ソロテックスは帝人の戦略素材。アパレル業界向けに昨秋開催した繊維展示会では、同素材を紹介するコーナーが会場の大半を占めた(記者撮影)

有名アウトドアブランドのザ・ノース・フェイスが昨年秋に発売した「ドーローライトパンツ」は、ストレッチの利いたスポーティなパンツだ。シルエットがきれいに見えるよう細身に作られているが、光沢感を抑えた柔らかい生地が軽やかに伸びて動きやすい。登山などのアウトドア用途のみならず、街着として買い求める若者も多く、品切れする店舗が続出するほどのヒット商品になった。

このパンツには「SOLOTEX(ソロテックス)」なる商標の化繊生地が使われている。帝人グループの繊維事業会社、帝人フロンティアが販売するPTT繊維系の高機能素材だ。

伸縮性があって型崩れしにくい

PTT繊維は代表的な化繊であるポリエステルの一種だが、分子構造が異なり、生地の触感がソフトなうえ、回復力が高くて型崩れしにくく、シワも入りにくい。また、通常のポリエステル糸と組み合わせると、加熱染色時の収縮率の違いから混合糸がらせん状になり、高いストレッチ性を帯びる。ノースのパンツに採用されたのもこの高ストレッチタイプの生地だ。

これまでストレッチ素材の多くは、化繊や綿にゴムのような性質のポリウレタン弾性糸を混ぜたものが大半だった。しかし、ポリウレタンは劣化が早く、着用や洗濯を重ねるうちに型崩れしたり、ひび割れしてしまう。そこで帝人のソロテックスが新たなストレッチ機能素材として注目され、冒頭のノース以外にもアパレル業界で採用が相次いでいる。

たとえば、若者向けのセレクトショップでは、ジャーナルスタンダードが同素材のパンツやシャツ、ユナイテッドアローズはカジュアルスーツなどを発売。また、紳士服のAOKIも2017年秋にソロテックス生地のスーツを商品化し、いずれもストレッチの利いた快適な着心地や肌触りの良さ、型崩れのしにくさなどをうたっている。


ストレッチの利いたジャケット、パンツ、畳んでもシワになりにくいウィンドブレーカーなど、ソロテックスの特徴を生かせる用途は多い(記者撮影)

実は、このソロテックス、一時は消えかけた素材だった。帝人と旭化成が2002年にPTT繊維の合弁会社を設立し、ソロテックスの商標で関連生地の販売を開始したが、期待したほどは普及せずに業績が低迷。原糸の製造を担っていた旭化成が見切りをつけて事業撤退を決め、2010年に合弁会社は解散、商売がいったん途絶えた。

しかし、「この技術を捨てるのはもったいない」と帝人が原糸の調達先を新たに手配し、2011年に単独で事業を再開。当初は販売先の確保に苦労したが、徐々に採用が増え始め、この2、3年は毎年3割超のペースで販売数量が伸びているという。

ストレッチ素材の需要増が追い風

PTT繊維は東レなども手掛けるが、帝人は先頭に立って市場を開拓してきたパイオニアだ。「アパレル業界でソロテックスに対する理解が深まり、企画段階で素材に指名してくれるお客さんが増えている。あきらめずにやってきて良かった」。帝人フロンティアの東政宏・繊維素材本部長は、そう言いながら笑顔を見せる。

地道な営業活動が実を結んだ格好だが、衣料に対するニーズの変化も味方した。軽くて動きやすいなど、着ていてストレスを感じない衣料を求める消費者が増え、スポーツ分野のみならず、一般衣料の分野でもストレッチ機能素材の需要が拡大。こうした市場の変化が採用の強い追い風になっている。

日本の化繊メーカーは近年、衣料用分野で高機能繊維(素材)の強化を推し進めている。なにしろ、通常のポリエステルなど汎用化繊は安さが最優先され、コスト競争力の高い中国企業が席巻。日本勢が生き残るには、技術で差別化した高機能繊維を武器に戦うしかない。帝人グループで繊維事業を担う帝人フロンティアも置かれた状況は同じだ。


優れた機能性を消費者にもアピールするため、専用のサイトを開設するほどの力の入れようだ(ソロテックスのサイトから引用)

帝人フロンティアの衣料用繊維は年商約1200億円規模で、今の稼ぎ頭は独自技術を駆使した高機能繊維「デルタ」。ふくらみがあって触感がやわらかく、アディダスなど有名スポーツブランドのシャツに多く採用されている。ソロテックスはそれに続く新たな柱で、「デルタと並んでテキスタイル(生地)事業の成長を担う戦略素材」(東本部長)の位置付けだ。

素材のバリエーションを拡大

その販売を伸ばしていくため、高ストレッチタイプだけでなく、ソフト感を重視した生地や天然素材との混紡生地、さらには編み方・織り方が異なるタイプなど、素材のバリエーションを積極的に増やしている。昨年末には蓄熱・保温機能を持たせた「ソロテックスTHERMO(サーモ)」を発表し、2018年秋冬物での採用に向けた営業活動を始めた。

今後は海外ブランドによる採用も増えていく見通しだ。「これまでは国内のお客さんを中心に提案してきたが、欧米のラグジュアリー系やスポーツ系ブランドからも引き合いが増え、複数の商談が進んでいる。欧州、北米のファッション・アパレル業界でもソロテックスの認知度を上げていきたい」(東本部長)。

現在、帝人フロンティアはソロテックスのPTT原糸を台湾、中国の協力工場から調達し、日本と中国で生地化する生産態勢を敷いている。海外ブランドへの販売拡大をにらみ、今後は海外の生地加工拠点を増やし、供給能力を引き上げる考えだ。また、次世代ソロテックスの商品化を目指しており、そうした先端品専用のPTT原糸をタイの自社工場で製造することも検討しているという。