神戸、阪急沿線に広がる山の手エリア。そこには、一般人には決して足を踏み入れられぬ世界が広がっている。

華やかでありながらも強固なネットワークと古いしきたりに縛られ、“生まれた家柄で全てが決まる”閉ざされた世界。

そして、そんな彼らのレベルを決めるのはいつだって「出身校」なのだ。

公立校出身者はよそ者扱い、私立大学で幅を利かせられるのは内部進学者のみ-。

神戸に渦巻く学校別ヒエラルキーに翻弄される者たちの人生。その実態を暴いていこう。

先週は、内部生であることが神戸女子のトップブランドだと豪語する甲南女子大出身の恵理子を紹介した。

さて、今週は!?




<今週の神戸女子>
名前:麻里佳
年齢:30歳
出身地:兵庫県西宮市
出身校:神戸松蔭女子学院大学

麻里佳は、神戸内では有名なインスタグラマーだ。

彼女のInstagramアカウントは、まるでアートギャラリーに飾られた絵画のように、色鮮やかだ。計算し尽くされた構図の画像がずらりと並べられている。

カンクンの高級リゾートホテルで過ごしたバケーションや、限られた者しか招かれない超人気ブランドの展示会、華やかなドレスに身を包む女たちに囲まれた豪華なパーティーの様子。

そのフォロワー数は、“35K”。つまり、3.5万人にも昇る。

麻里佳は、西宮で生まれ育ち、中学校から神戸松蔭に通っていた。松蔭は、神戸の山手にある中高一貫私立女子校で、言わずと知れたお嬢様学校だ。

祖母の代に始まり、姉妹や親戚までが卒業生だという家庭も多く、神戸で絶大な人気を誇る学校のひとつ。

特に、120年以上前の開校当時から変えていないという制服は圧倒的なブランド力を持っており、夏服の真っ白な制服には、神戸嬢ならばきっと一度は憧れを抱いたことがあるだろう。

麻里佳は現在、会社勤めをしていない。華やかで自由な人生を謳歌しながら、さらには神戸内で絶対的地位を誇る、有名私立校の“内部生”という肩書にも恵まれた彼女。

ところが麻里佳は、意外な言葉を口にした。

「中学時代から、私がいたのは底辺でした。内部生だからといって、勝ち組だと思ったら大間違い。内部生には内部生のスクールカーストが存在するんです」


松蔭・内部生にも関わらず、麻里佳が輝けなかった理由とは?


ここで重要視されるのが、実家や親の出自や職業だ。

麻里佳の母も松蔭出身者だが、父は公立校あがりのサラリーマン。神戸の狭い世界では、同級生の両親の職業に始まり、出身校まで、すぐ把握されてしまうのだ。

公立校出身者というだけで、偏差値が高かろうが低かろうが、一部の人間からは部外者のレッテルを貼られてしまう世界。

せっかくの有名私立校に通う麻里佳でも、父親が公立出身という事実はかなりの足枷となった。

実家が裕福なお嬢様はトップに君臨し、常に人が集まる。しかしその一方で、麻里佳は決して目立つ存在ではなく、ひたすら地味な学校生活を過ごしていた。

そして、麻里佳の見つめる先には、ある強力なグループが存在したのだ。

それは、松陰の中でも最も目立つ女子たちの集まりだ。見た目が華やかなのは言うまでもないが、皆がそろって中小企業の社長の娘。グループのリーダー格は、関西の有名企業を経営する父を持つ、サキだった。

高校時代から、エルメスのガーデンパーティーはカジュアル使い。シャネルのマトラッセは“持っていないと人ではない”レベルであり、リングとブレスレットはカルティエのラブコレクション。

これらを揃って身に着けるのは、そのグループのメンバーの証のようなものだ。ひとつでも欠けたら、グループ内の地位は降格する。

エスカレーター式で神戸松蔭女子学院大学に進学してからも、彼女たちの栄華は続いた。サキを筆頭に、グループ内の全員が読者モデルとなり、その頃には神戸の女子の間でかなり有名なグループとなっていた。

そんな輝かしい彼女たちを、麻里佳は遠くから指をくわえてただ見つめることしかできない。

―同じ内部生のはずなのに…。

でも、大学に入ってからの麻里佳は、それなりにオシャレにも目覚め、生まれて初めての彼氏もできた。彼は甲南大学に通う同い年の優しい好青年だ。

こうして、次第に“身の丈にあった幸せ”への有難みをかみしめるようになり、サキたちへの劣等感からようやく解放されたのだった。




ところが、麻里佳に転機が訪れた。それは社会人5年目、友人から、心斎橋にある『Restaurant つじ川』での食事会に誘われたのだ。

同い年の彼とは相変わらず交際中だ。しかし、デート先は居酒屋的な店ばかりで、少しお洒落なレストランにも行ってみたくて魔が差したのだった。

そこで出会った圭吾は、一代で築き上げたIT会社の社長。年齢は麻里佳より15個も歳上だ。年間売上は20億を超え、なかなか儲けているらしい。

ちょうどその頃巷では、Instagramが流行り始めていた。食事会で訪れた店の料理の写真を早速アップすると、驚くほどたくさんのいいねを貰えたのが嬉しくて、麻里佳は癖になりそうだと思った。

後日、圭吾から食事に誘われた。初デートは神戸の名店『カセント』だったという。



その後、麻里佳は恋人と別れ、圭吾と付き合い始めた。

圭吾の紹介で人脈が広がり、元読者モデルで有名ショップ店員の友達もできた。Instagramで莫大なフォロワーを抱える彼女が、何かと麻里佳をタグつけしてくれるので、そのたびにフォロワーが増えていく。

そしてその頃には、麻里佳の私生活も昔とは全く異なるものになっていた。圭吾は、着る服も食事も行く旅行も、全て支払ってくれるのだ。


松蔭で味わった屈辱とはもう無縁。立場逆転を成し遂げた麻里佳


底辺からの下剋上


毎月2回は圭吾と海外旅行に行き、インスタ映えする鮮やかな場所を選び1人で写真を撮る。 実際には圭吾と行っていようとも、あくまで1人でいるように見せることが重要であり、男の影は消すのだ。

ハッシュタグにはお決まりの#まり旅と載せ、いかにも旅行が趣味なことをアピール。

外食の際は、食べログ3.8以上の超人気レストランか高級ホテルでの食事のアップを徹底し、買ってもらった鞄や靴は、そのブランドをタグ付けしてさりげなく自慢することも忘れなかった。

気がつくと麻里佳は、神戸で流行に敏感な女なら知らぬ者はいない、有名インスタグラマーへと成長を遂げていたのだった。




松蔭の同級生からは「本当は庶民なのに...」と妬む声もあったが、これは有名になった証拠とポジティブに考えているという。

「Instagramで特に気合を入れているのは、コーディネート写真です。着ている洋服は、洋服ブランドを立ち上げている友人のオリジナルブランドばかり。彼女たちと写真を撮るときも、色違いを着てリンクコーデにすることで、より一層インスタ映えするんです」

狭い神戸では、友人が立ち上げたブランドの洋服を着用し、助け合うのが鉄板だ。

いかにも“私たちは同類ですよ”アピールを行うことで、友人たちとの関係も一層強固なものとなっていくという。

逆に、どんなにダサい物でも友人のブランドを載せないと、グループから外されてしまうという暗黙のルールもある。

こうして麻里佳が拡大させていたのは、フォロワーの数だけでなく、リアル世界での人脈でもあったのだ。

一方で、フォロワー数がうなぎ登りで上昇していく間も、麻里佳は、とあるアカウントのチェックを欠かさなかった。それは、松蔭時代・女王グループのリーダー、サキのアカウントだ。

サキはかつて、関西では人気の読者モデルの一人で、イベントや雑誌に引っ張りだこだった。また、ブログ全盛期のアメブロ月間PV数は30万PVを優に超えていたようだ。

しかし、Instagramのフォロワー数は5000人程度と、かつての勢いはすっかり無くなっている。

「読モブームも完全に過ぎ去った今、インスタのフォロワー数はリアルな人気を示すバロメーターになります。有名人を気取っていても、フェイクな人気はインスタですぐバレますから」

麻里佳はそう言って、勝ち誇った顔で微笑む。

そんな矢先に、麻里佳はとあるサキの投稿を目にした。それは、読モ時代にデビューした、サキのオリジナルブランド終了のお知らせだった。

そのとき、松蔭の女王の座に君臨していたサキの時代の終焉を確信したという麻里佳。

ところで、今年30歳となった麻里佳は、圭吾との将来についてはどう考えているのか。それを尋ねると、彼女は苦笑いをする。

「実は、最近彼とは別れてしまったんです。圭吾は結婚も考えていてくれたようなんですが、私はまだ自分の可能性を試してみたくて…」

実は、麻里佳は人づてで知り合ったアパレル企業の社長に持ちかけられ、自身のアクセサリーブランドを立ち上げていた。

インスタグラマーとして人気を博していたことが、チャンスに繋がったようで、ブランドの売り上げも好調らしい。

「サキのブランドが撤退した一方で、なんだか皮肉ですよね。だけど、親や実家などバックボーンで階級を判断されていた松蔭時代はもう終わり。私は自分の努力で立場を逆転させたんです。」

Instagramのおかげで、かつてのスクールカーストの底辺から、下剋上を成し遂げた麻里佳。

そんな彼女のInstagramを今日も覗いてみる。

そこには「半年ぶりに、ハワイに来ています♡」と、アラモアナショッピングセンターの中で白のロングワンピースを身にまとう姿がアップされていた。

よく見るとウィンドウ越しに、高級ブランドのショッパーを大量に抱えながらスマホのカメラを向ける男性の姿が写っている。圭吾とは別の男のようだ。

麻里佳が本当に“自分の力で”幸せを掴む日は、永遠に訪れないのかもしれない。

▶NEXT:3月17日土曜更新予定
生まれた家柄が全てなのか?関西学院大学の内部生から見た神戸嬢とは。