東大出身/外資系証券会社勤務/身長185cm/イケメン

このスペックを見て、あなたは何を感じるだろうか。

え?…ハイスペ男子?

あぁ、世間ではそう持て囃されているみたいね。しかもその人、爽やかで優しくて気が利いて、笑顔がとっても素敵みたい。

そんな完璧な人間、出会ったことある?
いたら、結婚したい?

やめておいたほうが、身のためだわ。

完璧な人間なんてこの世に存在しないのだから。もし存在するとしたら、その人は…“サイコパス”かもしれない。

希は、女友だち・麻也子の紹介で、椎名歩と言う男を紹介された。しかしそれには、麻也子のある思惑があって…?




麻也子の陰謀


「見事カップル成立したら、ベガスで時計を買ってあげるよ」

全ての事の発端は、私の彼氏である保坂が言った、この下衆な発言だった。

保坂はお気に入りの部下である椎名歩と、男女2対2でラスベガスに行こうという話をしていた。

当時、椎名歩には美しい彼女がいたものの「結婚を考えられない」と言っており、気に入る女性を紹介すれば、私は時計を買ってもらえることになっていたのだ。

ー時計が、欲しい。

ただそれだけの理由で、私は椎名歩の彼女探しを手伝うことになった。

椎名歩は自分が恐ろしいほど顔が整っているせいか、求める顔面偏差値が異様に高く、あらゆるタイプの美女を数多紹介してもお眼鏡に叶う女はいなかった。

困ってしまった私は、友だちの中で一番可愛い子を…と最後の切り札として、希を紹介することにした。

希は彼氏がいるから、これまで避けてきたのだ。


女友だち・麻也子から見た、希とは?


希は…とにかく、とにかく可愛い。プライドの高いこの私が、思わず嫉妬してしまうほどに。

くっきり二重の大きな目、スッと鼻筋の通った小さい鼻、そしてぽってりとして口角の上がった唇が、小さな顔に黄金比率のように配置されていて、まるで”お人形さん”のようなのだ。




希と私の出会いは、大学の入学式だ。見た瞬間、「なんて可愛い子がいるんだろう」と目を奪われ、声を掛けたのがきっかけである。

もちろんそう思ったのは私だけでなく、入学式では希の周りに人だかりができるほどだった。しかし本人は人前に出るのが嫌いで、ミスコン出場も固辞し、その美貌を聞きつけた大手アナウンサー事務所からのスカウトも断ったとの噂だった。

希の学歴と顔面偏差値があれば、キー局のアナウンサーにだって難なくなれたはずだったが、本人はいたってマイペースに六本木にあるベンチャー企業で、営業アシスタントとして働いている。昔からガツガツした感じが一切なく、美貌を完全に持て余しているようなタイプなのだ。

小学校から女子校育ちのお嬢様だし、可愛くて性格がいい子はガツガツする必要なんてないのだろう。

顔も、育ちも、ステータスも、性格も。すべて完璧な希を、私は満を持して紹介したというわけだ。

そして案の定、「こんなに素敵な女性を紹介してくれて、どうもありがとう」と椎名歩に初めてお礼を言われたとき、私は早くも勝利を確信した。

あとは、私が希の背中をひと押しするだけだ。

「麻也子〜!」

淡いピンク色のフレアスカートをふわりと揺らし、屈託のない笑顔で手を振りながら、希は恵比寿の『ビストロアム』にやってきた。

パステルカラーが似合う女は、そうそういない。芯から肌の白い女しか、この透明感は醸し出せないのだ。

「この間はありがとう。『かどわき』すっごく美味しかったね!」

キラキラとした希の笑顔に、こちらまでつられて微笑んでしまう。

「こちらこそ、強引に連れ出しちゃってごめんね」

「ううん。お食事会なんて久しく行ってなかったから、久しぶりに楽しかった!」

希に会うたびに、「本当に可愛い子は性格がいい」という俗説を、皮肉屋の私も信じてしまいそうになる。

そして私は赤ワイン、希は炭酸水を飲みながら、この間の食事会での出来事をあーだこーだと語った。私は、この時間が大好きだ。

「“結婚しない?”は驚いたわよねぇ」
「でもあんな発言初めてよ。保坂も驚いていたの」
「奈々とも飲んだことあるんだけど、歩君、全然興味なさそうだった」

さり気なく椎名歩をプッシュしつつ、彼氏がいるのを隠してデートの約束をして後悔しているらしい希を、私は全力でフォローした。

「食事だけでしょう?もう…希はマジメ過ぎるのよ」

彼氏がいたって、他の男と食事に行くくらい、罪に問われるわけない。希はいい子過ぎるのだ。

それに彼氏の“たっくん”は、イケメンでも、経済力があるわけでもなかった。

もし私が希レベルの美貌をもっていたら、絶対もっともっと、上のレベルの男を狙う。平凡な商社マンと付き合っている希のことが、全く理解できなかった。

「たっくんの100倍優良物件じゃない?」

「う〜ん…。そうとも言い切れないよ?たっくんはいい奴だから。歩くんは完璧すぎて…ちょっと怖いなぁ」

―ねぇ、希。なにノンビリしたこと、言ってるの?
―椎名歩は、将来確実に“億”を稼ぐ男になるのよ。
―たっくんなんて、さっさと捨てちゃいなさい。


そして、椎名歩との初デートは?




「希ちゃん、明日は空いてるかな?」
「では明後日は?」
「では来週は?」
「……」
「では土曜日の19時、空けておいて」

『かどわき』での食事会が終わる頃、椎名歩はすかさず食事の約束を取り付けてきた。

有無を言わさず決まった食事の約束―。

彼氏がいる身で2人で会うのはさすがに気が引けて、やっぱり断ろうかなとLINEの画面をぼんやり見ていると、ちょうど椎名歩から連絡が来てすぐに既読になってしまった。

―この間はありがとう。土曜日19時、『鮨 さいとう』の予約を取りました。希ちゃんとまたお会いできるのを楽しみにしています。

店名を聞いた瞬間、ドタキャンするという選択肢は奪われたも同然だった。

―ありがとうございます。楽しみにしています。

彼氏とは家での食事ばかりでマンネリだったため、久しぶりの「お鮨」に心が躍ってしまった自分もいた―。



1週間ぶりに会った椎名歩は、相も変わらず爽やかだった。




「今日は、僕の好きな人を連れてきました」

常連なのだろう、大将と気さくに話す椎名歩の言葉が耳に入り、思わず顔がほころぶ。そして彼は「ここに女性と来たのは初めてなんだよ」と、私を再び笑顔にさせた。

「喜んでもらえて嬉しいよ。希ちゃんと食事ということで、急遽枠を譲ってもらったんだ」

カウンターは8席のみ。予約困難な店のこの1席を、私に捧げてくれたことは素直に嬉しかった。

「こんなに可愛い子とこんなに美味しい鮨を食べられるなんて、僕は幸せものだなぁ」

惜しみなくそそがれる甘い言葉と美味しいお鮨で、私はいとも簡単に幸せな気分になった。

ネタに合わせてシャリの温度を変える、一分の隙もなく計算し尽くされた完璧な鮨、と、完璧な男…。

椎名歩は、いろんなことを話してくれた。小学生の頃ショパンピアノコンクールで優勝したこと、親の仕事の関係で幼少期をニューヨークで過ごしたこと。

それはまるで、出会っていなかった二人の時間を埋めるかのような行為だった。そしてそれと同じくらい、私と私の家族のことを職業から学歴まで、事細かに聞かれた

「うん、やっぱり希ちゃんは完璧だね。僕の理想の女性だよ」

しかしそれは、こちらの台詞だった。話せば話すほど、完璧な彼に魅了されてしまう。

「この間はごめんね。さすがに驚いたよね?…でも僕、本気だから」

彼にまっすぐ見つめられると、正直に言わなきゃ、という思いに駆られた。

「あの…本当にごめんなさい……。私、実はいま彼氏がいて……」

恐る恐る彼の方を見ると、予想だにしない答えが返ってきた。

「え?あぁ、知ってるよ」

それがどうしたの?とでも言うように、椎名歩は顔色を変えることなく、涼しげに微笑んでいた。

「こんな可愛い子に、彼氏がいない訳ないでしょう」
「希ちゃんレベルなら、彼氏が100人いても驚かない」
「彼氏なんてどうだっていいよ。僕の方がいい男だって自信があるからね」

この余裕は、一体何なんだろうか。椎名歩の圧倒的な自信に飲み込まれそうになる。

…ねぇ、たっ君?

あなたがのんびり過ごしている間に、私は“完璧な男”に心を奪われそうです。

▶︎NEXT:3月16日金曜日配信予定
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