成功するユーチューバーの条件は……(写真:Eric Gaillard /REUTERS)

YouTubeで一気に大ブレイクすることは、一夜にして成功することとは違う。『YouTube革命 メディアを変える挑戦者たち』を上梓したYouTubeの副社長ロバート・キンセル(チーフ・ビジネス・オフィサー)が目撃した、成功するユーチューバーの条件とは?

一挙にブレイクしたと思われがちだが、実は…

きら星のごとく現れたユーチューバーたちは、YouTubeへ動画投稿を始めた途端に大ウケして一挙にブレイクした、と思われがちだ。しかし、チャンネル登録者数100万超えの有名ユーチューバーのほとんどは、長い間見向きもされずにもがき続けた挙げ句、ようやく成功をつかんだ、というケースが多い。YouTube最大の成功者のひとりである韓国人アーティストPSY(サイ)でさえ、ミュージックビデオをアップロードしてから、『江南スタイル』で一世を風靡するまで、実に2年もかかっている。


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ここでは、アメリカを代表するユーチューバー・アダンド(YouTube名はsWooZie)を例にとって、成功するユーチューバーの条件を、箇条書きにして突きつめてみたい。

アダンドは、ホワイトハウスの依頼で、一般教書演説後のオバマ前大統領へインタビューを2016年に敢行。人種差別的な警察の暴力、学校での銃乱射事件についての煽情的な記事、ネットにおける過激化、という難題について、よく考え抜かれた鋭い質問を投げかけ、いまやアメリカ社会でも一目置かれる存在である。

そんな彼だが、もとはオークランドのハードロック・ホテルでライフガードとして働く、その界隈で名の知れたゲーマーに過ぎなかった。得意のアニメ制作技術も入れつつ、創設まもないYouTubeへゲームの投稿を2006年から始めたはいいものの、当初はいまいち視聴回数が伸び悩んでいた。

しかし2010年に、ベッドルームで化粧をしている様子を公開するだけで一日300ドル稼ぐ、という超人気の美容系ユーチューバーから、次のようなアドバイスを受けて開眼する(ちなみに、行く先々で女王さまのように扱われ、朝からステーキを食べるという彼女のセレブぶりを目の当たりにして、自分も会計を気にせずにお腹いっぱいに食べたい、とやる気に火がついたそうだ)。

・自分の得意な人気コンテンツを毎回入れること(得意のアニメを入れた回が人気なら、毎回アニメを随所に入れるべき)

・舞台裏を映すのではなく、ユーチューバー本人が画面に登場し続けること

・人の興味を惹くタイトルをつけること

・サムネイル(見出し画像)を工夫すること

さらに、アダンドは自分なりに研究を重ねる。当時YouTubeでは、人間関係や仕事関係について告白することが流行っていた。

秘密を聞いているような気がして好奇心を刺激される

アダンドは、自分が過去にディズニーワールドで働いていたことを思い出す。ディズニーブランドは誰からも好かれているし、そこで仕事をしていたと言えば、みんなが興味を持って見てくれるのではないか。ググッたところ、世界中のディズニー従業員はおよそ6万人。なので視聴回数6万人を目標に、徹夜でビデオを作成。朝の6時に『ディズニー従業員の告白』をアップロードした。


本書の著者であるロバート・キンセル氏 ©Barry J Holmes

その後、力尽きて寝てしまい、正午に起きたときには、視聴回数はなんと10万回に達していた。彼のツイッターには、乗っ取りに遭ったのではないか、と思うくらいツイートが殺到。「いったい、何が起こってるんだ」という状態だった。これはすなわち、以下のような理由からだ。

・何かをさらけ出すと、視聴者は誰かの大切な秘密を聞いているような気がして、好奇心を刺激される

晴れて人気ユーチューバーの仲間入りを果たしたアダンドは、さらに経験を積み、成功するための条件を積み上げてゆく。

・動画は長くても2分。見てくれている人の時間へのリスペクトを忘れずに

・最初の15秒で、何か面白いことを言ったり質問する(ネットでは、注意力が長く続かず、15秒で別の動画をクリックされてしまう。もし広告で最初の5秒を取られてしまう場合は、10秒で視聴者の心を掴まなくてはならない)

・見た人が、他の人にシェアして話したくなるような内容をアップする

「見た人が、他の人にシェアして話したくなるような内容をアップする」のような感覚は、格闘ゲーム用語のヨミ(読み)に通じるという。日本語由来となるヨミの意味とは、「敵の心を知る」ということ。見る人は、自分は何をシェアしたいか気づいてない。そこを先制して、突くのが肝心なのだ。

「あなたがシェアしたいものは、これですよね」と、差し出してあげる。案の定、シェアされる。その友人がまたシェアをする。シェア、シェア、シェア、と続き、ドカンと大ブレイクするのだ。ネット用語ではバイラル(ウイルス性の)と呼ばれるが、さながら猛威をふるって広がるインフルエンザのようなビデオをつくる必要があるのだ。

かつてアダンドがハードロック・ホテルで働いていたとき、その場所柄と仕事柄もあって、大物有名人をたびたび目撃したという。気軽にサインをしたり写真撮影に応じるスターがいる一方で、駆けつけた子たちの顔を見ようともしない「ファンは嫌い」というスターもいた。「ふざけてるのか? あんたがスターとして今ここにいられるのは、その子たちがいてくれるからだろう?」と憤慨したアダンドは、そのとき心に誓ったという。「自分がいつかそんな立場になったら、あんたみたいな態度は取らないからな」と。

実際、有名になったアダンドは、「ファンは自分のボスである」と胸に刻み、すべてのメール、ダイレクトメッセージ、コメントに返信し続けている。そしてこれは、自分のファンコミュニティの運営にもかかわる、とても重要なことなのだ。

“見えないクールさ”をキープする

“見えないクールさ”とは、意外性のある新しい内容のこと。これがなくなると、自己模倣に陥って飽きられてしまい、たとえビッグなユーチューバーでも人気がずるずる下がる。その怖れから、ユーチューバーは視聴者の一歩先をゆく内容を、まるで止まらぬランニングマシンを走るように公開しつづけなくてはならない。そんな苦労を、アメリカのあるトップユーチューバーもこう告白する。


「ユーチューバーは本当に自分だけが頼りだ。台本執筆も、撮影も編集も配信も、自分ひとりでしている。週に何時間働くか聞かれたら、『僕が週に何時間起きてるかって?』と聞き返すだろう」

「世の中にコンテンツは山のようにあるし、才能あるクリエイターも山ほどいる。2週間も休みを取ろうとすれば、ファンをごっそりと持っていかれる」

そういえば、日本のトップユーチューバー・ヒカキンも、毎日更新を欠かさず、ネタ探しから撮影に編集にと、睡眠時間を削って励んでいる。彼らユーチューバーの成功は、労せずに得たものだ、という評論は間違っている。

“YouTube先進国アメリカ”において、ユーチューバーたちはメディア業界の仕組みを変え、音楽、出版、広告、政治、ビジネス、ジャーナリズムといったジャンルで活躍している。だがその裏には、地道でコツコツとした壮絶な努力が隠されているのだ。