海上自衛隊のヘリコプター搭載型護衛艦(DDH)「いずも」(筆者撮影)

海上自衛隊の任務が近年、ぐっと増えている。北朝鮮に対する弾道ミサイル防衛(BMD)の強化や、ソマリア沖・アデン湾での海賊対処活動、さらには、中国の海洋進出を意識した南シナ海での活動の増加などだ。特に東南アジア諸国は、アジアの勢力バランスを考え、日本が南シナ海で中国へのカウンターバランス(対抗勢力)として活動することを期待する向きが強い。
また、自衛隊のソマリア海賊対処活動の拠点となっているアフリカ東部のジブチにある施設をめぐっては、筆者が東京特派員を務める英国軍事週刊誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』では当初から、「自衛隊の事実上の唯一の海外基地」とみなしている。自衛隊は隊員約500人とP3C哨戒機2機をジブチに派遣している。中国もジブチの軍事拠点化を進めている。
海上自衛隊の将来の活動はどうなるのか。国際軍事専門誌『ジェーンズ・ネイビー・インターナショナル』のシンガポール在住の海軍担当専門記者、リズワン・ラフマット氏とともに、海上自衛隊トップの村川豊海上幕僚長(海将)に話を聞いた。村川海上幕僚長は、日本と価値観を共有するパートナー諸国とともに、重要海域の安定に注力する考えを明らかにした。インタビューは2月14日に防衛省で実施した。

艦船や航空機は極めて長い期間で使うもの

――アジアの安全保障環境をめぐり、過去5年間をみても著しい変化が起きている。中国も北朝鮮も一層攻勢を強めている。海上自衛隊として、どのように対処していくのか。今後の計画についてまず伺いたい。

まず情勢の見通しを話したい。私は1981年に海上自衛隊に入隊した。当時は冷戦の真っただ中だった。おそらく海上自衛隊の諸先輩はその頃、現在の北朝鮮の弾道ミサイル発射や核実験、また東シナ海や南シナ海における中国海軍の進出等を予測していた人はほとんどいなかったと思う。しかし、艦船や航空機は極めて長い間、たとえば、艦船は30年、40年という長期間で使うものである。

40年後の世界を今、正確に予測するのは極めて難しい。このため、従前続けてきたこと、たとえば、周辺海域における警戒監視や、自然災害などに対処する能力は引き続き保有していかなくてはならない。もちろん大前提となるのは有事への備えだ。

それに加えて、近年では新たなドメイン(領域)での対処が求められている。たとえば、サイバーや電磁スペクトラムなど、新しい要素が加わってきている。つまり、限られた資源の中で、これまで必要とされたことを続けつつ、新しい要素を取り入れていかねばならないということが大きな課題の1つである。

――電磁スペクトラムとは、EMPと呼ばれる電磁パルスのことですね。他の課題として何があるか。

もう1つは、日本においては少子化が進んでいること。それゆえ、任務が増大するからといって海上自衛隊の人員を大きく増やすということは極めて難しい。任務は確実に増えているが、限られた人員でどう対応していけるかが1つの課題となっている。

――次に日本の近隣諸国とのパートナーシップについて伺いたい。日本は特に東南アジア諸国とのパートナーシップを構築することに熱心だ。海上自衛隊はフィリピンに練習機TC-90を無償譲渡した。さらに、『ジェーンズ』の取材によると、マレーシアは日本にP-3C哨戒機の無償提供を要請した。海上自衛隊は、先ほど述べられたような限られたリソース(資源)の中で、こうした要請にいかに対処していくのか。

東南アジアのパートナー国への日本の装備品の供与等については、今さまざまな検討がなされている。まだマレーシアにMPA(海上哨戒機)を供与するといったような具体的な話はないと理解している。ただ、マレーシアを含め、諸外国からそのような要望があることは聞いている。それは日本国政府として、検討されていくことと思っている。

――それは東南アジア諸国への寄付や無償譲渡という形になるのか。

どういう形になるかを含め、今後検討されることとなる。P-3Cについて言えば、日本は自国の安全保障のために今も使っている。自国の防衛に影響を与えずに、装備品の供与をどのように実施していくかについては、他省庁や民間企業を含め国家的に考える必要がある。

ただ、すでに行っていることとして、フィリピンに対し、海上自衛隊のTC-90を今年3月までに5機渡すことになっている。すでに2機を供与したが、残り3機を3月中に供与する予定だ。供与した2機のTC-90は、フィリピン海軍がすでに使用している。フィリピン海軍のパイロットの教育も海上自衛隊が徳島の教育航空群で行っている。

なぜジブチでの活動が重要なのか

――アフリカでの海上自衛隊の活動について伺いたい。ジブチでどのような活動をしているのか。なぜジブチでの活動が重要なのか。

すでに8年を超えてソマリアの海賊対処のために、海上自衛隊から護衛艦とP-3Cを派遣し続けている。ジブチはその拠点として活用されている。海賊については、日本だけではなく、国際的な取り組みによって数は確実に減少してきた。しかし、周辺諸国の貧困など基本的な問題がまったく解決されておらず、海賊行為がなくなるとの見通しは立っていない。当面、海上自衛隊は引き続き、艦艇と航空機を派遣する予定にしている。この意味でも、拠点としてのジブチは今後とも重要だと考えている。


海上自衛隊トップの村川豊海上幕僚長(写真中央)。後ろに見えるのは、日露戦争で連合艦隊司令長官として指揮を執った東郷平八郎の写真。2月14日防衛省で撮影

――海賊対処活動についていえば、もう1つの海賊がはびこっている地域は南シナ海とスールー海だ。海上自衛隊はソマリア沖・アデン湾で海賊対処活動を実施しているが、これらの海域でも活動を行う計画はあるか。

日本にとって、東シナ海から南シナ海、インド洋、ペルシャ湾に至るシーレーン(海上交通路)は極めて大事だ。その中で、スールー海などでの海賊も1つの大きな関心事だと思っている。たとえば、フィリピンに供与したTC-90が、周辺海域の監視などにも使用されれば、広い意味で海賊対処にもつながるのではないかと思っている。

この海域においては、周辺国であるフィリピン、インドネシア、マレーシアが多国間での海賊対処の枠組みを設け、効果が出てきていると聞いている。そうした取り組みに対して、海上自衛隊が協力できることがあれば協力したいとの姿勢で臨んできた。

いずれにしても南シナ海等を安全な海域にしておくということは、日本にとっても重要な課題だと思っている。

一国だけで安全保障をなしえる時代は終わった

――国際社会は、南シナ海に関する中国の主張に対し、挑み始めている。たとえば、イギリス海軍は最近、南シナ海を航行すると発表したばかりだ。オーストラリア海軍も「航行の自由作戦」(FONOPS)を実施した。アメリカ海軍はすでに何度も実施している。日本も東南アジア諸国への支援を表明するために、同じような航行を行うことを考えているか。

アメリカ海軍が実施しているFONOPSに日本が加わって実施することはない。ただ、日本政府は、「自由で開かれたインド太平洋」を大きな目標として掲げている。昨年5月から、護衛艦「いずも」と護衛艦「さざなみ」が約3カ月間、南シナ海からインド洋を航行し、周辺諸国と訓練や意見交換を実施し、より安定した望ましい安全保障環境をつくるために行動してきた。

この過程で、アメリカ海軍やオーストラリア海軍、インド海軍、さらには周辺のASEAN諸国の海軍と共同訓練を積極的に実施した。こうした活動については今後とも計画していきたいと考えている。

――海上自衛隊は将来、護衛艦54隻、潜水艦22隻の体制に増強する計画を立てている。どのような艦艇を増やそうとしているのか。たとえば、イージス艦を増やそうとしているのか。

イージス艦については現在6隻を保有し、さらに2隻を建造中だ。このため、将来は合計8隻のイージス艦を持つことになる。今の47隻から54隻まで護衛艦を増やしていく計画だが、そのために平成30年度予算では、比較的コンパクトで多様な任務に対応できる3900トン型の新型護衛艦2隻の予算要求をしている。

併せて、現有の艦艇を延命させるための作業を行っている。これらを実施することによって、47隻から54隻まで隻数を増やすことが可能となる。

艦艇の種類から見れば、イージス艦、「いずも」や「ひゅうが」といったDDH(ヘリコプター搭載型護衛艦)、従来の護衛艦、そして、平成30年度から予算要求する新型護衛艦を目的に応じて使用する体制となる。


護衛艦「いずも」には格納庫と飛行甲板を結ぶ航空機用昇降機(エレベーター)が2基設置されている(筆者撮影)

――DDHを増やす予定はあるか。

DDHは、いずも型と、少し小さいひゅうが型の2つのタイプを2隻ずつ保有している。現時点で、これらの4隻を増やす計画はない。また、いずれも新しい艦艇なので、当面は更新の予定もない。

――海上自衛隊の将来はどうなるのか、改めて伺いたい。

海上自衛隊は従来日米同盟の中で、アメリカ海軍と緊密な関係を保ち、この地域の安定に寄与してきた。今後ともそれは変わることはない。

加えて、もはや一国だけで安全保障をなしえる時代は終わったと思っている。価値観を共有するパートナー諸国と手を携え、私たちが重要と考える海域の安定を目指していきたい。