カンボジア西部のタイ国境近くの村で開削した井戸を押す松岡代表

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 図書館や学校の教室などの壁に貼られた世界地図。その製造・販売会社で四国・松山市に本社を置く株式会社世界地図は、「世界に井戸を掘る」という高邁な活動の原資づくりを目的として事業を展開している。前回は60歳を過ぎてこの新ビジネスを立ち上げた同社の代表、快男児・松岡功氏に、同社の世界地図ビジネスについて話を聞いたが、今回は海外での井戸掘り活動を紹介する。

●すでに392基の井戸を開削

――松岡代表が世界地図ビジネスを創業・展開なさっているのは、世界に井戸を掘ろう、提供しようという理想がおありになったわけですね。

松岡 世界地図のビジネス展開は、実はその活動の原資を稼ぐことが目的です。私どもがお手伝いした海外での井戸掘削は現在、392基が完成しています。

――世界地図ビジネスの展開において、井戸掘りと関連づけたりされているのでしょうか。

松岡 地図ビジネスの展開では、あまり井戸掘りのことは訴求していませんが、オリジナル地図5,000部をご発注いただけると、その売上約60万円で海外に井戸を1基開削できます。その井戸には記念プレートを設置し、ご発注者のお名前を「寄贈者」として刻ませていただきます。

――直接寄付する、ということもできるのですか。

松岡 はい。個人で寄付していただいて、井戸の開削式にお出かけになった篤志家の方もいらっしゃいました。

――そもそも第三世界の国で井戸を掘るというのは、どのような意味があるのですか。

松岡 現在の活動の契機になったのは、カンボジアで住民たちが泥水を沸かして使っているのを目撃したことでした。本当に茶色の水で、とても不衛生でした。私たちがお手伝いする井戸は昔ながらの手動ポンプ式の井戸ですが、ひとつ開削するとその集落全体で使えます。およそ500m四方の住民の人たちに共有してもらえます。

 井戸1基掘ったことで、まず5歳以下の乳幼児の死亡率が劇的に減りました。発展途上国での乳幼児死亡の原因のひとつは不潔な水による下痢という現状があるのです。また、成人を含む死因の80%は不衛生な水によるとも聞いています。水が綺麗になったら、80%の病気が防げる可能性があります。

――掘削する国はカンボジアが多いのですか。

松岡 もちろん、いろいろな国で展開したいのですが。カンボジアは、まず私が最初にこの事業を思い立ったところですし、R.Tさんという、第1回PKO(国連平和維持活動)隊員としてカンボジアに地雷撤去のために赴任されて、定住なさった方がいます。この方がタイとの国境沿いにお住まいで、実際の井戸掘りのコーディネートなどなさってくれています。今現在も2カ所で掘ってもらっています。タイとの国境沿いのほかに、アンコールワットの奥地でも1カ所掘削中です。

――カンボジア以外では、どう展開なさってきたのですか。

松岡 バングラデシュでも手がけましたが、そこでは水質の問題が起こりました。現地で協力していただけるY.TさんとR.T.さんの存在が大きく、私の井戸掘り事業がカンボジアに集中してきました。彼らがいるので、私は新しい井戸が開削されるたびに現地を訪問するわけではありません。

●国際交流にも発展

――現地での日本人コーディネーター、協力者の存在が大きい、ということですね。

松岡 スムーズに井戸掘削を進める上では必須だと思います。

――現在は松岡代表の個人的知り合いだけで展開していますが、この事業は有意義なことから、できればJICA(国際協力機構)などと連携できるといいですね。JICAから第三世界の多くの国に日本人専門家が派遣され、常駐しているわけですから。

――代表の井戸掘りプロジェクトは、各国でとても感謝されているでしょうね。
松岡 カンボジアで開削した地域にカムリエン高校というのがあります。ここの校内に掘られた井戸は、青森県の八戸高校が当社の世界地図5,000枚をご購入いただいたことで寄付されました。この寄付が経緯となり、カムリエン高校と八戸学院光星高校が姉妹校となりました。カムリエン高校からチェンターさんという女生徒が八戸学院光星高校に留学してきて、さらに松山東雲女子大学を卒業し、その後、愛媛県内の企業に就職して在日しています。

――国際交流にも発展したわけですね。そういう現地の衛生確保に貢献したい、という企業や個人は結構いると思います。世界地図を貴社から5,000枚購入することでそれが実現できるわけですね。もっと知られてよいことだと思います。

松岡 前述の通り海外井戸掘りへの直接寄付というかたちもお受けしていまして、その場合は工事難度によって20万円から30万円の寄付をお受けして、そのお礼として世界地図を500枚さしあげる、というスキームもあります。

――個人の篤志家なら、そのほうがいい場合もあるでしょう。たとえば私が毎年出す年賀状の数は200枚台ですが、個人が世界地図を5,000枚もらってしまったら始末に困ります。個人の方を巻き込むなら、むしろ枚数を減らしたほうがいいでしょう。

松岡 私は、世界に井戸を、綺麗な水をということで、その手段として世界地図ビジネスを始めたのですが、世界地図ビジネスを展開していくうちに、この商材でさらに大きな夢を追えることに気がつきました。

 坂本龍馬が地球儀を見せられて自らの蒙を啓かれた、という話があります。子供たちに世界地図を見てもらい、自分の国だけではなく世界のことを知ってもらう、俯瞰してもらう。それによって、自分たちの国や地域で起きている紛争や戦争の愚かさに気がつくことになる。

 ノーベル平和賞を受賞したパキスタンのマララ・ユスフザイさんは「1冊の本で世界を変えられる」と言いました。私は世界地図もそんな力を持っていると思います。イラクやシリア、またアルカイダの子供たちが世界地図を見て、「お父さん、戦争なんかやめよう」ということが起きればいいなと願っています。

――御社のリーフレットには、「世界地図は世界を救う」「もう戦争なんてやめよう!」という見出しがあります。すばらしいですね。

松岡 これらの実現を目指して、私は世界地図ビジネスを一生展開しようと思っています。

――商品としての世界地図ですが、いろいろなバージョンの企画やデザインは、どのように行っているのですか。

松岡 デザインや印刷は外部に委託します。各国の国境の表示は、その時現在での日本の外務省の表示を採用しています。各国の指標資料など、アカデミックな内容のチェックは専門家に委託して間違いのないように努めています。商品の企画も実質的に私だけでやっていますが、現在の悩みは販路開拓です。

――松岡代表は前職の時代からボランティアや社会貢献に尽力なさってきましたが、どのような経緯でそのようなことに関心をもたれたのですか。

松岡 月光仮面です。子供のときにテレビで見たヒーローです。「世のため、人のため」ということに強く憧れてきました。

――74歳でいらっしゃいますが、後継者は?

松岡 それがまた頭痛の種です。次男に期待したのですが、受けてもらえなくて。誰か後継者はいませんか。

――すばらしい事業・運動を展開なさっているので、ぜひ継続・発展を図ってください。本日はどうもありがとうございました。

松岡 ありがとうございました。

●対談を終えて 山田の感想

 第三世界に井戸を掘るためにビジネスを始めた、この1点で松岡代表は世界に2人といない経営者であり、篤志家だ。この、青年のようなというか青年にも滅多に見られない理想家の快男児、松岡代表に私はいくつか助言をさしあげた。

 ひとつ目は、世界地図を販売した利益で井戸を掘るというビジネスモデルを逆にして、まず寄付を求めて、そのお礼に世界地図を進呈するというパターンも検討したら、ということである。

 2つ目は、日本以外で壁貼り型の世界地図はあまり普及していないということ。それなら外国語版世界地図の海外販売ということだろう。そのためには、ホームページからのインターネット販売が一番手っ取り早い。英語バージョンのECを早急に立ち上げたらどうか。読者のなかで篤志家やボランティアの方がいれば、ぜひ連絡を取ってみてほしい。

 3つ目は、販売している世界地図の裏側を活用すること。現在は白紙だが、そこに発注の方法やら、井戸の寄付のこと、実績などをデフォルトで刷り込んでしまうことをお勧めした。

 理想に燃える松岡代表に私は打たれた。ぜひ、井戸寄贈プロジェクトが大きく展開されることを祈っている。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)