ(マテリアリティ)に掲げ、本社がある岐阜県大垣市を中心に積極的に活動。知的障害者授産施設「ハーモニー大垣」によるパンの出張販売会の社内実施や本社野球場の少年野球や中学校等への貸し出しなどを行っている。

大垣の岐阜県立情報科学芸術大学院大学などと連携し、「多視点映像による看護技術タブレット教材」の開発といった自社技術を活用した貢献も幅広い。地元に生息する絶滅危惧IA類「ハリヨ」(淡水魚)を、岐阜県から許可を得て飼育するなど環境活動にも積極的だ。

2位は武田薬品工業の6.48%。経常利益(同社は税引前利益)394.8億円に対して25.5億円を支出する。ただし、2015年3月期の145.4億円の赤字で3年平均値が低くなっている点には注意が必要だ。3位は事務用品中堅のリヒトラブ(6.22%)。経常利益1.6億円に対して1000万円を支出する。

以下、4位大日本印刷(6.12%)、5位エーザイ(6.02%)、6位ファンケル(5.97%)、7位ツムラ(5.86%)、8位カゴメ(4.70%)、9位協和発酵キリン(4.33%)、10位フジクラ(3.98%)と続く。

日本経済団体連合会(経団連)が1990年に設立した「1%(ワンパーセント)クラブ」では「経常利益(法人)や可処分所得(個人)の1%以上を目安に社会貢献活動に支出しよう」と呼びかける。今回のランキングでは89位の三菱商事(1.00%)までが1.0%以上となっている。多くの企業でも社会貢献の支出目標を設定する際に参考となる数値だろう。

3年間のデータが取れる659社の社会貢献支出額の合計は、2014年度2100億円、2015年度2231億円、2016年度2473億円と支出額は増加傾向にある。特にその他社会貢献への支出が2014年度723億円、2015年度800億円、2016年度934億円と拡大している。NPO団体などに寄付するだけでなく、自ら活動を行ったり、事業活動と絡めたりする形も増えている。

CSRは本業で行うべきなのか

さて、最近、企業の社会貢献活動について「寄付活動ではなく事業活動で貢献すべき」や「これはCSRではなく本業として行っている」といった本業で行うべきという趣旨の言葉をよく聞く。ただ、実際に多くのCSR先進企業を見ていると直接事業に関係しているとは考えにくい活動も幅広く行っている。

こうした活動を間違っていることのように言う専門家もいるが、「幅広い分野で社会のために貢献したい」という企業は少数派ではなく、頭ごなしの否定は言い過ぎのように思える。


「企業の社会的責任」は企業規模が大きくなるほど増していく。社会から求められる範囲は広がっていき、なかには営利活動では難しい社会貢献活動も含まれる。もちろん一企業が社会から期待されることをすべて行えるわけではないので、取り組むべき範囲を定めるといった基本方針は必須だ。だが、それらをすべて営利を前提とした事業活動として行うことはまず不可能だろう。

国連は2015年9月に貧困など世界の課題を2030年までに解決するための目標、SDGs(持続可能な開発目標)を採択した。この中には「貧困をなくす」「質の高い教育の提供」「ジェンダー平等の実現」「誰もが使えるクリーンエネルギーの実現」「持続可能な消費と生産の確保」といった17の目標とそれぞれに設定された合計169のターゲットがあり企業の積極的な関与が期待されている。

これらをグローバル社会からの要請と考え、本業で行える活動とそれ以外をいかにバランスよく組み合わせて取り組んでいくか。各社の知恵が求められている。