そうなれば、米4社には早期に出資スキームから退場してほしいというのが東芝メモリの本音。メモリーユーザーは米4社だけでなく、「ほかのユーザーにとっては煙たい存在だろう。営業に支障が出かねない」(東芝関係者)からだ。

 ただ、そう簡単ではない。米4社は議決権に転換できない優先株で出資する一方、革新機構は「議決権を取得できなければ資金は出せない」(幹部)との姿勢で、単純に入れ替わることはできない。

 「具体的な段取りはまだ決まっていない」(日米韓連合関係者)というが、改めて東芝メモリのバリュエーション(企業価値評価)を行ったうえで、革新機構と政投銀が加わる出資スキームに組み直す案が検討されている。

 東芝メモリの価値は「すでに従来の2兆円から上がっている」(ファンド関係者)との指摘があり、革新機構・政投銀の資金負担が重くなるリスクがある。

 またベイン、東芝、HOYA、革新機構で東芝メモリの議決権比率をどう割り振るかも課題。「各社ともIPOで大化けするかもしれない東芝メモリ株を、できるだけ多く保有しておきたいと考えるはず」(同)であり、一筋縄ではいかない懸念がある。

64層製品では「サムスンの完全勝利」
東芝が手がけるNAND型フラッシュメモリーをめぐる競争では韓国サムスン電子が「2周先を走る」(業界関係者)。差がついた一番の要因はこれまでの投資規模だ。

 17年にはサムスンは半導体部門で260億ドル(約2兆8000億円)規模の投資を実施し、「その半分以上をNANDメモリーに当てた」(同)という。東芝・WD連合による設備投資額の倍を優に超える水準だ。

 NANDメモリーは、記憶素子を積み上げ層にして容量を増やす3次元(3D)製品の供給力が競争ポイントになっている。「サムスンのダッシュが効いている」(東芝関係者)状況で、既存の48層製品、64層製品では「サムスンの完全勝利」(業界関係者)。

 巻き返しに向け東芝メモリは四日市工場(三重県四日市市)に新棟を建設しているほか、岩手県北上市でも工場新設計画を進める。今後の96層以降の3D型NANDメモリーで優位に立つには、迅速かつ柔軟に計画を実行することが重要になる。