ハーレーダビッドソンのバイクに囲まれてご満悦のトランプ大統領。だが、EUはこれに報復関税をかけるとしている(写真:Carlos Barria/REUTER)

米国トランプ政権の通商政策は、車掌もブレーキもない暴走列車のようだ。政権内からまっとうな経済政策を志向する司令塔が去り、米国議会の警告もむなしく響いている。厄介なのは、WTO(世界貿易機関)の多角的貿易システムというレールも安全保障に関しては"滑りやすく"、暴走列車を止められない可能性がある点である。

トランプ大統領は3月1日、1962年通商拡大法232条(安全保障例外)に基づき、鉄鋼とアルミニウム(共にその製品を含む)の輸入品に対して、それぞれ25%、10%の関税を課す方針を示した。

鉄鋼・アルミ救済策で幅広い輸入価格ショック

これに先立つ今年1月、米国商務省が発表した2つの調査報告書では、どの品目が調査対象、すなわち将来的な輸入制限措置の対象となりうるかが、HSコードと呼ばれる関税番号によって示されている。同報告書によれば、鉄鋼(HSコード第72類)、鉄鋼製品(同73類)、アルミニウムおよびその製品(同76類)であり、より詳細にはHSコード6ケタもしくは4ケタで指定されている。

HSコード2ケタ分類ベースで2017年の輸入実績を見てみると、国別の場合には鉄鋼ではカナダ、鉄鋼製品では中国、アルミニウム及びその製品ではカナダが、米国に対する最大の輸出国となっている。EU(欧州連合)の対米輸出額も大きく、鉄鋼と鉄鋼製品では第2位、アルミニウムおよびその製品では第3位の規模を誇る。

商務省の報告書では、上記232条が援用可能との結論の下、米国内産業の救済手段として、鉄鋼・同製品、アルミニウム・同製品それぞれについて、3通りの救済案が勧告されていた。これらの救済案は、関税と輸入量割り当てをどう使うか、対象とする輸出国を絞るかどうか、で異なっている。すなわち、第1案は対象国を絞らずにすべての国からの輸入品に対して関税をかける措置、第2案は一部の国からの輸入品に第1案よりも高い関税を課し、ほかの国には輸入量割り当てを課す措置、第3案はすべての国に輸入量割り当てを課す措置である。

報告書で調査対象とされた品目すべてに上記の関税が課せられた場合、米政府は国内の鉄鋼・アルミ産業の保護に加えて新たに年間90億ドルほどの関税収入を得ることができる。これは、6ケタまたは4ケタによる指定品目に絞った場合の米国の輸入実績(鉄鋼が203億ドル、鉄鋼製品が87億ドル、アルミニウムおよびその製品が172億ドル)に、上記の関税(25%と10%)を乗じて合計した数字だ。

しかし、米国の産業連関表を用いた分析によれば、国内産業保護と追加関税の代償は大きい。

商務省が公表している産業連関表を使うと、新たな関税が課せられた場合の国内財価格への影響を計算できる。上述したように、対象品目はHSコード2ケタ分類の一部(6ケタまたは4ケタで指定)であり、金額ベースで測った割合は鉄鋼で74.0%、鉄鋼製品で23.5%、アルミニウムおよびその製品で75.7%である。したがって、新たな関税によって米国企業が直面する輸入価格の上昇率(輸入価格ショック)は、それぞれ18.5%(25%×74.0%)、約5.9%(25%×23.5%)、約7.6%(10%×75.7%)となる。

産業連関表を使った輸入価格ショックの国内価格波及分析では、385品目について国内価格変化率を得ることができる。その結果を見ると、「鉄鋼」や「アルミニウム製品」の国内価格はもちろんのこと、「パイプライン輸送」の国内価格が2番目に高い上昇率となるなど、幅広い品目で価格上昇が起きるのが確認できる。

追加関税は、極めて広範囲にわたって影響を及ぼすだけでなく、その経済的コストも無視できない大きさである。多くの米国企業にとって、トランプ政権の措置は中間投入コストの上昇となって経営を圧迫する。産業連関表の財別中間投入額に、本稿で得られた財別国内価格上昇率を乗じて得られる「企業負担額」は、米国企業が生み出す付加価値全体の0.5%に達する。

産業連関表を用いた分析には時間的概念がないため、実際にどのようなスピードで付加価値額の0.5%という巨大な「企業負担額」が生じるのか、つまり本措置が景気減速や景気後退などにつながるのかどうか、については議論することができない。とはいえ、米国企業部門が2017年に生み出した付加価値額は15兆ドルに上ることを踏まえると、企業負担は750億ドルとなる。米国内の鉄鋼・アルミ業界の保護と90億ドルの関税収入を得るために行う保護主義的措置は、トランプ政権および米国経済にとって極めて高くつく。

「争いが好き」な大統領で、自由貿易の危機に

トランプ政権の保護主義的動きに対しては、国内外から強い反発が見られる。国内では下院共和党議員100人が連名でトランプ大統領に書簡を送り、見直しを求めるなどの動きに発展している。

国外では、最大の対米鉄鋼輸出国であるカナダが「(いかなる関税も)絶対に受け入れられない」(外相発言)としており、EUは「われわれの利益を守るため、断固とした相応の対抗措置を取る」(ユンケル欧州委員長)との警告を発している。ハーレーダビッドソンのバイクやバーボンウイスキー、リーバイスのジーンズなどに報復関税をかける用意があるという。また報道によれば、WTOの非公式会合(3月5日)で、中国を中心とする11カ国・地域が「多角的貿易システムを傷つける」などと懸念を表明した。

厄介なのはWTOルールも米国を止められない可能性がある点である。それは米国がGATT第21条(安全保障例外)の援用を主張した場合である。同条には、その援用に条件がないこと、援用による措置を決めるのは援用国自身(今回の場合は米国)であること、という2つの特徴があり、他国が口を挟む余地は限られている。1985年に当時のレーガン政権が対ニカラグア貿易を全面禁止した際も、米国は同条の援用を主張して勝利したといわれている。

安全保障に関する国家主権と貿易制限措置のバランスは、各国の誠実さのみが頼りと言っても過言ではない。しかしトランプ政権に誠実さを期待するのは難しい。とりわけ深刻なのは、経済顧問トップで自由貿易主義派のコーンNEC(米国家経済会議)委員長が去ったことだ。トランプ大統領はコーン氏が辞任した同じ日に、こう述べている。「私は争いが好きなんだ」。