雪を吸い込んで線路外に吹き飛ばす除雪車「MCR」(記者撮影)

今年1月、豪雪のため新潟県三条市にて身動きが取れなくなったJR信越線の電車。運転再開まで約15時間半もかかった事実がクローズアップされたが、実は電車の救出に鉄道専用の除雪車が一役買っていた。道路と異なり、普段あまり目にすることのない鉄道の除雪はどのように行われるのか。

2月下旬、上越新幹線の越後湯沢駅から在来線で一駅のJR上越線「岩原(いわっぱら)スキー場前」駅へ。その名のとおり、駅の目と鼻の先にはゲレンデが広がる。石打丸山、湯沢中里など多数のスキー場がある豪雪地帯だけあって、線路にも容赦なく雪が積もる。

この地域の線路の除雪を担うのが、JR東日本(東日本旅客鉄道)のパートナー会社である東鉄工業だ。線路のメンテナンスや駅舎建設、ホームドアの設置など、JR東日本管内の鉄道工事が主な仕事だ。ここ湯沢町のほか、十日町市や長岡市、三条市あたりまでの線路の除雪を一手に担う。

除雪車は1〜2駅ごとに配備


管轄エリアに配備されている除雪車は2種類ある。青色の「ENR」と、黄緑色の「MCR」で、どちらも「雪を線路脇に押しのける」「雪を吸い込んで線路外に吹き飛ばす」という役割を持つ。大柄で馬力のあるENRが雪を脇に寄せ、小回りの利くMCRでどかした雪を飛ばす流れが多い。管轄エリア全体でENRが10台、MCRが19台配備されているが、湯沢周辺を筆頭に豪雪地帯には1〜2駅ごとに除雪車が配備されている。

除雪車には鉄道車両として扱われるタイプと、保守作業機械として扱われるタイプ(モーターカー)があり、近年は後者が主流。ENRやMCRも一見機関車のように見えるが、鉄道車両ではなくモーターカーだ。したがって、走行時にはほかの列車が進入しないよう線路閉鎖の手続きがとられる。

昼過ぎ、岩原スキー場前駅にはすでにMCRが待機していた。車内に乗り込むやいなや、エンジンのうなり声とともにゆっくりと走り出した。小走りくらいの速さまで達すると、運転席正面でポンプがガタガタと震え始め、勢いよく雪を吐き出し始めた。


走行中のMCR。車体前方のローラーで線路上の雪を取り込み、真上のポンプから線路外へと雪を吐き出す(写真:東鉄工業)


勢いよく噴射された雪は、放物線を描いて線路外へと飛んでいく(記者撮影)

MCRは運転手、除雪機の操縦手、そして周囲の見張りや外部との連絡役の3人体制が基本だ。車体正面には回転するローラーが付いており、車内のモニターからぐるぐると回るローラーが雪を巻き込んでいく様子が見て取れる。

これで線路上に積もった雪をかかえ込み、上部に装着したポンプで線路外へと吐き出す。雪は2〜3メートル先まで飛んでいくが、線路沿いに点在する民家や道路標識に衝突しないよう、ポンプの向きを変えたり出力を調節したりしながら進んでいく。まさに職人技だ。

除雪だけなら、雪を飛ばさず脇に寄せるだけでよいのでは、と思ったが、そういうわけにもいかないようだ。「押しのけた雪が線路の両脇でだんだん壁状に積まれていき、雪が車両を取り囲む形になる」(新潟支店越後湯沢出張所の山田隆一所長)ためだ。そのため、時おり線路上の雪だけでなく、線路脇に積もった雪をローラーの左右を囲むアタッチメントで剥ぎ取っていく。

走る列車が雪を飛ばすことも

除雪車は事前にJR東日本に提出した運行スケジュールに沿って走る。岩原スキー場前を通過する列車の本数は多くないが、隣の越後湯沢駅からは運行本数が増えてダイヤが混雑し、除雪車が入り込む時間的余裕がなくなる。そのため、基本的に日中の除雪は行わず、終電から始発の間に最大2往復ほど一気に除雪を行う。真夜中でなおかつ吹雪での除雪は、とりわけ緊張する場面だという。

電車が頻繁に走っていれば、走る車両が線路に積もった雪を吹き飛ばしてくれる。だが2015年に沿線を走っていた特急「はくたか」が廃止され、猛スピードで雪を飛ばす車両がなくなった結果、除雪車の役割はますます重要になった。

「雪が降る前に準備をし、降ってきた雪をいかに迎えるかが大切。雪が降ってから対応していては間に合わない」(山田所長)。作業所には毎日天気予報が送られ、つねに降雪情報に気を配る。緊急時には日中でもENRを一気に走らせ、列車が立ち往生しない程度に雪を線路脇に寄せるという。


越後湯沢駅前のENR。前方の排雪板で雪を線路脇に押し進める(記者撮影)

それでも対応できず、本格的な除雪が必要だと判断して初めて、運行ダイヤを変更して、「列車を間引く」という選択肢が浮上する。そこでも、1次、2次、3次と電車を間引く段階が定められているそうだ。

自然現象の予測は難しい。ここまで万全の態勢を敷いていても、昨年12月上旬から今年2月中旬までで、管轄エリア内では雪の影響で列車が24回も停車した。加えて、今年は降雪が少ないとみられていた地域が豪雪に見舞われた。信越線が立ち往生した場所もその一つで、一帯はこれまで降雪があまり多くなく、配備している除雪車の台数も少なかった。

除雪車はすぐには出動できない


除雪車の出動ダイヤ。塩沢―越後湯沢は頻繁に列車が通過するため、除雪車が入り込む余地がない(記者撮影)

除雪車の準備ができても、すぐさま出動することはできない。前述のとおり、除雪車の運行スケジュールは普通列車や貨物列車などの運行スケジュールを加味して決められており、いきなり線路閉鎖をすることは容易ではないのだ。

また現場の安全確認などにも時間を要するため、立ち往生してから正式に出動要請がかかるまではタイムラグが発生する。加えて通常時速5kmほどのスピードが、大雪を押しのけるには時速2km程度にまで落ちるため、現場に急行するにも時間がかかってしまう。

降り積もった雪はゴールデンウィークごろまで残っているという。厳しい寒さが続く中、定時運行を懸けた自然との戦いはしばらく続きそうだ。