大阪・梅田のビル街。京阪神の潜在力は高いが、まだその力を十分に発揮できていない(撮影:ヒラオカスタジオ)

世界3大戦略コンサルティングファームの一角・米マッキンゼー・アンド・カンパニーが3月、大阪市に拠点を新設した。1971年の日本進出以来、東京一極で活動してきたが、上陸47年目にして初めて日本の地方都市に拠点を設ける。

日本の産業界においてマッキンゼーは、コンサルという業態を根付かせた存在。日本支社長を務めた大前研一氏の知名度もあって、「コンサルの中のコンサル」のイメージだった。だが近年は、競合に比べコンサルタントの頭数で劣ることもあり、日本での存在感が相対的に後退していた。そのマッキンゼーがなぜ今、大阪に拠点を開くのか?

関西の企業は利益率が低い

マッキンゼーは3月1日、「日本支社関西オフィス」を大阪国際ビルディング(中央区)に開設した。共同代表には、別の外資コンサルを経てコクヨ執行役員を務めた北條元宏氏と、ハーバード公衆衛生大学院出身でヘルスケア産業への知見が豊富なレイモンド・チャン氏(いずれも日本支社パートナー)が就任。コンサルタント数十人規模を目指す。京阪神を中心とする西日本の製造業や、ガス・電気・公共交通機関といったインフラ企業の経営課題を手がけるのが狙いだ。

京阪神は人口と域内GDPでは世界でも上位20位内に入る巨大な都市圏だ。特に製造業については、大阪にパナソニックとシャープ、京都に日本電産、京セラ、村田製作所といったグローバルな電機・電子メーカーが集積している。

だがエリア内の産業界全体でみると、「海外や首都圏の企業と比べると、総じて営業利益率が低い。人材不足やイノベーションの遅れなど、構造的な経営課題が顕著に出てきている」(北條氏)。こういった地域企業の経営課題を、マッキンゼーがグローバルに有する知見で解決していく――というのが関西進出のターゲットだ。

地域に需要があるとして、ではなぜ「今」なのか。そこにはマッキンゼーを取り巻く大きな変化がある。

かつてコンサルは独自に編み出したツールを使い、顧客企業の経営状況を分析したり、戦略の策定を支援したりすることで巨額の報酬を得てきた。

有名なところでいえば、ボストンコンサルティンググループ(ボスコン)が考案した「PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)」。市場成長率とマーケットシェアで「金のなる木」「問題児」など、事業を4分類する分析ツールだ。だがこうしたツールはいまや、一般向けの解説本が多数出るなど陳腐化。また企業の経営課題も複雑化しており、各ファームの看板コンサルタントであってもなかなか解を見出しにくくなっていた。

顧客と「汗をかく」スタイルが主流に

こういった中、近年のコンサルは知識そのものを売るよりも、それをある程度習得した人材を企業に提供することで報酬を得るようになってきた。経営企画室など企業の戦略構築部門にコンサルタントを常駐派遣し、顧客と一緒に「汗をかく」スタイルだ。


マッキンゼーの関西オフィス代表に就任した北條元宏パートナー(撮影:梅谷秀司)

コンサルタントは部門長クラスに寄り添って、トップマネジメントが納得するような資料を作成する。経営トップの参謀役だったかつてのあり方とは大きく異なり、労働集約性の強いサービスだ。業界では「高級文房具」とも揶揄される。

この高級文房具モデルが浸透する中で台頭したのが、ITシステムや会計・財務といった専門分野を持つコンサルファーム。専門性があるため、派遣されたその日から企業の日々の課題に役立つ。従来の3強(マッキンゼー、ボスコン、ベイン・カンパニー)に比べ総じてコンサルタントが多いため、大手企業から複数の案件を受注したり、非上場の中堅企業のような小粒案件をこまめに集めたりして拡大してきた。

顧客企業にとっても、高級文房具なコンサルサービスのほうが「プロ1人いくら」という値付けがしやすい。価値が客観化しにくい経営戦略の知識よりも、コスト負担が明確で、納得感が得られやすいのだ。これが、コンサルの草分けだったマッキンゼーが日本で存在感を失ってきた大きな背景だ。

一方でグローバルに目を向けると、マッキンゼーは近年、いわゆる戦略コンサルタント以外の人材を拡充させていた。データサイエンティストや工業デザイナーといったプロフェショナルや、資材調達、マーケティング、生産といったサプライチェーンの各部門の経験者を積極的に取り込んできたのだ。

軍師から軍隊型へシフト

北條氏は「かつてのマッキンゼーはいわば諸葛孔明モデル。優れた戦略家がいることが重要だった。だが、課題が複雑化した現代では、戦略家だけでは対応しきれない。だから『賢いコンサルタントが何でも解きます』ではなく、産業ごと・機能ごとに世界指折りの専門家を集め、ベストプラクティスを提供するように変わった」と説明する。いわば、軍師型から軍隊型へのシフトだ。

マッキンゼーが大阪に新設する拠点は、会計やITを強みとする競合に比べると、圧倒的に小規模だ。だが実際に企業に対し提供する知見は、こういったグローバル・プロが集中的に有している。地域に常駐するコンサルタントは、顧客企業の戦略に合わせ、グローバルの知見をローカライズして提供する役割を担う。

北條氏は、「高級文房具のモデルは確かにおカネをもらいやすい。だがそのコンサルに関して、企業は部長レベルが管理するコストと理解しがち。経営そのものの変革には繋がらない。マッキンゼーが提供するコンサルはあくまで、トップマネジメントが自ら決断を下し、不確実な未来をひらくための戦略投資だ」と強調する。関西で、名門コンサル会社の逆襲はなるか。