平昌オリンピック直前から韓国と北朝鮮の間には融和ムードが漂いはじめ、アメリカにおいてすらも北朝鮮問題は外交交渉による解決を期待する雰囲気が生じている。アメリカ政府の対北朝鮮政策は平昌オリンピックによって“中だるみ状態”に陥っているかに見えなくもない。

 しかし、「北朝鮮との外交交渉にだけは一切期待を持ってはならない」「場合によっては北朝鮮に対する軍事攻撃を敢行しなければならない」と考えるアメリカ国防当局そしてホワイトハウスの対北朝鮮強硬派は、政府の政策がぶれていないことを再確認している。

 トランプ政権はティラーソン国務長官率いる外交交渉チームによる外交的解決を最優先させている。しかしながら、外交によって北朝鮮情勢を好転させる(アメリカ側にとって)見込みは低く、楽観的に構えても北朝鮮側に何らかの妥協をしなければならなくなると考えざるをえない。したがって、楽観的な望みを差し引くならば、外交的解決を諦める軍事的解決に切り替える時点、すなわち「レッドライン」を確定しておく必要がある。

 トランプ政権首脳たちがかねてよりしばしば口にしているように、レッドラインは、北朝鮮がアメリカ本土を直接攻撃することが可能な核弾頭搭載長距離弾道ミサイルを完成させ、確実に増産する技術力を手にした時点(理想的にはその直前)であり、その政策は変わっていない。

グアムで出撃態勢を整えている米空軍B-2ステルス爆撃機(写真:米空軍)


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中途半端な攻撃は日韓に甚大な損害をもたらす

 ただし、アメリカ政府がこのようにレッドラインを明言しているからといって、巷で囁かれているように平昌オリンピック・パラリンピック後にそう長い時間をおかずに「ブラディー・ノーズ・オプション」と呼ばれる限定的軍事攻撃が実施される可能性は極めて低い。

 というのは、北朝鮮に限定的な軍事攻撃を実施した場合、もしくは全面的な軍事攻撃を実施したとしても、北朝鮮による韓国や日本などに対する報復攻撃が確実に実施されるからである。

 対北強硬派の人々がこれまで北朝鮮に対する軍事攻撃をためらってきた最大の理由は、北朝鮮による報復攻撃により、米軍側に甚大な損害が生ずることと、韓国や日本の市民にも深刻な犠牲が強いられることが避けられないからである。

 平昌オリンピック開催中にも、ハワイでアメリカ陸軍参謀総長やアメリカ特殊作戦群司令官なども参加して、北朝鮮侵攻作戦の図上演習が実施された。その演習の結果によると、開戦初日に北朝鮮軍の反撃を受けて米軍将兵1万名が死傷し、民間人(南北国境に近い韓国内)の死傷者数は数万に達してしまった。開戦初日の1日だけでこのような有様であるから、戦闘が長引けば、かねてより推計されているように韓国内では毎日2万名の犠牲者が生じ続けることになると演習参加者たちは判断したようだ。

 報復攻撃によるアメリカ軍、韓国国民、日本国民の損害を少しでも軽減するためには、中途半端な「ブラディー・ノーズ・オプション」を発動してはならず、徹底的に北朝鮮軍に打撃を加える短期激烈戦争型の軍事攻撃を発動しなければならないのだ。

軍事攻撃は思いとどまるべきという慎重論も

 レッドライン(すなわち北朝鮮がICBMの配備を確実にしたとき)が現実のものとなるのは数カ月に迫っているという、米軍情報機関やCIAなどの情報分析結果もある。したがって、トランプ政権首脳によるレッドラインの宣言が「こけおどし」でないのならば、数カ月後には対北朝鮮軍事攻撃が現実のものとなる

 しかしながら、上記のようにアメリカ軍やシンクタンクなどが繰り返している図上演習やシミュレーションなどによると、米軍側の損害が考えられないほど甚大となるだけでなく、韓国や日本における韓国国民、日本国民それにアメリカ国民を含む外国人市民などの非戦闘員の死傷者数も、極小の見積もりでも数万名に達し、極大の見積もり(北朝鮮軍が核兵器や化学兵器を使用した場合)によると100万名を超してしまう。そのため、たとえ北朝鮮の核武装を限定的に容認せざるをえなくなったとしても軍事攻撃は思いとどまるべきである、という慎重論も少なくはない。

 それに対して、対北強硬論者たちは次のような理由で「腹をくくる」べきであるとの主張を崩していない。つまり、民間人非戦闘員の死者が数十万単位にのぼるというのは誇張しすぎであり、たとえ数万名の犠牲者が生じたとしても、北朝鮮が核弾道ミサイル製造技術を確実に手にしてしまった場合には「ならず者国家」やテロリスト集団へ核兵器が拡散してしまい、その結果、それこそ世界各地で数十万・数百万の犠牲者が生じることになりかねない。したがって、北朝鮮による報復攻撃による犠牲には堪え忍び、断固として北朝鮮の核開発能力、ミサイル開発能力をこの世から葬り去ってしまわなければならない、というわけだ。

真剣な議論が求められている日本

 万一、アメリカが北朝鮮に対して軍事オプションを発動した場合には、日本は北朝鮮による報復を受ける可能性が否定できない。そうである以上、日本政府はもとより日本国民も、「日本国民の間に生ずる犠牲に耐えても、北朝鮮の核脅威を抹殺するためのアメリカによる対北朝鮮軍事攻撃に協力する」というオプションを選択するのか、「日本国民の犠牲を避けるため、アメリカによる対北朝鮮軍事攻撃に断固として反対し、その代わりに核保有国北朝鮮と対峙し続けてゆく」というオプションを選択するのか、ただちに真剣に議論を開始しなければなるまい。

 アメリカの設定したレッドラインは、もはや目前に迫っているのだ。

筆者:北村 淳