メディアバイイングをより効率的・効果的にするために、AI(人工知能)を活用しようとする企業の数は増えている。

昨年12月に、高級ジムであるオレンジセオリー(Orangetheory)は、AIプラットホームをローンチした。最高ブランド責任者であるケビン・キース氏によると、これによってCPL(コスト・パー・リード)は20ドルから8ドル(およそ2000円から800円)に下がったという。そして、オレンジセオリーはメディア支出を4倍に増やし、その大部分をAIに費やしはじめた。AIはコストを下げただけではなく高品質なリードの量も増やしているという。数字にして218%増とのことだ。

リードを生むための最適な領域はどこか。これを見極めるには、多くのリサーチや分析が必要になるのが常だ。現代の消費者の行動はスピードが非常に早く、デジタルにおけるデータのボリュームも非常に大きくなってきている。そのため人間が効果的に、かつ効率的にそれらすべてをトラッキングすることは非常に難しい。AIであれば集中して消費者行動を1日も休まずに分析してくれる。コーヒー休憩もない。そして多くの場合はリアルタイムで動いている。

リード生成に寄与



キース氏によるとオレンジセオリーは16カ国に1000のジムを展開し、メンバー数は60万人に上るという。「我々はほぼ1日に1軒、新しいスタジオをオープンしている。AIによるハイクオリティなデジタルリードのおかげで、我々のスタジオのメンバーベースはオープンすると同時に素早く拡大している。オープンしたあとも、こういったリードを活用してメンバー数をキープしている」と、キース氏は語った。

さらにAIによるリード数が増えておかげで、これまでリーチできるとは考えていなかった、新しいオーディエンスの姿も見えてきた。

たとえば、それまでオレンジセオリーのメインターゲットとして考えられていたのは35歳程度の女性で年収が8万ドルから10万ドル(およそ800万円から1000万円)の層だった。それよりも小さなターゲットとして設定されていたのは、同様の年収を待つ36歳の男性層だった。しかし、この2カ月間で彼らが発見したのは、18歳から25歳の男女という若いオーディエンスをより多く獲得しているということだった。さらにこのオーディエンスの大部分は、彼らの興味や情熱の対象として「健康」よりも「大学スポーツ」や「音楽プラットフォーム」をあげていることも判明した。

その他の使いみち



より若いオーディエンス層にリーチするため、オレンジセオリーがAIからの分析結果を踏まえて12月に実行したのが、テレビとソーシャル上のキャンペーン「もっとオレンジセオリー、もっと人生(More Orangetheory, More Life)」だった。オレンジセオリーに通う回数が増えれば、ジムの外での生活もより生き生きとする、というコンセプトで訴えている。

「たとえばシカゴ在住の27歳の女性にどんなメッセージで語りかければ、いまよりももっと深く響くか、AIではそれを知ることができる」と、キース氏は言う。

AIはまた、メディア支出の使い場所をFacebook以外に多様化するのにも役立っている。Facebookは友人や家族の投稿をニュースフィード上で優先することで、マーケターやパブリッシャーのコンテンツの優先度を下げようとしている。そのため全体的な傾向としてマーケターからのFacebookに対する信頼は縮小している。

「Facebookに過度に依存してしまわないように、我々は学習しているところだ。我々もモニタリングをしているけれども、Facebookのアルゴリズムが変更したことで、Facebook(の重要度)の减少が起きている。そのためより一層重要なのがFacebookの外でブランドのストーリーテリングを行い、PRやコンテンツの複合的な活用を行うことだ」と、キース氏は語った。オレンジセオリーは自らコンテンツのなかへと入り込んで行く計画がある。いまや「文化のなかに入り込んでいる」、NetflixやAmazonの番組群がそれだと、キース氏は言う。またAppleTVもしくは、サンバTVでOTTターゲティングを活用する計画もあるとのことだ。

莫大なメディア予算



キース氏が2017年2月にオレンジセオリーに入ってきたとき、マーケティングはFacebookのリターゲティングと口コミにほぼ頼っていた。キース氏はそれまで、JWTアトランタ(JWT Atlanta)で最高戦略責任者、コカ・コーラ(Coca-Cola)でブランドストラテジストとして務めた経験を持つ。そこで彼は、AIがマーケットプレイスに入り込む姿を目の当たりにしたのだ。そして昨年7月、オレンジセオリーはエージェンシー、ザ・トムブラス・グループ(The Tombras Group)と共同してメディアプランニングとバイイングのためのAIプラットフォームに取り組みはじめた。

リードをどれだけ生み出すことができるかは、ジム利用者を獲得するのに特に重要だ。新しいAIプラットフォームがこのリード生成にどのようなインパクトを与えるかを見極めるため、7月から10月のあいだ、オレンジセオリーは何度も分析テストを行った。結果は満足のいくものであり、今後も継続してプラットフォームは成果を出すだろうと、自信を持っているようだ。

AIに対するこの信頼はオレンジセオリーのメディア予算が証明している。2018年オレンジセオリーはなんとこのAIプラットフォームを使って1500万ドル(約15.8億円)ほどのメディア支出を行うという。メディア予算の総計は1800万ドル(約19億円)だ。1800万ドルという額は、昨年の3倍にもなるという。増えたのはメディア進出だけではない。オレンジセオリーの自社マーケティングチームは3人から17人へと増員した。AIが活用されることで必ずしも職が奪われるわけではないことを証明している。

Ilyse Liffreing(原文 / 訳:塚本 紺)