*発売中の『プレジデントムック 塾 習い事選び大百科 2018完全保存版』では「花マル笑子塾」主宰の吉本笑子さんに「タイプ別 わが子が伸びる教室の見分け方」を取材している。

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3月は受験や新学期に向けての「塾選び」の時期。30年以上にわたり中学受験指導をしている「花マル笑子塾」主宰の吉本笑子さんは「塾選びを間違えると、お金がムダになるだけでなく、子供の戦意を喪失させる危険性がある」と語る。そうしたリスクを回避できる塾選びのポイントとは――。

■「塾は劇薬」効果は抜群だが、副作用もある

新学年に向けて準備をする、春休み。子供が中学受験をする予定の家庭や、新学年での勉強に遅れないようにしたい家庭では、塾選びが本格化している頃だろう。

「塾選びは志望校選びと同じくらい大事」

そう語るのは、30年以上にわたり中学受験指導をしている「花マル笑子塾」主宰の吉本笑子さんだ。なぜ塾選びは大事なのか。吉本さんの答えは明快だ。

「子供に合わない塾に入れてしまうと高い塾代を払ったにもかかわらず効果が出ないだけでなく、子供に必要以上の負荷をかけてしまうことがあるからです」

▼こんな親が塾費300万を無駄にし子供を潰してしまう

中学受験向けの塾費用は、小学4年〜6年の3年間で月謝や長期休暇の講習、模擬試験などで約300万円が相場だ。コストは決して安くはない。その代わり、子供は学校で習わない特殊算(つるかめ算、旅人算、植木算、通過算、仕事算など)もしっかり覚えてくる。中学受験の勉強をしっかりやれば、公立高校の受験もできるという人もいるくらいに前倒しの学習をするのだ。

「しかし、塾は効果が高いぶん、副作用もある“劇薬”であるということを心してください」

子供を塾に入れる際、親がしっかり肝に銘じるべきは、塾という“クスリ”は子供だけではなく親にも投与されるということだ。

「塾の使命は、お子さんの実力を数値で把握しなければなりません。だから、テストがあり、偏差値があり、順位付けがあり、クラス分けがあります。そのような競争の中では、子供の“やらねば”を引き出せる利点もありますが、自宅勉強のサポーターとなるはずの、親は熱が入り過ぎて、知らず知らずのうちに子供を“数字”で評価するようになっていきます。親も子も受験の競争の中に“巻き込まれる”のはある意味自然なことでしょう。だからこそ、お子さんに合った塾選びが大事なのです」

周りの様子を見て、良かれと思って難関中学を目指す塾に行かせたものの、その塾の学習方針がまったく合わず、子供は前向きになれない。親を落胆させたくない一心で子供も頑張るが、長続きはしない。成績が低迷すれば、親は子供を叱り、失望する。すると子供はますます自信を失って結果が出なくなる。この悪循環に陥ると、どうなるのか。それは、「戦意喪失」という形で現れる、と吉本さんは語る。

「仮に、何とか志望校に合格したとしても、中学校に通えなくなるケースが少なくないのです。不登校者数はいま非常に多いです(※)。(劇薬である)塾や受験の副作用として、子供を勉強嫌いにしてしまうことがあります。ぬぐい難い劣等感を与え、何かに挑戦する意欲を失わせてしまうのです。親としてはわが子のためにと安くない塾代を支払っているのに、とても悲しいことです。こうした副作用が出ないようにするためにも、子供に合っていて、学力を伸ばすことができる塾選びをしないといけません」

※2017(平成28)年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(速報値)では、中学校は10万3247人(前年度9万8408人)、在籍者数に占める割合は3.0%(前年度2.8%)。このうち中高一貫校に限ったデータはないが、不登校者を支援するNPO法人高卒支援会の杉浦孝宣理事長は「私立の有名進学校からの相談も多い」とコメントしている。

■子供の性格(タイプ)によって選ぶべき塾は全く異なる

塾選びは、何を基準にすればいいのだろう。

進学実績? 利便性? 自宅からの距離? 塾代? こうした条件はもちろん大切だが、吉本さんが考慮に加えてほしいと話すのが、「子供の性格(タイプ)」である。

「タイプの違いによって、塾の長所が短所にもなるし逆に短所が長所にも変わるのです」

吉本さんはれまでの指導経験から、子供は大きく3タイプに分けることができるという。

(1)もっとも子供らしく元気な『わんぱくタイプ』
(2)親の言いつけをよく守り、努力家の『しっかりタイプ』
(3)優しくて競争が苦手な『おっとりタイプ』

▼自分の子供のタイプをしっかり見極めよう

【1:わんぱくタイプ】

たとえば「わんぱくタイプ」は、面倒くさがり屋で地道な計算や漢字練習が大嫌いな傾向があるという。テストの点が悪くても、先生から叱られてもあまり気にせず、本人は楽天的に「なんとかなる」と思っている。親がもっとも苦労するタイプで、男の子に多いという。

「この子は、自分は勉強が得意だと思うとスイッチが入ります。そのために親がきちんと塾のカリキュラムを把握し、事前に体験させておくといい。『知っている!』『自分は授業の内容がよくわかる』という感覚を持つことが大事なのです。それには、カリキュラムがしっかりしていて、事前にやることがわかる塾がいいでしょう」

【2:しっかりタイプ】

「しっかりタイプ」は、精神的に大人で、自分で決めた勉強をコツコツと地道に重ねていけるので一般的に成績がいい。親は安心して見ていられるタイプで、女の子に多いという。

「人からどう見られるかという社会的評価をとても気にするので、親や先生の言いつけをよく守ります。そして上昇志向が強く、負けず嫌いなので、競争でもっとも伸びます。ただし、本人の実力より学力の高い子が多くいる塾に入れると、結果が出ず、つらい思いをさせることになります。本人が上位の成績を取れる塾に入れることが大切です」

【3:おっとりタイプ】

「おっとりタイプ」は、人の気持ちに敏感で競争が苦手。勉強はまじめにやるが、競争の場面で力を発揮できない子が多い。焦ると思考停止になってしまうタイプだという。

「この子は、自分の好きなことが見つかると、ようやく伸びる遅咲きタイプ。中学受験の段階では競争に向かう強さがまだ育っていません。だから、競争をあおるような大手の進学塾ではつぶれてしまいます。この子には、一人ひとりの子を丁寧に見てくれるアットホームな小規模塾が向いています。そこで安心して自分を出せるようになると、伸びていきます」

■子供にすべきは「頑張れ」と発破をかけることではない

子供に合う塾を選ぶことができたら、親には「子供が塾で頑張れるように応援するサポーターになってほしい」と吉本さん。それは単に「頑張れ」と発破をかけることではなく、自宅を子供がエネルギーをチャージできる場所にするということだ。

「生活リズムを整えたり、栄養いっぱいの食事をつくってあげたり、子供の話を聞いて、一緒に喜んだり、悲しんだり。勉強はある程度、塾に任せて、親にしかできない役割で子供を支えてあげてください」

勉強で戦える心と体をつくってあげる気概が、親には必要なのだ。

さらに、このようなサポートをしていても、成績があまり伸びない場合には「そもそも塾を活かすための土台が育っていない可能性も考慮したほうがいい」とアドバイスする。

▼塾で伸びる子の親が必ずしていること

その土台の力とは、まず「読み取る力」だという。

「読み取る力とは、すべての教科に通じる国語力であり、語彙(ごい)力です。ただ言葉を知っているという意味ではなく、『海』という言葉を読んだ時に、潮風のべたつく感触や塩辛い水の味が浮かぶのか。『わびしい』という言葉を読んだ時、自身の体験を通じてありありとした感情を思い浮かべることができるのか。こうした豊かな経験に基づいた語彙力がないと、いくら解き方を習ったところで本質的な意味を理解できません。本の読み聞かせやさまざまな体験に連れ出す、といったことが有効です」

そして、もう一つは「学習スタイル」だ。

「自ら興味を持ったことを調べて、実際にやってみる(挑戦してみる)。失敗しても、そこから学び、再びやってみる。そうして何かができるようになっていく。このような生き方ともいえる学習スタイルを獲得することが大切です。そのためには、親は子供が興味を持ったことを応援して、調べてあげたり、失敗しても励ましたりして、そこから学ぶ術を教えてないといけません。これができていれば、たとえ受験で失敗しても、自らを成長させる力となります。どんな体験もプラスにすることこそ、親の力の見せ所。これは塾では教えられないことなのです」

おいしい食事を与え、会話を楽しみ、子供の興味を持ったことを一緒にやってみる。塾通いが始まってからも、親がこうしたことを心がけることが、受験という戦いを生き抜く糧となるのだろう。

(プレジデントFamily編集部 森下 和海)