「花粉症対策にヨーグルト」といった話を聞くことがあるが、効果のほどはどのくらい分かっているのだろうか。


 3月に入り、スギ花粉が飛び始めた。気象予報会社の予想によると、東日本や西日本では今後3月中・下旬まで、北陸や東北などでは3月中旬から4月中旬までがスギ花粉の飛散量のピークという。

 花粉症をはじめとするアレルギー性鼻炎の対策として根強く行われているのが「食の民間療法」だ。「ヨーグルトが効く」とか「甜茶がよい」など、巷ではさまざまな飲食物が話題になり、試されている。

 医療機関に通って診療を受けるのは面倒。でも何か対策を打っておきたい。となると、より気軽に買って試せる飲食物に手が出るのかもしれない。では、それらに効き目はあるのだろうか。

 こうした疑問を専門医に投げかけてみた。応じてくれたのは、山梨大学で耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座に所属する五十嵐賢(いがらし・さとし)助教だ。県の医療関係者・研究者からなる「山梨環境アレルギー研究会」で継続的に実施している、スギ花粉症患者を対象とした民間療法を含むセルフケアについての実態調査のとりまとめ役も務めている。

 前篇では五十嵐氏に、花粉症に対する食の民間療法の実態や効果についてどのようなことが分かっており、民間療法をどう考えればよいのか聞いてみたい。食材によっては、花粉症の緩和効果が見られたとする研究結果もあるようだ。

 後篇では、食と花粉症をめぐる話の周辺として、漢方の効果やプラセボ(偽薬)効果の位置づけなどについて、さらに話を聞いていきたい。

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標準治療は薬による緩和、舌下免疫療法も

――まず、花粉症の標準的な診療法がどのようなものかお聞きします。

五十嵐賢氏(以下、敬称略)「鼻アレルギー診療ガイドライン」があり、それに沿って診療が行われます。症状を和らげる治療では、患者さんのくしゃみ、鼻水、鼻づまりの重症度を把握したうえで、抗ヒスタミン薬をはじめとする点鼻薬や点眼薬などを処方します。

 また、2014年から舌下免疫療法も実用化されるようになり、現在の「ガイドライン」にも載っています。こちらは根本治療ではあるのですが、人により効く・効かないがあったり、舌に液体を垂らすのを少なくとも毎日3年は続けるのが大変だったりして、だったら手っ取り早く花粉症シーズンのたびに症状を和らげる治療のほうを選ぶという患者さんもいます。

「ヨーグルト」が突出する民間療法の実施率

――標準的な治療がある一方で、ガイドラインには載っていない「飲食」による民間療法も巷では根強く行われていると聞きます。

五十嵐賢(いがらし・さとし)氏。博士(医学)。山梨大学大学院総合研究部医学域臨床医学系耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座助教。山梨大学医員、診療助教を経て、2015年7月より現職。山梨県下の施設に所属する環境アレルギーに関心のある医療関係者・研究者からなる「」では、「スギ花粉症患者のセルフケアについての質問票調査」などの各種研究調査の取りまとめ役を務める。2014年に「山梨医師会優秀賞」を受賞。


五十嵐 ええ。かねてから、山梨大学や山梨環境アレルギー研究会は、県内の耳鼻咽喉科外来を受診したスギ花粉症患者に対して実態調査をしてきました。

 2008年や2010年の報告では「甜茶」、つまりバラ科の中国茶を飲むという人が4割前後いて高い率でした。しかし、今年2月に耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会で発表した2017年実施の調査では、7パーセント未満にまで減っています。

 ほかに、ミントガム、スギ花粉飴・グミ、青汁、ハーブ茶、べにふうき茶、シソ、アロエ、プロポリス、ドクダミ茶、霊芝などといった飲食物についても、いずれも7パーセント未満にとどまっています。

 しかし、そうした中で、ヨーグルトだけは35.1パーセントと、飲食物の中では突出して高い率となりました。2010年の報告の時点でも33パーセントと高い率ではありました。

「花粉症に効く」というイメージをもたらすマスメディアの影響もあるでしょうし、手っ取り早く摂れるという簡便さもあるのでしょう。

甜茶はプラセボとの有意差なし

――かつては民間療法として人気があったという甜茶については、治療効果をめぐってどんなことが分かっているのですか?

甜茶。甘い中国茶を総称したもので、一般的に抗アレルギー作用の期待が持たれているのは、バラ科のテンヨウケンコウシ。


五十嵐 千葉大学で診療講師をされている米倉修二先生たちが2011年に『日本耳鼻咽喉科学会会報(Auris Nasus Larynx)』に報告した、イエダニによるアレルギー性鼻炎に対して甜茶の効果をプラセボと比較して調べた試験では、甜茶群の改善以上の割合が31.9パーセントだったのに対し、プラセボ群では23.8パーセント。改善率については両群に有意差は認めなかったとされています。

 先述の山梨大学と山梨環境アレルギー研究会が県内で実施した2017年の実態調査では、患者さん本人に行っている民間療法の効果があるかも聞いたのですが、甜茶に効果があったという率は20パーセントには届きませんでした。

乳酸菌に効果ありというヒト対象の結果も

――ヨーグルトについては、花粉症に効果があるといえるのでしょうか?

五十嵐 いま言った県内での実態調査では、ヨーグルトに効果があるとする率も19.6パーセントにとどまりました。微妙な数値ですね。「効く人には効く」といったところです。ほかの飲食物についても、効果があるとする率はだいたい同じ程度でした。

――となると、民間療法として人気の高いヨーグルトも、さほど期待はしないほうがよいということになるでしょうか?

五十嵐 ただ、そうとも言い切れません。ヨーグルトの成分として知られる乳酸菌のある特定の株には、アレルギー反応を抑える効果があるとする研究結果も出ているのです。

 2012年に千葉大学の稲嶺絢子先生らが『クリニカル・イミュノロジー』という雑誌に報告した研究結果では、マウスに対して乳酸菌のL.paracasei KW3110という株を口腔内投与するなどしたところ、抗原誘発鼻症状の抑制、血中IgE(免疫グロブリンE)値の低下、頸部リンパ節でのTh2サイトカインの選択的な生産性低下などが見られたといいます。これらはいずれも、アレルギー反応を抑えるほうに改善したことを意味します。

――動物実験では、ある特定の乳酸菌株で効き目が見られたということでしょうか?

五十嵐 ヒトを対象とする研究も行われています。日本医科大学の松根彰志先生が2017年に『アレルギー・免疫』という雑誌に寄稿した「セルフケアの効果検証」という記事を見ると、スギ花粉症患者の方100名に乳酸菌口内錠を12月から4月まで連続投与したところ、「アレルギー日記による花粉飛散ピーク時の症状解析では、プラセボに比較して症状緩和効果が認められた」とあります。また「Th2細胞クローンの花粉飛散によるサイズ増大を抑制していることが認められた」ともしており、これもアレルギー反応を抑制する効果を述べているものです。

 ですので、ヨーグルトの成分となる乳酸菌のタブレットでということにはなりますが、ヒトにおいても花粉症を緩和する効果はあるといわれているのです。

負担にならなければ試してみる手も

――効果がないとは言い切れないようですね。食による花粉症の民間療法について、患者の人たちはどのように考えたらよいのでしょうか?

五十嵐 がん患者さんたちにつけ込む儲け主義の民間療法は論外ですが、花粉症の民間療法であればさほど高価なものはありません。ヨーグルトについては花粉症の改善以外に、お腹の調子がよくなるなどの健康への効果もいわれています。さほど負担にならずに試せるものがあれば、試してもらったらよいのだと思います。

 民間療法は「ガイドライン」に書かれているわけではありませんが、「効くか効かないかはあなた次第」といった側面があるものだと捉えています。

(後篇へつづく)

筆者:漆原 次郎